幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第150話(その2の18~19の途中まで)

宙を掻(か)く、もがくような、あの姿。

あれは、“演奏”なのだ。

 

女教師の、指の先。

よく目を凝こらせば、見えてくるはずだ。

 

天地を繋(つな)ぐ、無数の線。

空を切り裂いているような、たくさんの糸の存在が。

 

不可視の楽器は、最初からそこに用意されていたのだ。

 

糸、いや弦。

それは、巨大な琴(ハープ)であった。

鍵盤楽器であるピアノやチェンバロが、実はその内部に糸を必要とする『打弦楽器』であるように、糸/弦は、多様な音階を奏でられる楽器とも成り得る。

 

特に、ピアノはその鍵盤だけで、霊長類の平均的な可聴域の音階を残らず網羅していることで、知られている。

 

つまり、弦の楽器は基本的(ゼオータイル)な全ての楽曲を、再演可能なのだ。

 

それは、音楽呪術的には、万能の演奏呪具として解釈出来る。

 

そして、仮にも芸能を専門とし、『杖』(どうぐ)に熟達する者であるならば、『楽器』に関わっていないはずかない。

アイドル学園の元学園長が、弦楽器を扱えない道理がなかったのだ。

 

その演奏目的は、もちろんネットワークの破壊に違いない。

あの女教師は、糸(スレッド)と網(ネット)の専門家。

彼女にとって、関係性の網の目を効率良く破壊するなど、朝飯前と言うことなのだろう。

 

よって、攻撃の対象はラリスキャニアを含めた空間全てに及んでいた。

 

しかも、空間自体に、立体的(さんじげん)に作用する音の影響は、盾などでは防げない。

いかに地下アイドルネットワークが、複数部品(パーツ)による分散構造だと言っても、その全てに同時に干渉されては、なす術(すべ)がないのだ。

 

更に、被害はそれだけではなかった。

ラリスキャニアは、頭上を見上げて歯噛(はが)みする。

地下アイドルは、彼女の命綱、左右にそびえる円盤塔に、大きな損傷(そんしょう)を発見したのだ。

 

いかにファンたちの想いの表れ、アイドルの呪的権威の象徴と言えど、円盤それ自体は、ただの記録呪具である。

武器でも防具でも、神滅具でもない。

変形や衝撃には、格段に弱いのである。

 

ラクルラールの音波攻撃によって大ダメージを受けたのも、当然のことであった。

 

円盤には、次々とヒビが入り、今にも全てが砕けそうだ。

これではもう、上昇の支えとして用いることは、不可能であろう。

 

とは言え、ラリスキャニアにとって、現状にはメリットもある。

断線のおかげで、両手が自由になったのだ。

 

そしてだからこそ、出来ることもある。

 

そこで彼女は、まずわずかな通信だけを行ったあと、完全にネットワークを解体。

二重の翼による浮遊(ホバリング)へと、体勢(スタンス)を切り替えた。

 

現在、ダメージを最小限に抑えられているのも、こうした接続によって、肉体を擬似的に拡大させていたおかげではある。

だが、それは同時に、負荷を全員で共有しているということ。

いつまでもそうやって凌(しの)ぐわけにはいかない。

 

うずめの脱衣リアクティブアーマーといった、防御呪術でさえ、現状のような、全員に同時に被害が及ぶ状況では有効に機能しないからだ。

リカバリー対象があまりに多すぎて、重ね着するアイドルTシャツが、何枚あっても足りないのである。

 

ネットワークを維持したままであったら、遠からず全滅してしまったことだろう。

これ以上、被害を拡大させるわけにはいかないのだ。

 

そして彼女は、それらの行動と同時に、

 

「先生、これをどうぞ!」

 

懐(ふところ)から、物を投げた。

「命乞いなど今更受け付けんぞ!」

 

だが、そうは言いつつも、ラクルラールは目の前の投擲物(とうてきぶつ)を、じっくりと観察していた。

それは、彼女が長年に渡って賄賂や歳暮(つけとどけ)を貰ってきたがゆえの、悲しき習性であった。

なにしろ、その多寡(たか)は、社会的な権威を示す。

積み重なった贈り物(プレゼント)の質と量は、そのまま、贈られた者を測(はか)る物差し(バロメーター)となるのである。

 

自尊心の固まりのような女教師が、その存在を、無視出来るわけがなかったのだ。

 

もちろん、それでもラクルラールは、油断など一切していない。

 

だがそれでもこの場合、どうしても攻撃の手を緩(ゆる)めざるを得なかった。

音波による無差別攻撃にむらが発生し、女教師の周囲だけを守る“音の城壁”へと、姿を変える。

 

だからといって、彼我(ひが)の戦力差には全く変わりがない。

トントロポロロンズの保持呪力程度の変化も、ない。

 

だが、それでもそれは、どうしようもなく隙(すき)であった。

なにしろ、ラリスキャニアが投げた物体を、展開した障壁に着弾させてしまったのだから。

 

それは、たまたま身近にあったものを、とっさに利用しただけの、出たとこ任せ(ブリコラージュ)な戦術であった。

 

だが、これが効果絶大。

 

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