幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
そして、その速度の理由も明らかだった。
自己強化(バフ)演奏。
先程の地下アイドルの(ほぼ)総力を挙(あ)げた戦い/演技の件だ。
そのとき、ラクルラールは糸を楽器として用いたことを、見事に看破(かんぱ)されていた。
だが、それには一つ疑問が残る。
弦楽器なら、音を共鳴させる部品が不可欠なはずなのだ。
いくら上質な糸があったとしても、それが無ければ、楽器として成立しない。
では、その部品は一体、どこにあったのか。
今なら分かる。
実のところ、それは最初から、ラリスキャニアたちの目の前に存在していたのだ。
こうして“通り過ぎた”状態なら、はっきりと認識出来る。
女教師の身体には、無数の“青”が突き刺さっていた。
弦楽器を構成している、呪いの青い糸が。
「その身体自体が、楽器なのですね…!」
「今更気づいたところでもう遅い!この私をラクルラール学園を拒絶した報いを受けるが良い!」
容赦(ようしゃ)なく行われる、二回目の突撃。
それに気づけたのは、やはり、全てが終わった後のことだった。
ラクルラールの目にも止まらぬ一撃は、まるで移動のついでのように、一瞬のうちにその弟子を粉砕していた。
後には、箒の軌跡代わりに独り言のような捨て台詞を残して。
「無駄なあがきを…」
たった今、憎き生徒(うらぎりもの)に痛恨の一撃を見舞ったばかりの女教師。
だが、その顔に喜びの色は無い。
それも当然。
攻撃を終え残心の体勢にある彼女のその背後には――なんということか、新たなラリスキャニアが浮遊していたのだから。
これもまた、言うまでもなく分身である。
とはいえ、ラクルラールには焦(あせ)りや苛立(いらだ)ちの表情も、また無い。
そこにあるのは、ただ限りない無表情だけ。
彼女は、そのまま吐き捨てるように言った。
「後、十二」
「…!」
その発言に、追い詰められた生徒は、驚愕(きょうがく)するしかない。
「やはり図星か。
貴様の前世は十二の幹部を率いていた。
ならば今の貴様が作れる分身も十二体が限度と見るのは当然の予測だろう。
どれだけの達人であろうとも、己の複製などという危険行為はそうそう行えない。
資源(リソース)技術精度そして名声の格の低下。
零落による実質的な消滅の到来。
それを避けるためには己の限界を明確に定義し固い自我境界として維持し周知せねばならない」
そして、女教師は言い切った。
「すなわち、貴様が全力を発揮出来る分身を出せるのは、一度に十二体のみ!」
更に間髪入れず、ラクルラールは、そのまま追撃に移る。
一閃。
中空に再び衝撃が走ったかと思えば、まるで瞬間移動したかのように、女教師は再出現。
しかも今度は、ラリスキャニアが分身で復活したその直後のタイミングで現れたのだ。
当然彼女は、そのまま生徒を切り捨てる。
一度の斬撃で、二体の撃破達成である。
「あと十。
斬撃の軌道と移動の拍子を調整すればこの程度は容易(たやす)い」
「くっ…」
これは駄目だ。
あまりに速すぎる。
『青い糸』による即時(ノータイム)の強化は、女教師にとてつもない速度を与えていた。
あまりの強化倍率のせいか、一度突撃するごとに糸による身体の『修復』が不可欠なようだが…それも、すぐに終わることだろう。
ここで限界なのか…?
「いいや、まだだ!
まだボクは、何にも届いていない…!」
この時、ラリスキャニアには、強いプレッシャーがかかっていた。
なにしろ、順番通りにいけば次は、十三の回転、第十三の段階。
つまりは、かつてシナモリアキラが、キロンとの決戦で超えていった限界なのだから。
もちろん、今のシナモリアキラならそれ以上の跳躍は当然のことのように超えていくことだろう。
彼は現在進行形で、次々と成長(アップデート)を繰り返しているのだから。
けれど、それでもラリスキャニアはライバルなのだ。
そうあり続けることを、己に誓った。
ならば、まずはライバルが過去に超えていった障壁(ハードル)ぐらい、楽々と超えてみせなければならない!
けれど、地下アイドルの肉体も精神(アストラル)も、とうの昔に、限界を迎えている。
意識は朦朧(もうろう)とし、真っ白い光が明滅(めいめつ)する。
光に満ちた教室が見えてくる。
分かっている。
あそこへ戻れば、あるいは永遠に、安楽(あんらく)で平和な世界に暮らすことが出来ると。
分かっていた。
自分には、ラクルラールのような超越者たちに…世界に挑むような力も器量も、一切無いことも。
だが、地下アイドルは、頭を強く降って目眩(めまい)を振り払う。
また、あそこへ戻るわけにはいかない。
あの教室は、"彼女"の場所だった。
ボクは"彼女"で、"彼女"はボクだ。
光であり影。
影(げんじつ)であり、光(りそう)。
己の理想から、逃げてはいけない。
そして、目をそらしてもいけない。
永遠に理想には追いつけないという、その事実からも。