幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
疑問は残る。
だがいずれにせよ、こんな絶好の好機を逃すわけにはいかない。
だから、
「いっけええええー!」
ラリスキャニアは、持てる呪力を注ぎ込み、そのまま押し切った。
ここで『やったか!』などと復活の文脈を発動させるわけにはいかない。
長期戦は、どうしても地力の差が出てしまう。
そうなれば、こちらが圧倒的に不利だ。
そして、巨大な爆発が巻き起こった。
糸が、巨人の残骸が、影の太陽が落とす不可視の実像によって焼き尽くされていく。
爆煙が、辺(あた)りを包み込んでいく。
そこへ間髪(かんはつ)入れず、地下アイドルは手刀を構えた。
あのアイドル迷宮第二位の業なら、多少再演精度が不充分でも、決め手としては問題ないだろう。
女教師の文脈操作が来る前に、たたみかける…!
そして、彼女が斬りかかろうとした、その直前だった。
稲妻が、落ちた。
そうとしか認識出来ない閃光、それに衝撃。
その原因は、やはり言うまでもない。
「ラクルラール…!」
文字通り、目にも止まらぬ攻撃。
地下アイドルの腕は、一瞬のうちに切り飛ばされていた。
切り離された、ラリスキャニアの右腕。
それは、昼休み休憩の球技のように、いっそ冗談のような勢いで天頂高く、跳(は)ね飛ばされていく…
「『先生』をつけろこの欠陥品が!
そして後悔を胸一杯に抱いたまま――死んでゆけ!」
攻撃に遅れて贈られたのは、侮蔑(ぶべつ)の言葉、そして勝利宣言。
だが、今のラリスキャニアには、もはやそれさえ、どこか遠くで囁(ささや)かれているように思えていた。
意識が、遠くなっている。
地下アイドルは、もはや力尽き、文字通り抵抗の術(すべ)を持てていない。
確かに、右腕の切断は重傷だが、それだけではない。
身の丈(たけ)に合わない高度な業(ワザ)の連発による疲労、過負荷。
呪力の消耗、予想を上回る反撃を受けたことによる精神的衝撃、戦術の破綻(はたん)による混乱と恐怖。
そして、不安と絶望。
それら全てが、彼女を底なし沼のような停滞へと、落とし込んでいた。
ついに、均衡が崩れたのだ。
弱者が強者になれるわけもない。
力の差がある。
分かっていた。
それが、歴然たる格差であり、超えられない存在の級位であることも。
それはちょうど、いかに派手に引退ライブで惜しまれているアイドルがいたとしても…その者が、迷宮上位に敵(かな)うわけがないようなものなのだ。
差は差、天地の距離のように、絶対に埋められないものなのだ。
ラクルラールは、単にちょっと調子が悪かっただけなのだろう。
あるいは、"妹"の演技をしなければならなかったことが、思わず本気を出さなければならないほど嫌だったとか。
あの女教師のことだ。
日頃から、押し付けがましいとか上から目線だとか。
あるいは、事あるごとに相手の取り分を奪っているとかで妹たちに激しく嫌われ、それを逆恨みしていたとしても…全く違和感はない。
きっとそうだ。
そう、彼女は昔から、姉妹で一緒に楽しくゲームをしたり、同じ愛玩物(おもちゃ)を分け合ったりするような温(ぬく)もりなんて、全く持てて来なかったのだろう。
だからこそ、『守護の九姉』なんていう厳(いかめ)しい称号だけ押し付けられて…奉られ/隔離されている。
それこそが、あの女の実態に違いない。
いや、違う。
今は、そんなことを考えている場合ではない。
取れた腕が右か左かの違いこそあれ、現状はかのシナモリアキラと同じ状況である。
ならば、助かるか?
否、だってラリスキャニアには運命が無い。
『猫の国』(いかい)の神話に曰く、太陽に近づきすぎた文明は墜落し、破滅するという。
どれだけ高度な『杖』を誇ろうとも、神に至ることは絶対に出来ない、という良くある訓話だ。
絶対の禁忌。
不敗の高度制限。
音速の壁ぐらいは超えられても、光の速さを上回ることは誰にも出来ない。
出来るとしたら、それは光の側の存在、本物の超越者や神々だけだ。
今、まさにその神の一柱が、地下アイドルを傲然(ごうぜん)と見下ろしていた。
天上と地下、その落差こそがそのまま両者の力の差を明らかに示している。
それは、まさに“最適”だった。
こちらの攻撃を見越した先制、同じ“手刀”という攻撃手段。
しかも、こちらが片手のみの手刀に留(とど)まったのに対し、あちらは、両手に白刃(はくじん)の輝きを宿している。
参照先を同じくしながらも、圧倒的に優れた再演であることが一目瞭然(いちもくりょうぜん)だ。
なにより、この戦術は天敵なのだ。
なにしろ、ラリスキャニアが演じているのは“興業”なのだから。
それは、命懸(いのちが)けの練習試合。
それゆえに、そこには観客を想定しなければならない、という“縛り”は不可避。
つまり、地下アイドルは“観客に見えない速度”で、動くことが出来ないのだ。
にも関わらず、もちろんラクルラールは自由自在好き勝手に動き、こちらにいくらでも不可視速度の攻撃を仕掛けることが出来る。
それは、紛れもなくこちらの手を完全に封じるために用意された、特化型の戦術。
まるで、全てが終わった未来(さき)から戻ってきたかのような、そんな準備の良さだ。