幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
そうなれば、当然のように範囲攻撃の出番となる。
突然、女教師の青い髪が、急激に伸びた。
かと思えば、それは重なり組み合わさり、意味ある形で織られた包囲網となった。
それは、言葉の糸が織り成す呪文の網。
炎、稲妻、疾風、矢衾(やぶすま)剣(つるぎ)の檻(おり)に槍の天井。
もはや、『絵』を描く気は無いのかそれとも余裕が尽きたのか、放たれたのは、とても荒っぽい乱撃であった。
だが、当然その全ては『爆撃』に匹敵、あるいは上回る呪術攻撃。
その全てが、必殺。
逃れる隙間など有りはしないし、いかにあがこうが、正統な呪術師でもない芸人(しろうと)に対処出来るような威力でもない。
しかし…地下アイドルたちはその猛攻撃からも、何事も無かったかのように復活してみせた。
けれどそれは、攻撃が徒労に終わったことを意味しない。
女教師も、また再度見抜く。
真の不死者(キュトス)でもないいち芸人が、こうも容易(たやす)く連続復活をこなせるわけがない。
いくら、ここが転生を促進する第五階層であり、外部からの呪力供給があるにしても…本来、転生や復活をスムーズにこなすには、それ相応の術式(サポート)が必要とされるのだ。
しかし、ラクルラールの記憶が確かなら、この時点では、それはまだ配布されていないはず。
だからあるのだ。
その“代用品”とでも言うべき何かが。
そこで女教師は、即座に周囲を見渡す。
だからと言って、今更になってわざわざ原因を探し始めている、というわけではない。
現在、地下アイドルたちに力を与えている存在(もの)など、もはや考えるまでもないだろう。
「これは…」
ラクルラールは、目を見開く。
発見したものは彼女の予想通りではあったが、その“質”に関して言えば、完全にその予想を外していた。
ただし、残念ながら想像を上回っていた、というわけでもなかった。
ラクルラールは、そのあまりのクオリティに思わず叫(さけ)んだ。
「なんだ、この“お遊戯”は!」
そこに広がるのは、相も変わらぬ無数の配信窓。
だが、そこに流れているのは、もはや単なる観客たちの反応(リアクション)ではない。
それは…踊りだった。
跳ね回るもの、足踏みするもの、歌い騒ぎ、奇怪な吠え声を上げるもの。
そこには、無数の“踊り手”たちがいた。
その動き、その、あまりの“見るに耐えなさ”は…女教師を一時的に行動不能にするほどだった。
彼女はアイドル学園の元学園長。
当然、それなり以上の審美眼(びてきせんす)を持ち合わせている。
それゆえの衝撃、それゆえの憤りであった。
「信者(ファン)が動きを模倣(トレース)…いや、再演!?
このラクルラールの前でよくもそんな真似が出来たものだな!」
ラクルラールは、瞬時にこの“業”(ワザ)の本質を見抜く。
そして、
「ただの不出来な物真似(モノマネ)ではないか」
ただ一言にて、切り捨てた。
彼女は続けて、次々と冷酷な評価を下す。
「5点。
コスプレとは、衣装とメイクを整えればそれで済むようなものではない。
着こなしも不完全であるし、何より表情がなってない。
良く知っている相手なら楽に演じられるという、その心構えがまず失敗なのだ。
正確な観察と知識に基(もと)づく解釈無くば、身内での宴会芸にしかならん。
言っておくが採点基準は当然100点満点だ!」
そして女教師は、片っ端から“採点”を降(くだ)し始めた。
青い糸で瓦礫をつなぎ、モデルのように颯爽と歩き回りながら指差す姿は、まるで広大な領地を治める女王のようだ。
「3点」
「2点」
「1点」
「1点」
「1点」
ラクルラールの審美眼は、ひどく正しかった。
その審判は、『正しさ』を説得的に訴える『呪文』であったと言っても良い。
そもそも、信者たちは基本的にはアイドルではない。
芸能の心得など、ほぼ皆無である。
それゆえ、その技術、そのエンターテイメントとしての価値は…当然ながら大幅に低迷していた。
それに対し、女教師は“適正な評価(さいてん)”を与えることで一つ一つの“演技”を潰していく。
それは、敵の補給を削(そ)ぐと同時に、自らの権威と呪力を回復させていく振る舞いでもあった。
これこそが、ラクルラールなのだ。
最古の紀神の欠片『キュトスの姉妹』
彼女たちは、どれだけ傷つき疲れ果てたとしても、その確立された権威と権能まで失うことは、決して無い。
何故(なぜ)ならその業(テクネー)こそが、彼女たちそのものだからだ。
技術と教育を司(つかさど)る半神は、自分こそが真の永久機関だ、とでも言うかのように、力強くその進撃を続けていった。
そしてついには……
「いい加減にしろ!
マイナス1億点」
ラクルラールは叫びと共に、全く『ラリスキャニア』に見えないマイクロビキニ鹿角を、その画面ごと吹き飛ばした。
その吹き飛びの軌跡が、わずかに青く光って見えたところを見ると、これもまた、あの青い糸を使っていたようだ。
それが、最後の配信窓だった。