幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
それは、呪いだった
恩讐、愛憎、無関心と執着、乖離 信仰と離脱
親密と離人、すべての関係性、信念、思想、それらを表現し、つねにすでに再加工し続ける『呪文』(ことば)
、それらの根源たる認識と、基盤たる身体。
そのすべては、善であると同時に悪であり、どうしようもなく正しく、また整えようがないほど間違っていた。
それは、あらゆる関係性、あらゆる束縛、全てのものが互いに干渉し合い、痛みと傷,そして悲しみや喜びを交換し合う心の市場。
けれど、だからこそ世界は――どこまでも呪いに満ちて美しかったのだ。
しかし、その呪いの輪に加われなかった、加わろうとしなかったアイドル教師も、ここにいたりする。
「理解できん!
狂っているのか!」
言わずと知れたラクルラールである。
そして、
「させるかぁー!」
ここへ来て、ついに女教師が更なる攻勢に出た。
それまで彼女が、手の中で弄(もてあそ)んでいた網状の糸が、たった一挙動で、塔か槍のような形に変わる。
それに応じ、宙空に無数の線が走った。
そして重なる。
ケーキにチョコレートで網をかけるように、縦横(じゅうおう)に走る糸は、重なる刃の篩(ふるい)となり、敵対者を、挽肉(ミンチ)にしようと押し寄せていく…!
其(そ)を名付けて、【線の嵐・圧斬】
天才(もてるもの)のみが可能な、応用強化(アレンジ)攻撃呪術が迫る!
だが、その対象たる地下アイドルは、両手が黒糸で塞(ふさ)がっていた。
その黒糸は数多(あまた)の方角へと延びていく、巨大な網(ネットワーク)と接続されている。
10回転目のマジカルアピール『再演共演の絆』は、ヒトとヒトとを、変形させた触手を以(も)って繋(つな)ぐ業(ワザ)である。
つまり、攻撃や切断と、非常に相性が悪い。
しかも、このシステムの運用者は、その運営のために全力を注がねばならない。
一流の呪術師ならいざ知らず、単なる地下アイドルの処理能力では、こんな巨大なシステムを運用することは、極めて困難だからだ。
思いつきで、壮大な構想を練ってはみたものの、このシステムの“興行主”は、ネット小説にしか出てこないような全能神や、その霊媒などでは決してないのである。
余力も能力も、不足して当然。
結果として、自力での防御も回避も困難になるのも、また必然であった。
無防備な地下アイドルに、強烈な攻撃が降りかかる!
ラリスキャニア、危うし!
だが、それは寸前で防がれる。
それをなしたのは、新たなる腕。
しかし、そうは問屋が卸(おろ)さない。
ラクルラールは許さない。
間髪(かんぱつ)入れず、次の連撃が放たれる。
地下アイドル目掛け、新たなる網の刃が殺到。
今度こそ、あっという間に、腕は細かく切り裂かれた…と思いきや、それはめん(スパゲティ)のようにバラけ、無数の触手となる。
放つ業(ワザ)は、こちらも同じく【線の嵐】
空中を切り刻む無数の青い糸に対し、こちらも同じく無数の黒ーー限りなく細く研ぎ澄まされた漆黒の触手の群れが迎え撃つ。
業(ワザ)自体、その単発の威力ではラクルラールに劣っている。
けれど問題無い。
その腕は、一本や二本ではないからだ。
何本もの腕が唐突に現れ、次々と糸状の細い触手にバラけ、迎撃に加わっていく。
そして、激突。
音速を超えた糸の斬撃が大気を弾き、風船でも割ったかのような、軽い音を響かせる。
パァン、と。
打撃の音が、宙空を渡る。
相殺の成功を、知らしめている。
迎撃、成功。
ただ、それに用(もち)いられた腕は、ラリスキャニアの身体からは生えていなかった。
分身の身体からも、生えていない。
それが出現、いや“生成”されたのは……
「なんだこれは!
誰の仕業だ!」
女教師の怒声が響く。
その声に応(こた)えて無数の動画窓が明滅し、辺(あた)り一面に張り巡らされた黒い網が、生物のように脈動する。
それは、地域通貨網(ローカル・チケット・ネット)それ自体からの、反撃だった。
迎撃しているのは、システムに参加している全アイドルなのだ。
魔将エスフェイルの反射防御の応用。
『青い鳥』(ペリュトン)の擬似細胞を使った、生きた機構(システム)である。
グレンデルヒ戦やラクルラール戦、死の女王島で活躍したシナモリアキラロボがそうだったように、第五階層では、このような協力呪術儀式は、わりかし普通(ポピュラー)なのだ。
但(ただ)し、それを成立させること、機構を演じる者の負担が軽いなどとは…誰も言っていない。
こういった高度な呪的システムには、普通は端末、あるいは仮想使い魔やレゴンなどの使い魔を使うものである。
それをなぜ、触手による人力再演にこだわっているかというと…
(これでも入出力の感度は、通常のせいぜい一千倍。
今や、第五階層そのものと化したシナモリアキラなら、おそらくこの三倍以上の刺激を常時受け取っているはず――負けるわけにはいかない!)
ラリスキャニアが抱く、宿敵(ライバル)としての自負、対抗心。
そういった、情念(じじょう)であった。