幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第137話(その2の8~9)

女教師が突きつけていた窓、その中には、痩せ細った豚がいる。

 

だが、そこには先程とは明確な違いがあった。

 

その豚は、“彼”は、その手を高々と掲(かか)げていたのである。

 

ドルオタは、推しの危機に際し、最後の力を振り絞って立ち上がったのだ。

 

その姿は、まるで聖槍を掲げる勇者のようであった。

 

そう、彼の手には武器が握られていた。

一枚のカードが。

 

豚は、叫ぶ。

それを限度額まで使い切ると。

己自身の呪石(しんぞう)を担保にしてでも、ラリスキャニアを応援すると。

 

その発言に、地下アイドルは思わず息を呑み、女教師の表情が皮肉げな笑顔のまま固まった。

 

その沈黙に、“彼”の声が大きく響く。

 

それだけではない。

その声に、続くものがあったのだ。

 

巨大などよめき、音の波。

それは、遠い潮騒(しおさい)のように、またそれは、山々を渡る谺(こだま)のように、無数の窓から飛び出して来る。

 

無課金ファンたちの数え切れないほどの声援が、アストラルネットを通して、押し寄せてきているのだ。

風が吹いた。

どこかへと、駆け抜けていく風だ。

新たな、そしてこれまでとは異なる“窓”が開いたのだ。

 

それこそ、異界たる『現実』への“扉”。

風は、そこへと向かっていく。

熱気(ボルテージ)が上がり、“軽く”なった夢世界の空気が、冷え切った異界(げんじつ)へと吸引されているのだ。

 

“外”への、ここではないどこかとのつながりが、閉塞した今を打開していく。

 

その機を逃さず、ラリスキャニアは、己を拘束していた糸を引きちぎった。

沢山(たくさん)の言葉の衝突が、それをボロボロにしていたが、それだけではない。

 

それに止(とど)めを刺したのは、新たな“カギ”だった。

彼女の手には、虹のように輝く銀色の物体が握られている。

 

惑星を取り巻く環(わ)のような形状を持った、鋭利な平面。

それは、一枚の円盤であった。

 

そして、あたかもそれに促(うなが)されたかのように、彼女自身も声を出す。

 

叫ぶ。

 

上へ、遥(はる)か天へと向かって。

 

その時、不思議なことが起こった。

 

天上から、返事があったのだ。

 

〈中継、つながってますかー?〉

 

“興業主”は、即座に返答した。

 

「はーい!」

 

奇妙なことに、振ってきた問いかけも、それへの返事も、どちらも全く同じ声のようだった。

同一人物による、謎の自問自答。

 

声を受けた地下アイドルは、目を閉じ、上を向いて何かの訪(おとず)れを待ち受ける。

 

まるで、天使の降臨を待つ聖者のように。

 

果たして、待ち人は現れた。

 

流れる墨(すみ)のような影が、聖油のように降り注ぎ、枝角が生えた鎧姿の幻影が、天空から舞い降(お)りる。

 

少女姿のラリスキャニアと、男性的な戦士の姿が一つになる。

 

【独り聖婚】

 

それは、機械女王が確立させつつある、新たなる呪術基盤。

シナモリアキラ(サイバーカラテ道場)経由で噂神(エーラマーン)の囁(ささや)きとなり、今では、

第五階層全体の伝承となった都市伝説。

 

臨死による意識の変性(トランス)

『現実』と『夢』、そのどちらのラリスキャニアも死に瀕(ひん)したことによる、同調と共鳴。

それらが、都市伝説(げんそう)を、今ここに結実(けつじつ)させる!

 

異界とのつながりが、どこか遠くに、でも確実に存在している無数のアイドルたちとのつながりが、彼女を支え、力を与える!

 

だから、その業(ワザ)は、呼吸のように、ごく自然と放たれた。

 

「九回転!『無限大・触手・大抱擁(インフィニティ・テンタクル・ハグ)!』」

 

女教師の呪縛が、喉を締め付けていた見えない絞首の糸が、ばらりとほどける。

 

それを成したは、アイドルの両手から溢れる黒い糸。

無限に拡散する触手、ファンのもとに届ける彼女の愛!

そしてそれは同時に、一つの区切り。

この世界(ゼオーティア)における『完全』や『究極』を表す『九』の数。

 

そこへ到達し、地下アイドルはその師に言葉をかける。

 

「先生、質問です!」

 

「なんだ言ってみろ。

それがお前の限界を示す。

さあ言えそして無様に敗北しろ。

己が愚かさを悔やみながら我が偉大さを永久(とこしえ)に讃え続けるが良い」

 

そのやりとりは、槍を用いない戦(いくさ)であった。

 

「貴女にとってアイドルとは何ですか?」

「そんなこと、言うまでもない」

 

女教師は、侮蔑(ぶべつ)を滲(にじ)ませながらも言い放つ

 

「アイドルは事業!大衆に眠る欲望を扇動(アナログハック)し、それを己が糧とする絢爛(けんらん)にして凡庸(ゼオータイル)な消費財!

私のような支配者のために、富を搾り取ってくる鵜飼(うかい)の鵜(う)だ!」

 

それに対し、生徒は即座に叫んだ。

 

「違います!」

 

そして続ける。

 

「アイドル精神とは、暗闇(くらやみ)の中に道を切り拓(ひら)く覚悟のこと!

そして、まぶしすぎる『正義』と『秩序』の世界に、“安らぎの闇”をもたらすことです!」

「笑わせる!

『技能』の正答はこの私が定める!

貴様らは、所詮は用意された舞台の上でしか踊れない操り人形!

超越者たちの遊戯(ゲーム)の駒(コマ)であることしか存在意義(アイデンティティ)が無い、空っぽの存在に過ぎん!

貴様らは何者でも無いし、これからも永劫(エイゴウ)に何者にも成れない!」

 

「そんなことは、ありません!

ボクらは、アイドル!

たとえ一、二度死んでいても、それでも今を生きている(ライブ)実像(アイドル)なのです!

たとえ『地下』が、このアイドル迷宮が無くなったとしても…新しい舞台を見つけて、きっとどんなところでも羽ばたいていけます!」

 

その言葉を証明するかのように、無数の映像窓が、アイドルの周囲に展開。

次々と現れては消えていくその光は、まるでまたたく星のようであった。

 

 

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