幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
それはまず、強者や権威への媚と盲従という、自由に振る舞うものの『技能』に対して服従する恥ずべき理由。
絶望と恐怖からの抵抗の放棄という、自己への偏愛でしかない『愛情』
美しさや強さといった優越(アレテー)への平服という『道徳』
弱者を踏みつけることを当然とし、己の快適のために強者に擦り寄る、生物として当然の生態である『健康』
憧れと思い込みによる勝手な期待と委託という『尊敬』
力と狡知を持つものが自己を正当化し、ますますその力を増していく弱肉強食経済の肯定たる『富』
予(あらかじめ)め文化的資本に恵まれたものが、情報を操ることを通じて人びとへの支配力をより増大させていく『知識』
結果論を否定するだけの気力と知力の不足を理由とする怠惰・惰性に過ぎない『生存』
そして、文化的慣習による教育と実質的な洗脳によって生まれながらの序列を受け入れた結果としての『地位』
それは、支配される側から見た異なる権力の根源、九つの王権に対応する、大衆がそれぞれの権威を承認する理由。
それらが、悪意的な解釈の下に開陳(かいちん)される。
それすなわち、権威と支配体制の根源を民衆の弱さに求め、その真逆である強者の悪性を称揚する、王者の自己肯定の論。
権力の邪悪を己の一部とする、闇のドレスの魅力(かがやき)であった。
そして、文字通りその威光を背にして、女教師は“講義”を再開する。
「支配者が先にいるのではなく支配を肯定する民衆が支配者を認定しているというのが真実!
彼らの己が他者を恣(ほしいまま)にしたい欲望と権力欲こそが集団に序列を作り支配関係を築くのだ!
よって我が善導と教化こそが最も正統なる権威!」
「そんな性悪説なんか!」
「ハッ!そもそも配慮(ケア)など真に魅力的な個人には不要!
マラードが赤子を背負っていたら女たちを口説けたと思うか?
パーンやヴァージルが家庭を養っていたら、あれほど自由奔放な輝きがあったか?
アルトが後継者のクーデターに怯えていたら『道徳』を説けたか?
例のゾンビ女王は言うに及ばずあらゆる理想化された『歴史的偉人』は結局身近な弱者を捨て去っていたからあれほど身軽で魅力的だったのだ!
夜職(ホスト)のような身勝手なエゴイズムと収奪こそがその個人に真の魅力を与える!」
「そんなことは!」
「あるのだよ!
だから私もそうした道を行く!
いや、それを超えてやる!
あらゆる弱者を突き放し!全てを奪い支配する魅力的な唯一(めがみ)になってやるのだ!
それが私の成功!私の報復(ふくしゅう)!」
「そんなものは!」
「間違っています!」
「いいや正しい!
正義とはつねに勝者によって創られ語られるのだから!」
そして、ラクルラールはまた大声で言い切る。
「このゼオーティアはな!
強者による支配!
財産たる『杖』!人的ネットワークの支配者たる『使い魔』!世界観を押し付ける優越性を持った『邪視』!
そして文化的ヘゲモニーを操作可能な語りの『呪文』!
いずれも強者による一方的な支配こそが世界を形作り弱者にそれを押し付けるのだ!
それが呪術!
それがこの世界(ゼオーティア)!」
「なら、ボクは、ボク"ら"は弱者を代弁する」
「出来るものか!
貴様程度の『呪文』の力量で!
たかが一介の地下アイドル風情(ふぜい)の保有する『使い魔』(かんけいせい)で、一体どれだけの"弱者"とやらの声を代弁出来る!
そもそもヒトとヒトとは分かり合えぬ!
貴様のやれることはどこまでいっても強者の傲慢(エゴ)でしかない!」
「…だとしても!」
永遠に続くかに思える言い合いの平行線。
だが、そこに転機が起きる。
それを持ち込んだのは地下アイドル、その“陰”の方。
海をイメージしたドレスをまとう彼女は、相方を静かに押しのけ、自然と庇(かば)うような体勢を取りながら前へ出る。
そして、一言。
「先生、ずいぶんとご不満がおありのようですね?
…それが、貴女のご自慢の結果ですか?」
含んだような態度に、ラクルラールはすかさず噛みついた。
「何が言いたい!」
「いえ、先生が本当にご自分の全てをコントロール出来るほどの力をお持ちなら、怒ったり何かが欲しくて苦しんだりなさらないのではないかと思いまして」
そこへ、外野から声が飛ぶ。
〈その減らず口、意外と良いセン突いてるかもしれないわね〉
なんと、声援である。
それは、地下アイドル"たち"に新たな気づきを与えた。
「そうですね、怒ったり何かにこだわるのは、自分をコントロール出来ていない証拠!」
「すごく感情的というか、シナモリアキラ(サイバーカラテつかい)とはまるで真逆…そうか!」
反撃への希望を得たことで、"二人"の表情が明るくなった。
だが、しかし…
「それを待っていた!」
『ラリスキャニア』たちは、失念していた
そうした理屈は、もちろん相手側も使うことが出来ることを。
そう、"鋤を見つけた"と思い込ませて油断させること、それこそがまさに、ラクルラールが待ち望んでいた“隙”であったのだ。
その時すかさず、女教師の肩が、脚が、手首が。
怒り狂った表情とは、まるで切り離されたように動いた。
それはまるで前衛的(コンテンポラリー) なダンスのように。
【七色表情筋トレーニング】による感情演出。
第五階層における一般的な戦術となったこれを見落としてしまうあたり、『ラリスキャニア』"たち"がまだまだ戦いの素人であったことは否めなかった。
奇襲は成功し、反撃が再開される。