幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
不死者や紀人相手の戦いでは、物理的ダメージより、精神的・社会的ダメージや評判(めいせい)毀損(ダメージ)の方が効果的。
だから、どうしても彼女は……
「これほどの消費を、どう帳尻合わせる!
全員で破産して心中でもする気か!」
このように、『呪文』戦の土俵で戦おうとしてしまう。
しかし、経済論やデータの突きつけあいという、ラクルラール得手の舞台に持ち込もうとしたその発言も……
地下アイドルが、宙空に描き出した画像によって遮(さえぎ)られてしまう。
それは、描かれるや否や、凄(すさ)まじい速度で移動し、
文字通り女教師目掛けて飛び掛かってきた!
もちろん、その途中には張り巡らされた糸の防衛網、物理と呪術の両面から、水も漏らさぬ鉄壁の防御が敷かれていた…そのはずだ。
けれど、地下アイドルの攻撃は、その厳重な防御を掻(か)い潜り…ラクルラールの顔面にひらり、と張り付いたのだ。
そう、ひらり、と。
それは平たい――小さな一枚の紙のような、幻像だった。
「なんだこれは!
こんなもので悪あがきのつもりか!」
元学園長が、こんなにも吠(ほ)え猛(たけ)るのも、無理はない。
それは本当にありふれていて…どこにでもある量産型(コモディティ)な幻影(イメージ)だったのだから。
先程のような、限定生産のポスターでも、女教師を見事罠にかけた“卒業証書”ですらない。
ラリスキャニアの画像こそあるものの、その造りは荒く、急造品であることは丸分かりだった。
しかも同時に、それと同じ幻像が、地下アイドルたちを取り巻く全ての幻影窓に、映し出されている。
それは本当にこの世界のどこにでもある――立体幻像のチラシ、広告であった。
それについて目についた難点を、ラクルラールは大声で指摘する。
「偽札の賄賂(わいろ)など、文字通り一銭にもならん!
貴様の価値であの聖騎士の猿真似(さるまね)など片腹痛いわぁ!」
言われたように、それは、一枚の紙幣の姿をしていた。
誰がどう見ても、偽札かそれを模したおもちゃである。
だが、ラリスキャニアは、それでも声高な自己弁護を諦めない。
「違います!それこそは究極のアイドルグッズ!
あの歌姫spearの襲来…来訪にさえ対抗出来る!
とっておきの新アイディアです!」
それも、実に胡乱(うろん)な言い訳である。
「ハッ!お前如(ごと)きにそんなことは不可能だ!
だがそれでもこの私を納得させたいならせいぜい自慢の舌(しょくしゅ)を踊らせてみるが良い!
さあ言え今言え資料と根拠(ソース)と図表(グラフ)を出せ!」
それでも、
「ご存知ですか?
第五階層の制定貨幣、グレンデルヒ札(チケット)が、いったい幾つの電子マネーや呪力貨幣と交換できるかを?
ですがそれも、交換可能性が無ければただの紙屑!
せいぜい、ただの消耗品の防御アイテムでしかありません!
紙幣の価値を決定するのは、使用価値ではなく交換価値!」
地下アイドルは、食い下がった。
“興行主”として、ラリスキャニアが並べ立てる宣伝文句。
それは、うろ覚えの知識の即席な寄せ集め(ブリコラージュ)でしかなかった。
だがそこには、間違いなく熱量があった。
熱、勢い、情熱、そして未熟さと表裏一体の若さあるいは青臭(あおくさ)さ。
それは、遠い昔に女教師が失ってしまったものであった。
通常なら、これだけ無理矢理に己が幻想(ヴィジョン)を振り撒けば、『小鬼』に堕ちてしまうこと間違いない。
だが、彼女にとって、いや彼女たちにとって、そんな心配は無用だった。
なぜなら――
「だって、アイドルは!
その価値は!」
積み上げた円盤は天にも届き、星にだって手が届く!
そして、ラリスキャニアは、その手を大きく広げ種(しかけ)を明らかにした。
「みんなの笑顔のために、存在しているのだから!」
地下アイドルの手から、莫大(ばくだい)な量の何かが噴き出す。
それは、無数の紙の束。
先ほど画面に出した、ラリスキャニアの顔が描かれた紙幣だけではない。
そこには、さまざまな顔があった。
男も女も両性も無性も倣性(ほうせい)も、美女も美男も美少女も、中年も老人も大人も子供もシナモリアキラも。
それらのヒトビトには、二つの共通点があった。
一つは、魅力。
彼ら彼女らは、皆、等しくなんらかの意味で魅力的だった。
そして、もう一つは言うまでもなく……
「コイツらは…!」
その事実に衝撃を受けた元学園長は、大きく叫んだ。
「地下アイドル全員の紙幣だと!
何を考えている!
その程度の下らないお遊びでこの第五階層の経済を破綻(はたん)させることが出来るでも思っているのか!」
怒りを研ぎ澄ませ、敵手を怒鳴(どな)りつける女教師。
しかし、やはり対戦相手は涼(すず)やかな声でこれを躱(かわ)す。
「それは、地域通貨(ローカルチケット)ですよ、先生。
アイドルであるボクの、そしてボクたちの価値は、ボクたち自身が守り、交換を続けることによって維持し、それぞれの活躍によって、殖(ふ)やしていくのです!
アイドルとファンが価値を保証する、アイドルの、アイドルとファンによる、アイドルのための市場が!」
そして、彼女は宣言する。
「ボクたちアイドルが、皆を養うって言ってるのですよ!」