幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
女教師が突きつけていた窓、その中には、痩せ細った豚がいる。
だが、そこには先程とは明確な違いがあった。
その豚は、“彼”は、その手を高々と掲(かか)げていたのである。
ドルオタは、推しの危機に際し、最後の力を振り絞って立ち上がったのだ。
その姿は、まるで聖槍を掲げる勇者のようであった。
そう、彼の手には武器が握られていた。
一枚のカードが。
豚は、叫ぶ。
それを限度額まで使い切ると。
己自身の呪石(しんぞう)を担保にしてでも、ラリスキャニアを応援すると。
その発言に、地下アイドルは思わず息を呑み、女教師の表情が皮肉げな笑顔のまま固まった。
その沈黙に、“彼”の声が大きく響く。
それだけではない。
その声に、続くものがあったのだ。
巨大などよめき、音の波。
それは、遠い潮騒(しおさい)のように、またそれは、山々を渡る谺(こだま)のように、無数の窓から飛び出して来る。
無課金ファンたちの数え切れないほどの声援が、アストラルネットを通して、押し寄せてきているのだ。
風が吹いた。
どこかへと、駆け抜けていく風だ。
新たな、そしてこれまでとは異なる“窓”が開いたのだ。
それこそ、異界たる『現実』への“扉”。
風は、そこへと向かっていく。
熱気(ボルテージ)が上がり、“軽く”なった夢世界の空気が、冷え切った異界(げんじつ)へと吸引されているのだ。
“外”への、ここではないどこかとのつながりが、閉塞した今を打開していく。
その機を逃さず、ラリスキャニアは、己を拘束していた糸を引きちぎった。
沢山(たくさん)の言葉の衝突が、それをボロボロにしていたが、それだけではない。
それに止(とど)めを刺したのは、新たな“カギ”だった。
彼女の手には、虹のように輝く銀色の物体が握られている。
惑星を取り巻く環(わ)のような形状を持った、鋭利な平面。
それは、一枚の円盤であった。
そして、あたかもそれに促(うなが)されたかのように、彼女自身も声を出す。
叫ぶ。
上へ、遥(はる)か天へと向かって。
その時、不思議なことが起こった。
天上から、返事があったのだ。
〈中継、つながってますかー?〉
“興業主”は、即座に返答した。
「はーい!」
奇妙なことに、振ってきた問いかけも、それへの返事も、どちらも全く同じ声のようだった。
同一人物による、謎の自問自答。
声を受けた地下アイドルは、目を閉じ、上を向いて何かの訪(おとず)れを待ち受ける。
まるで、天使の降臨を待つ聖者のように。
果たして、待ち人は現れた。
流れる墨(すみ)のような影が、聖油のように降り注ぎ、枝角が生えた鎧姿の幻影が、天空から舞い降(お)りる。
少女姿のラリスキャニアと、男性的な戦士の姿が一つになる。
【独り聖婚】
それは、機械女王が確立させつつある、新たなる呪術基盤。
シナモリアキラ(サイバーカラテ道場)経由で噂神(エーラマーン)の囁(ささや)きとなり、今では、
第五階層全体の伝承となった都市伝説。
臨死による意識の変性(トランス)
『現実』と『夢』、そのどちらのラリスキャニアも死に瀕(ひん)したことによる、同調と共鳴。
それらが、都市伝説(げんそう)を、今ここに結実(けつじつ)させる!
異界とのつながりが、どこか遠くに、でも確実に存在している無数のアイドルたちとのつながりが、彼女を支え、力を与える!
だから、その業(ワザ)は、呼吸のように、ごく自然と放たれた。
「九回転!『無限大・触手・大抱擁(インフィニティ・テンタクル・ハグ)!』」
女教師の呪縛が、喉を締め付けていた見えない絞首の糸が、ばらりとほどける。
それを成したは、アイドルの両手から溢れる黒い糸。
無限に拡散する触手、ファンのもとに届ける彼女の愛!
そしてそれは同時に、一つの区切り。
この世界(ゼオーティア)における『完全』や『究極』を表す『九』の数。
そこへ到達し、地下アイドルはその師に言葉をかける。
「先生、質問です!」
「なんだ言ってみろ。
それがお前の限界を示す。
さあ言えそして無様に敗北しろ。
己が愚かさを悔やみながら我が偉大さを永久(とこしえ)に讃え続けるが良い」
そのやりとりは、槍を用いない戦(いくさ)であった。
「貴女にとってアイドルとは何ですか?」
「そんなこと、言うまでもない」
女教師は、侮蔑(ぶべつ)を滲(にじ)ませながらも言い放つ
「アイドルは事業!大衆に眠る欲望を扇動(アナログハック)し、それを己が糧とする絢爛(けんらん)にして凡庸(ゼオータイル)な消費財!
私のような支配者のために、富を搾り取ってくる鵜飼(うかい)の鵜(う)だ!」
それに対し、生徒は即座に叫んだ。
「違います!」
そして続ける。
「アイドル精神とは、暗闇(くらやみ)の中に道を切り拓(ひら)く覚悟のこと!
そして、まぶしすぎる『正義』と『秩序』の世界に、“安らぎの闇”をもたらすことです!」
「笑わせる!
『技能』の正答はこの私が定める!
貴様らは、所詮は用意された舞台の上でしか踊れない操り人形!
超越者たちの遊戯(ゲーム)の駒(コマ)であることしか存在意義(アイデンティティ)が無い、空っぽの存在に過ぎん!
貴様らは何者でも無いし、これからも永劫(エイゴウ)に何者にも成れない!」
「そんなことは、ありません!
ボクらは、アイドル!
たとえ一、二度死んでいても、それでも今を生きている(ライブ)実像(アイドル)なのです!
たとえ『地下』が、このアイドル迷宮が無くなったとしても…新しい舞台を見つけて、きっとどんなところでも羽ばたいていけます!」
その言葉を証明するかのように、無数の映像窓が、アイドルの周囲に展開。
次々と現れては消えていくその光は、まるでまたたく星のようであった。