幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
二つ目の魔弾が、迎撃のために宙を飛ぶ。
いや、よく見なくても、その二発目は全く同じではなかった。
より大きく、より力強く、そしてより美しい輝きをそれは放っていた。
その原因は、考えるまでもなく師弟の技量の差に、由来している。
しかも、
「最後の講義だ傾聴せよ!
これが『倍返し』だ!」
そこに加え、こんな展開が待ち構えているのも、また道理であった。
思い上がった生徒に対し、同時に二つもの魔弾が、懲罰(ちょうばつ)として撃ち返される!
“ラリスキャニアの眼球”を模倣しているせいか、それ以上は放っては来ないが、二倍の数はそれだけで大いなる脅威である。
しかも、これらは――前述したように――“興行主”が放ったものに比べ、格段に完成度が高い。
ゆえに、再演媒体としてもこちらの方が、圧倒的な優先度を誇るのだ。
そしてそれは、引喩と参照、すなわち類感の呪術を行ううえで、決定的な格差の存在を意味していた!
だがその時、空間に残る動画窓たちは、目撃した。
「予測済みです!」
そう、もちろん、それも予測済みだった。
既知の手段を以(も)って攻撃すれば,同じく既知の応手によって迎撃されるのは、理の当然。
ゆえに、反撃の必然性は、おぼろげな前世の記憶よりも遥かに明確だった。
何より、“恩師”の手強さを、その生徒が知らないわけがない。
よって当然、急拵(ごしら)えとは言え、対策は全力を以(も)って用意されていたのだ。
実のところ、この魔弾は単なる囮(おとり)
相手を驚かせ、その対処に集中力(リソース)を割かせることが、本来の目的である。
要は、次のより強力な業(アピール)を放つための隙さえ作れれば、それで良い。
本命は、その次。
だが、それは困難な挑戦でもあった。
放つためには、相当な集中力が必要とされるのだ。
数多くの業(ワザ)を模倣してきたラリスキャニアと言えど、こればかりは、失敗の可能性がかなり高い。
なにしろこれは、古代ヒュールサスから伝わる神話級の演技なのだ。
その名もーー
「12回転!世界破滅(ほろぼ)す火竜の吐息!」
未だ起こらざる世界の滅亡を、再演する業(ワザ)なのである。
そこで地下アイドルは、両手を振り払うような、独特の演技を放った!
それを見て、女教師はせせら笑う。
「馬鹿な!
『夜の民』に炎の業(ワザ)など使えるわけがない!」
だが、ラリスキャニアは、それに一歩も退(ひ)かずに言い返す。
「いいえ、それはもはや間違いです!
ボクらは既に、新しい神話の時代に生きているのですから!」
その言葉と同時に、異変が生じた。
空気中に漂っていた塵や飛散した破片が、まるで何かに飲み込まれるように、ぽっかりと消えていくのだ。
だが、何も見えない。
ブレイスヴァのような、強大な気配も感じられない。
とっさに下を確認したラクルラールは、異変の正体に即座に気づく。
探していたものは、そこにあった。
それは、見えざる影を落とす、巨大なる暗黒の太陽。
つまり――
「影の炎だと!?
その業(ワザ)は!」
「そう、これはかの『守護の九槍』の新たな第九位の再演でもあります!
英雄アズーリアの力なら、貴女の強引な教育暴力なんて、一切寄せ付けません!
英雄はみんな、古びた教え、先入観なんてあっさり超えていく!
ボクは、貴女という神話を超えるアイドルに!
闇の太陽になってやります!」
それは、『夜の民』では本来成し得ない謎の古代演技“世界滅亡の炎”(せかいえんじょうおち)を、再演するための苦肉の策にして、逆転の一手。
なんと地下アイドルは、アストラル界を主体とする炎を放っていたのだ。
『夜の民』もそうでない者も入り混じるこの夢世界においては、半(なか)ば実体として表現される、漆黒(しっこく)の炎を。
それは、まだ市井の人々が、誰も見たことがないアストラルの奇跡。
『夜の民』にも操作可能な、『炎』の具現化。
英雄アズーリアが成し遂げたという、前代未聞の偉業。
ラリスキャニアの持つ強い意志、英雄に追いつき、自らもまた舞台の英雄たらんとするその志こそが、見事、この業(ワザ)を成立させたのだ!
もちろん、再演に必要な情報は、その多くが不足していた。
確かに、アズーリアは新進気鋭の英雄である。
そのメディアへの露出は多い(シナモリアキラ的な意味ではなく)
とは言え、その戦術や特技となると、それはもはや軍事機密の領域なのだ。
彼女の師匠が上級言語魔術師であることもあり、その詳細は、クロウサーの邸宅のように雲に包まれている。
けれど実質的には、あまり問題は無かった。
なにしろ、言ってみれば舞台でのお遊戯(プレイ)である。
それに古来より、演劇それも英雄劇ともなれば誇張や捏造(ねつぞう)は、むしろ当たり前。
そこに描かれる英雄像が、九流念写写真週刊誌より更に不正確であることすら、ざらである。