幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
つまりは、確かに倒されたはずの『本体』が、“実は分身だった”ということになって、事後的に入れ替わりを成立させるという呪術。
人狼最後の魔将に、ミヒトネッセ、ラフディ王主従に、亜竜王の兄弟。
今や懐かしき学友たちとその他諸々(もろもろ)を参照し、舞台の継続が願われる流れを作ったうえで、“芸”の形、枠組みに頼る。
そこまでやって、更に第五階層のなんでもありな空気に支えられて、ぎりぎりようやく成立する。
これは、そうした綱渡り的な“業”(ワザ)であった。
そしてもちろん、これはただ回避と復活を可能にする防御策ではない。
二人の相互上昇には、理由がある。
それは、追放され、そこから逆襲して追放し返すたびに、分身(カゲ)だったはずのラリスキャニアが、“本物”を演じるラリスキャニアの頭上まで、飛翔しているからだ。
彼女たちは、交互に「本来持っているはずの“本物”の潜在能力」や「逆境を乗り越えて成長した技術」でもって、以前を上回る高さへと上昇を重ねていく。
それは、逆転に次ぐ逆転の演出。
第五階層ではもはや常識である"優劣の逆転"
そうした現象を利用した、自己強化(パワーアップ)であった。
二人のラリスキャニアの瞳は、それを祝福するかのように、同調する律動(リズム)をもって、十字の瞬(またた)きを明滅させていたのだ……
もちろん、ラクルラールがその上昇を放っておくわけがない。
彼女は、常に頂点を自任しているのだから。
「馬鹿め!
刺激だけを追い求める演劇は、やがてその刺激に観客が疲れ果て、単なる惰性(だせい)へと堕ちる!
貴様のソレは、墜落を前提とした“曲芸”に過ぎん!
すぐに飽きられて消えるだけだ!」
だが、互いを追放し合う二人のラリスキャニアは、口々に反論を叫ぶ。
「これは単なる目新しさや逆張りだけの『芸』ではありません!
ボクと世界が、共に救われるために演じられる“業”(ワザ)です!」
「そこに意味があれば、そこに関係と物語(ぶんみゃく)があれば、芸術は何度でも再評価されます!
刺激なんて、意味の共有を駆動させるための、片輪(かたりん)でしかありません!」
その言葉を聞いた女教師は、再度せせら笑った。
「そんな“曲芸”のどこに物語性や文脈がある!
貴様のような奇矯な出自の変人の表現など誰が真剣に汲(く)み取ると言うのだ!
そんなものは単なる狂人の戯言!
誰にも理解されない喚(わめ)き声の異言として無視され迫害されるだけだ!」
「それはもちろん!」
そこで、二人はまた声を合わせる。
「今いる、過去から支えてくれた、そして未(いま)だ本人もそれを知らない――」
「「ファンとの間で!」」
表明された決意は光となって弾け、上昇する地下アイドルの螺旋を後押しする。
無数の動画窓は、数えきれないヒトビトの反応を伝え、炸裂する情動と情報が、万色の言霊や贈物(ギフト)となって乱舞する。
勝つために必要なのは、ただ一手。
逆転を、演出する。
それしかない。
そのためには高度が必要だ。
落差が、それに速度も。
だからこそ、地下アイドルは飛翔し続けた。
遥(はる)か上空、星(スター)の高度を目指して。
「ちいっ!」
痺(しび)れを切らした女教師は、また攻撃を再開した。
目にも止まらぬ、高速の連撃。
だが……
それても“ラリスキャニアたち”は、相(あい)も変わらず回転と上昇を繰り返す。
そこでラクルラールは、
「ならばやり方を変えるまで!」
今度は遅く、異様(いよう)なまでにゆっくりと、攻撃を仕掛けてきた。
とはいえ、これも決して容易(たやす)い業(ワザ)ではない。
高度な技法によって繰り出された斬撃は、スローモーションのような遅さでありながら、対象のあらゆる抵抗を無視して確実な破壊を実現する。
もたらされるのは、まるで予(あらかじ)め決め事(ブック)があるかのような、綺麗な切断。
その見事さは、まるで実はこれまでは仮にくっつけていただけであって、切断された状態が本来の姿であるかのようだ。
しかも恐るべきことに、この動作には、呪術の作用がほとんど見られなかった。
女教師は、ほぼ純粋な肉体言語呪文だけで、次々と抵抗する相手を切り伏せているのだ。
だが、それもやはり無意味である。
いくら地下アイドルを斬ったところで、それは即座に低再現度の分身(ダミー)人形に代わり続ける。
ラクルラールはすぐに気づいた。
破壊された方のラリスキャニアの背に、念写画像(メッセージ)が貼り付けられているのを。
簡素な文面、だがそれは彼女にとって大きな障害となる内容だった。
それこそは、“追放宣告”の投影。
もう一人の地下アイドルが端末から早撃ちで投げかけた画像が、一種の呪符となって、損耗(そんもう)を最低限に抑える『空蝉』(うつせみ)呪術として機能していたのだ。
そう、それはそうした窮余の策(エスケープ)であった。
それだけではない。
同時に、ラリスキャニア“たち”は、女教師の攻撃すら利用し始めたのだ!
「『本体』を踏み台…いや、あちらも協力しているだと…!?」
女教師は、驚愕した。
その声に乗るのは,驚きに加え、激しい怒り。