幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
はたして、追い込まれたアンチは、いや、“彼”はそのとき、ついに目を開けた。
その目には光がある。
それは何かに…外部から伝えられた情報に、反応する感性(クオリア)を持つ者の証(あかし)
つまりは、確かな意志と判断力の現れである。
女教師が悲劇的な展開を予想してか、口元を皮肉げに歪ませる。
そして、そんな状況でも、『ラリスキャニア』たちは、その一人の『客人』をただ見守っていた。
いつも、ライブ会場でそうしているように。
その動向に視線が集まる中、“彼”は…無敵に思えた拘束を、見事に引きちぎった。
炸裂音と共に青い光が弾け、囚人の解放を世界に知らしめる!
更に、解放された奴隷は、今こそ夢を胸に抱き、その希望を音として大きく呼ばわる!
その意志、地下アイドル“たち”の呼びかけへの反応が示されたのだ。
今度ばかりは、ラクルラールもそれを阻害しようとはしなかった。
なぜならこれこそ、洗脳されたものではない、“彼”自身の決断と選択であり…『ラリスキャニア』の行いの価値を測る宣告だからだ。
もし、これによって元生徒の失敗が明らかになれば、その造反対象である女教師の株は、相対的に大きく上がることは間違いない。
この場において、あえて非関与の態度を取っていることこそが、彼女がこの先の発言が己にとって不利にならないと確信していることの証(あかし)であった。
すなわち、ラクルラールは『ラリスキャニア』による説得の成功もアンチの『人情(ヒューマニティー)』も、どちらも全く信じてはいなかったのだ。
そうして“三人”が見守る中…審判が今、下される!
「わ、私は…ラリスキャニアちゃんの赤ちゃんが産みたいです!」
「え?」
「フハハ聞いたか!
貴様など大嫌いだと…え?なんて?」
どこかの敗残者が、元生徒の赤っ恥を狙い、密(ひそ)かに拡声呪術を仕込んでいたこともあり…その発言は、ただちに誤解の存在を訂正(デバッグ)した。
どうやら“彼”は、“彼女”だったようだ。
その瞬間、確かに世界の時が止まった。
ちょっとしたすれ違いが、緊迫した決戦場にひと時の静寂をもたらしたのだ。
今、元師妹(もとしてい)は、声を揃(そろ)えて沈黙している。
それは、都会の片隅の公園のような、ほんの些細(ささい)な空白の自由土地(エアスポット)
こでは敵も味方も、秩序も混沌も生も死も無く、全てが平等に無意味を堪能した。
その時だけは、誰もがそうするしかない、無為の時間。
あるいはそれこそが、あらゆる言語魔術師が追い求めて止(や)まない『絶対言語』に最も近い、言語の共有地(コモンズ)だったのかもしれなかった。
もしかすると、その、誰も意図しないがゆえに、誰の支配からも免(まぬか)れた時空こそが、真の理想郷(ミレニアム)だったのかも…
まあともかく、囚人は解放され、これで準備は整った!
反撃の時間だ!
そして、突撃ラッパ代わりに空白の終焉を告げたのは、全方向へ流れる万色だった。
それは、『ラリスキャニア』からそのファンたちに向けて放たれた伝言(メッセージ)
一対の地下アイドル“たち”から、全周囲、全ての配信窓へ向かって虹の波が打ち寄せる。
「こ、ここれは、どどどうしたこと、だだだ?回線不調か!?」
その途端、見渡す限りに広がるラクルラール“たち”が、一斉(いっせい)に動揺した。
異常の発生。
言葉が揺れているのは、それを発している魔女“たち”自身も、揺れているからだ。
跳(は)ねる脚、上下に振られる頭、断続的でありながら、短い周期で現れ続ける振動(バイブレーション)
誰も彼も、リズムにノッて身体が動いている。
それこそは、音楽的なリズムがもたらす心への影響。
すなわち、感動(バイブス)であった。
呪的触手発勁・発動。
宿敵(シナモリアキラ)を模倣した業(ワザ)が、地下アイドルに向けられたあらゆる感情を偏向させ、それを彼女“たち”の力(エナジー)へと変えていく。
先程の黒ブタアンチという、一つの成功事例(サンプル)を得たことで勢いづいた地下アイドルは、それを素(もと)に普遍化した方法論…一種の【修復】(リペア)呪文を構築。
完成したそれを、足元から広がる虹の波…万色の触手波動へと、変換して放出しているのだ。
波が打ち寄せるたびに、青い光が波濤(はとう)のように窓から散る。
その輝きは、解放の光、呪縛を打ち破った子豚たちの苦闘の成果。
黒ブタアバターはもちろん、全ての『ラリスキャニア』のファンたちが、ラクルラール学園の悪しき記憶(トラウマ)を打ち破り、次々と応援を再開しているのだ。
まるで、陣取り型のボードゲームのように、瞬(またた)く間(ま)に全てが塗り替えられていく。
まもなく、全ての配信窓に波が行き渡った。
それは、承認の波の反復(キャッチボール)
全ての信奉者(ファン)が、偶像(アイドル)の頑張りを讃(たた)えて認め、その理想(アイドル)が、逆に彼らを承認し返す。
そのカタチは、単なる円環(サイクル)ではない。