幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
想起されるのは、太陽を目指して、偽りの翼を剥(は)がされて落ちる異界の神話。
それでも、ボクはどこまでも太陽(りそう)を追い求め続けるだろう。
何よりも輝く人造の星(ユメ)、偶像(アイドル)という幻想への到達を。
きっと。
いや、絶対。
そんな今も、限界を超えた呪力の行使に、全身の擬似細胞が軋(きし)みを上げていた。
しかし、"興行主"は、それに構わず業(ワザ)を発動させる…!
ラリスキャニアは、斜(なな)め十字の青い翼を広げ、再び飛び立つ!
「13回転!十三回転!王愚逆天廻舞!(オルヴァ・ジョーカー・ワルツ!)」
これこそが、シナモリアキラがかつて超えた記録(レコード)の高み。
それは、ただの小さな一歩に過ぎない。
けれど、それでも彼女にとっては、十分に偉大な飛躍であった。
限界の超越。
この瞬間、ただの地下アイドルが、世界を揺(ゆ)るがす都市となった宿敵(ライバル)に並んだのだ。
光が、広がる。
今度は、ラクルラールの閃光ではない。
それはもっと明るく暖かく、速く大きく広がり空間を埋め尽くす白色。
「『浄界』、それも『簡易浄界』だと…!?」
あまりに非論理的な行為に戸惑(とまど)い、思わずその場に留まってしまうラクルラール。
その視線の先では、光り輝く空間で、二人のラリスキャニアが向き合っている。
呪術の奥義の一つ、『浄界』
扱いようによっては広範囲攻撃にも、また小規模な迷宮にも成り得る強力な呪術である。
ただし、それはきちんと習得していればの話だ。
少しでも呪術の心得があれば、一目で分かる。
今回のものは、その練習版の『簡易浄界』に過ぎない。
それは、単に空間を区切り『清浄』と『不浄』を分けるだけのもの。
ただ空間を隔離するだけの、最も単純な初歩の初歩の技術。
けれど、明らかに脆弱(ぜいじゃく)な領域は、それでも確かに十分な役に立っていた。
ラクルラールが、一向に攻めて来ないのだ。
どうやら彼女は、地下アイドルが突発的に起こした非論理的で不合理な行動を、十分に処理しきれていないらしい。
その臆病なまでの警戒心、あるいは、これまで散々格下のはずの生徒にやり込められてきたため傷ついた尊大な自尊心が、女教師に慎重な姿勢を強制しているのだろう。
権威という守るべきものがあり、強く賢い呪術師や神々ほど、ときに子どものつくような嘘やケアレスミスに敗北するもの。
ラクルラールは、これまで、異質で超常的な敵とばかり戦ってきた不死身の魔女だ。
しかし皮肉なことに、その誇りである長きにわたる戦闘経験こそが、今回はその足を引っ張っていた。
彼女は、違和感を放置出来ない。
そんなことをすれば、予想外の罠に足をすくわれるかもしれないからだ。
結果、世界トップランクに位置するはずの『守護の九姉』は、『浄界』を警戒しつつ、また周囲や背後への注意を欠かすことも出来なかった。
それが無意味なことだと薄々勘づきながらも、どうしても止(や)められないのだ。
彼女がしきりに気にしているその背後の色濃い影にしたところで、実は、ラリスキャニアが『簡易浄界』を手早く作るために張っただけの、単なる"枠線”に過ぎないというのに……
なるほど、警戒と常識は確かに大事だ。
未来を予測し、リスクを低減させることで、安定した結果を求める。
それは基本的に、いつでも有用な結果をもたらしてくれることだろう。
ただしそれは、第五階層の、それもアイドル迷宮以外での話だ。
特に、無軌道な青春を生きる地下アイドル"興行主"には…そんなものを期待したところで、全くの無駄足なのであった。
※
「そんなおままごとで!」
遠くで女教師がなにやら怒鳴(どな)っているが、そんなことは関係ない。
ラリスキャニアの右腕は、まだ切断されたままだ。
この舞台(ステージ)が終わるまでは治らないだろう。
けど、それもやっぱり関係ない。
地下アイドルは今、光に満ちた舞台に立っている。
だって『浄界』とは、精神世界の具現化なのだから。
それはあくまで、術者の心の中を『現実』に反映させたカタチに過ぎない(まあ、現在は夢の中なので半実体化とでも言うべきなのだろうが)
たった今"興行主"が展開した『簡易浄界』も、その原則は変わらない。
と、言うよりこれはその原則を極端に突き詰めたものであり、これまた一つの"補助線"である。
機能は唯一、心の中の自己像のイメージを再演する、そのための場を作り出す。
ただ、それだけ。
これは単に、自己との対話を視覚的に分かりやすくするために構築された、補助的なフィールドに過ぎない。
女教師は、隠された罠や策略の存在を警戒しているが、そんなものはここには皆無(かいむ)だ。
ラリスキャニアは、ただ自分自身の心と向き合うためだけに、この『浄界』を創ったのである。