幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
ラクルラールが創り上げた“音の壁”は、物質的実体を持たない、一種のエネルギー障壁である。
その強度は、女教師の使用呪力と演奏技術そして音量に比例し、その破壊は、同等以上のエネルギーを用いなければ、絶対に不可能。
【静謐】で除去するにしても、それなりの呪具や呪文技術などが必要となる、高度な呪的防御なのだ。
けれど、その条件はほぼ偶然のうちに、満たされていた。
それは、ラリスキャニアが、地下アイドルオタクが肌身離さず持ち歩いていたもの。
そしてつい先程まで、彼女が愛用していたもの。
すなわち、この練習ライブの“興行主”が投擲(とうてき)したのは、アイドル情報を記録した円盤、その欠片(かけら)である。
「だ、だがそんなもの!」
そのような攻撃に対しても、対策は、当然行われていた――はずだった。
逆位相の波長による、音波の相殺。
丁度、どこかで誰かがやったように、それは音響系呪術に対する特効策であった。
ラリスキャニアが投げた円盤にいかなる力があろうと、
その楽曲を特定さえすれば、呪力の力量差(ちからおし)を以(も)って、効果を打ち消すことなど容易(たやす)いこと。
そのはずだったのだ。
だから、女教師は、勝利の事実を宣言した。
するはずだった。
だが…
「貴様の使用楽曲程度残らず覚えられない私だと思ったか!」
「もちろん思っていませんよ!
ほら!」
その時、不思議なことが起こった。
それまで障壁は、限界まで水を入れたコップのような、力に満ちた状態を示していた。
その力場は、未(いま)だに空気中を漂(ただよう)巨人の残骸どころか、その塵(ちり)一粒(ひとつぶ)すら、寄せ付けない。
かえって退(しりぞ)けた塵で、ドームを形作る始末だった。
だが、そこに。
チャポン、と。
浮かぶ波紋。
更に、水を注いだ氷のような、亀裂の音が走る!
それこそ、防壁に、硬貨のような物体が、いくつか入り込んだその証(あかし)。
そう、本来なら容易(たやす)く防がれるはずの円盤が、あっさりと防壁を貫通していったのだ…!
「こ、これは!
お前の円盤ではないのか!?」
「はい、違いますよ先生!
これは、ボクの同盟者(なかまたち)から託(たく)されたものです!」
そう、それはラリスキャニアに反撃を託した、仲間たちの円盤であった。
先程の通信は、その攻撃への使用許可の確認であったのだ。
とは言え、
「だからどうしたっ!
その程度で勝ったつもりか?」
そう、本来ならこの程度は、なんでもない。
このような強大な防壁を完全に無効化するには、どうしてもその防御力を超えるほどの威力…呪力なり破壊力なりが、必要とされるからだ。
多少防壁を抜いた程度では、あまり意味がないのである。
必要とされるのは、高価な攻撃呪具、高度な呪術戦(ハッキング)能力、そして強力な呪術。
そんなものを、一介(いっかい)の地下アイドルが、持ち合わせているわけがない。
少なくとも、ラリスキャニアにとっては、どれも縁がないはずであった。
彼女には破壊力などほぼ皆無だし、高度な呪術を教えてくれるアテも同じく皆無だった。
――ただ一つの例外、いや一対の教師たちを除いては。
そう、たった一つだけ地下アイドルが目撃し、自ら体得…その身を以(も)って覚えることが出来た呪術も、存在したのだ。
それは、他でもない、目の前の“恩師”が教えてくれた手段であり……
その名も、
「11回転!予言されし終端(ブレイスヴァ)の魔弾!」
そして、地下アイドルは、出し抜けに自らの眼窩(がんか)に指を突っ込んだ。
もちろん、ただの演技だ。
いかに、粘土のような身体(ボディ)を誇る『青い鳥』(ペリュトン)といっても、そう容易(たやす)く、自分を破壊したがるわけがない。
目的は、再演。
予言王の力を模倣した、魔弾の発射である。
その威力は、折り紙付きであった。
なにしろ、まさに眼前の“恩師”が愛用していたのだ。
強度についても、超越者ニ柱の激闘(ラリー)に耐えるほどのもの。
ならばこそ、この決戦に用いるのに、これ以上相応(ふさわ)しい業(ワザ)は、そうはあるまい。
当然、その発動には大量の呪力が必要とされるが…ラリスキャニアは、“前世の克服”という伏せ札を用いて、これを解決。
彼女は、前世を、その悪名と罪業を受け入れる。
受け入れて、超えていく。
それは文脈となり、やがて勝利へと至るための布石(フラグ)となって地下アイドルに力を与える。
これにて、本来の力量を超える絶技も、発動可能となったわけだ。
ラリスキャニアが、とりだしたその偽(いつわ)りの“眼球”を投擲(とうてき)すれば、それは十字の光を放ち、魔弾となって飛翔する。
そして、何か絶大で恐ろしい気配を放ちながら、あらゆるものを消し去る魔弾として、目の前の相手に襲い掛かるのだ!
とはいえ、これは本来、ラクルラールが考案した業(ワザ)である。
だから当然、
「もう一度繰り返そう勝ったと思ったか?こんな業(ワザ)容易に対処可能だ!」
そう叫ぶや否や、女教師は相手と全く同じ業(ワザ)を放った!