幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
パァン!
パァン!
破砕音は連続する。
青い糸が、回避を阻害し威力を高めるため弧を描いて接近し、黒い糸もそれに対抗するため同様の軌道で相殺を図(はか)る。
攻撃と迎撃は連続し、対となったそれらは疾風(かぜ)として夢空間を覆い尽くす。
いつしか、嵐が巻き起こっていた。
振り下ろされる無数の線の斬撃、蝶の羽ばたきにも似た二人の攻防は、中心に相殺の空白という『嵐の目』を持った巨大な旋風を形作っていたのである。
永久に続きそうにも思える、高速の連撃。
相殺の乾いた打撃音は連続し、拍手となって響き続ける。
そしてそれは,瞬(またた)く間に喝采の嵐となって、空間全体を塗り替えていく。
嵐は、吹き荒れ、ただひたすらに続いていった。
もはや、それは我慢比べ。
どちらが先に呪力が尽きるか、あるいは、相殺に失敗して破滅するか。
互いに限界を競い合う、耐久戦。
互いの全力を尽くした、技芸の綱渡りである。
この場合、失敗(ワンミス)は、死を意味していた。
だが、その終わりは、意外とあっけなく訪れる。
ラクルラールもラリスキャニアも、そのどちらもまだ限界を迎えてはいない。
にも関わらず、この演目は唐突に終わってしまった。
師弟二人の変形的な対決に、耐えられないものもあったのだ。
ラクルラールが従えていた、校舎の巨人である。
いくら超一流の呪術師、絶大な呪力と技術を誇る紀人が創ったといっても、巨人の材料はありあわせの瓦楽多(がらくた)である。
そんな素材で、こんな猛攻を耐えきれるわけがない。
だから、それは不意に巻き起こる土砂崩れのように。
ある瞬間、巨人はあっさりと砕け散った。
罅(ヒビ)が入り、亀裂が走り、割れ目が大きくなり…そして、くす玉のように弾け飛ぶ。
まるで、誰かを、あるいはこの場を共有する全ての人びとを、残らず祝っているかのように。
巨人の消滅。
それは、女教師の保有戦力が大幅に低下したことを意味する。
だが、それで終わるわけも無い。
※
その時、何かが空間を震わせた。
最初に異変に気づいたのは、ウサギたちーー月の民のアイドルたちだった。
彼女たちは、その鋭敏な聴覚が幸(さいわ)いして、いち早くそれに気づくことが出来たのだ。
いや、この場合“災(わざわ)いして”と、言うべきだろうか。
ウサギたちは、残らず倒れ伏し、白目を剥(む)いている。
当然、即座にイメージ借用契約が発動、アイドルイメージを崩しかねない肢体(したい)は、適当なぬいぐるみに置換されたが…それはそれとして、異常事態が発生していることには変わりない。
警報!(アラート!)警報!(アラート!)警報!(アラート!)
攻撃を受けている。
それも、全くの不可視の干渉を。
ただ、ウサギたちのおかげで、脅威の正体だけは即座に判明していた。
音だ。
強大な音波。
それも、そうした攻撃への対策を万全にしているはずのウサギの防壁すら、容易に突破するほどの威力。
規格外の攻撃呪術。
同時刻、“興行主”は、感知していた。
せっかく張り巡らせた黒網(ネットワーク)のあちこちが、次々と断線していくのを。
音とはすなわち、万物を伝達する衝撃の波。
むき出しの黒糸を破壊するには、最適な破壊手段である。
これは間違いなく、追い詰められたラクルラールの反撃であった。
問題なのは、そんな音を一体どうやって発生させているのか、ということ。
今回のケース、たとえ解析を専門とする呪術師であっても、一見しただけでは、真相に気づくのは不可能だったかもしれない。
ただそれは、その人物が、第五階層以外の住人であったなら、の話だ。
現在、当の女教師はと言えば、上体をのげぞらせ、宙空に手を広げて蠢(うごめ)かせている。
まるで服毒したかのような、掻(か)きむしりのポーズ。
だが、そんなわけがない。
あれは、ラクルラールなのだ。
いかに劣化した再演体(シミュレート)であったとしても、アレが、たかが生徒たちに追い詰められた程度で、自害を試(こころ)みるわけがない。
その自尊心(プライド)と傲慢(ごうまん)さは、天井知らず。
元生徒たちの間では、世界槍でさえその高さには到底敵(かな)わないと評される、不遜(ふそん)極まる魔女。
それが、何か怪(あや)しげな動きをしているとなれば、十中十九の割合でこちらへの呪いに違いない。
その件については、全ての第五階層住民(かのじょのもとせいと)が同意見だったろう。
それは、今更意見を確かめ合うまでもない、不朽(ふきゅう)の真実であった。
ゆえに、分析は対象の再視認と同時に、即座に実行されていた。
もっとも、今回の仕掛け(トリック)については、わざわざ調べるまでもなかったのだが。
もちろん、伝達網(ネットワーク)が寸断されつつあるなかでも、サイバーカラテ(シナモリアキラ)系アイドルたちの分析報告(レポート)が、続々と届いてはいる。
だが、これならば、ラリスキャニアでも一目で分かる。
なぜならそれは、芸能関係者(アイドル)にとって、ひどく馴染(なじ)みのある原理だったからだ。