幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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188話 天への飛翔⑩(その2の47~48の途中まで)

それはあるいは、『客降り』または客席降りと呼ばれる客席からの登場演出にも、近い行いかもしれない。

共通点は、ファンとの接触。

そして、危険(リスク)と引き換えの衝撃(インパクト)

 

しかし、この場合の危険性は比較にはならない。

なにしろ、今の地下アイドルは全体重のみならず、その全ミーム全存在をも、そのファンに託(たく)している。

ただの衆上運搬にしても、失敗すれば複数人の死傷の危険性はあるが…これは呪的な依存行為なのだ。

一度(ひとたび)その儀式の杖(ハンドル)を振り間違えれば、転生不可能な完全な消滅や、この場の全員の破滅すらあり得る。

ましてや、儀式を守護する神や監督する高位呪術師すら用意されていないこの表現は…もはや完全に、自殺行為だと断言してしまって構わないだろう。

 

そしてこれは、ある意味まさに『客降り』でもあった。

なにしろ、今の『ラリスキャニア』は、文字通り観客の中にいる。

影絵となった彼女は、その心から心へと伝わる呪力(ミーム)と化しているのだ。

ファン同士の呪力伝達、アイドルの再登場(アンコール)をひたすらに願う祈り。

それはまさに、集団が儀式を通じ、共有されたある心象を実体化させていくものだと言えよう。

そしてその有り様(さま)は、呪術で言えば死霊術の一種である『降霊会』に相当していた。

すなわち、これは…

 

「復活の儀式だ!」

 

そう、それは記憶に新しい『夜の民』の英雄の復活譚になぞらえた、『再詠唱』復活の前段階。

しかもそれは、

 

「そうだ、それで良い…!」

 

女教師の、狙い通りだった。

それはなぜか。

その理由を、

 

「そうだ、イメージを収束させろ愚民ども!

いくら小細工を重ねても、こうして転生復活するときには、一人に戻らざるを得ないはず!

なにしろ、信者(ファン)の抱いている幻像(イメージ)は、あくまで個人、これまでの『単独偶像(ソロアイディア)』としてのものだからな!

当然、その支援呪力を真に取り込み力にするためには、分身を融合させなければならない!

そこで“二人”が解消されれば、その見せかけの不死身は消失するし、うざったい仮初(かりそめ)の協力関係(コンビ)も綺麗さっぱり消えてなくなる!

私の野望(ユメ)にも、一歩近づくと言うわけだ!」

 

ラクルラールは、女優のように独白した。

おそらく、その行為自体が何らかの――恐らくは演劇を模(も)した――儀式の一環なのだろう。

 

そしてその語りと同時に、儀式は最高潮を迎えていた。

勢いを上げ、ついにスケート選手のように“滑走”を始めた影たちが、急速に舞台へと近づいて来たのだ。

必然、無数の配信画面を走る少女の影帽子は合流し始める。

やがて、それらのシルエットは、一つに重なっていく。

それこそが、完成の合図。

日蝕のように全ての影が重なるとき、一度は確かに死んだはずの地下アイドルの“再生産”が、転生がそこに完了するのだ!

それを予期して観客たちはさらに盛り上がり、声の波もよりその振幅(しんぷく)を増しながら、舞台へとその波紋を収束させていった。

 

その盛り上がりを観た女教師は、密(ひそ)かにほくそ笑む。

その呟(つぶや)きにて語りて曰く、

 

「これで『ラリスキャニア』は、唯一無二の存在として、この場の方向性は完全に固まる!」

 

そして、彼女は更に大きく叫んだ。

 

「さあ、一人(たんどく)の支配者こそが正しい在(あ)り方だと肯定しろ!

圧倒的な単独の悪役(ヒール)に対応出来るのは、同じく圧倒的な期待を背負える正義の味方(ドール)でしかない!

私にここまで手間を取らせたのだ、投資したぶんはしっかり利益を返してもらう!」

 

そして観衆とラクルラールが見守る中、少女の影は、ひとつ、またひとつと重なっていき…舞台の中央でついに完全にその数を最少に――

 

 

 

 

 

 

しかしこの先を語るためには、まずは時系列を、その少し前に遡(さかのぼ)らなければならない。

 

それは逆転劇が明かされる前、二人の『ラリスキャニア』が悲劇を演じていたときのことだ…

 

 

 

その時、地下アイドルは首を絞(し)められ朦朧(もうろう)としながら無数の幻を観ていた。

圧倒的な一撃で敗れ去るもの、ひたすら翻弄(ほんろう)されて敗れるもの、無謀な挑戦をして自滅するもの……それは、ありとあらゆる敗北の一例(パターン)が広がる絵巻物。

めくるめく、絶望の万華鏡。

どれをとっても見事に敗北、どちらを観ても失敗と破滅。

そして、相手はいつも同じ女教師(てき)。

視界の全てには破滅が広がり、ラクルラールに対する敗北を告げていた。

見渡す限りの絶望。

 

しかしそこに、音がする。

諦観に凍(こお)りつきつつある視界を断ち切り、不可視の波紋が耳に訪(おとな)いの響き(ノック)を伝える。

 

〈…るかい〉

 

それは、呼びかける声だ。

 

〈聞こえるかい〉

 

何度も何度も、根気強く語りかけてくる。

 

〈"ボク"は今、キミの心の中に直接語りかけている…〉

 

「もう一人のボク!」

 

『ラリスキャニア』は、それによってようやくはっきりと目覚めた。

 

それは今、ラクルラールに操られて相方の首を絞(し)めている――ことになっている――『陰』に偽装した『陽』からの伝信(メッセージ)

それも、その絞首(こうしゅ)に使われている触手を、電信ワイヤー代わりに利用した“ただ乗り”通信であった。

 

これぞ、無限幕間回想。

あるいは、“自己内再対話”とでも呼ぶべき業(ワザ)

 

 

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