幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
「最後に、もう一つだけ確認したいことがある」
「なんだ?ボクもヒマなわけじゃない。なるべく短く頼みたいところなんだが」
「なに、すぐ済む。悲劇の必要性、そしてお前の主張したい『大アイドル時代』とやらは、劇を見てから判断するとして」
と、悪魔(アキラ)触手は、一旦そこで言葉を切った。
そして、己の本体(ラリスキャニア)をしかと見つめ、大きく息を吸い込む身振りを見せた後、一息に、それまでわだかまっていた疑念をぶつけた。
「お前は、悲劇や苦痛を、表現を成功させるための言い訳に使うつもりはないんだな?」
ラリスキャニアも己の分身(しょくしゅ)に答える。
あくまで真剣に、けれども決して思い詰めすぎずに。
真剣な問いには、真剣に向き合わねばならない。
とは言っても…
「全くそんなつもりはない。だが――」
「だが?」
「だが、無礼かもしれないが、ここで逆に質問させて欲しい」
そう、とは言っても、それは必ずしも、ひたすら質問を受け止めることだけを意味しないのである。
片方がただ話し続けるだけではなく、お互いに感情や意見を放ち合い、受け止めあってこその対話劇(ダイアローグ)である。
それが人形劇であっても相手が触手であっても、その原則は変わらない。
むしろ、対話相手が仮想(バーチャル)である分、かえって普通の雑談よりもそれは重視されるべきだろう。
「ここで逆に?質問に質問で返すのか?」
「そうだ。これが"最後の質問"と言うのなら、こちらにも"最後の答え"を出すための準備くらいさせてくれても良いんじゃないか?」
「なるほど、そう来たか。分かった、存分に準備をしてくれ。ただしーー」
「ただしもちろん、準備を終えればきちんと質問には答えよう。それぐらい信用してくれても良いだろう?なにせお前はーー」
と、ここでまた二人の言葉が重なった。
「「自分だから」」
そういうことである。
「さて、ではこちらから問い返そう」
仕切り直したところで、ラリスキャニアは、己の分身(しょくしゅ)に問いかける。
「ボクにとって、表現の成功とは何だと思う?」
「まあ、そう来て当然だな。……って、ちょっと待て!そこは流石に自分で話せよ!今のお前は"興行主"なんだろう?」
「まあまあ、そう怒らないでくれ、今のはちょっとした冗談だ。あんまりお前が真面目すぎるんで、ちょっとだけふざけたくなっただけだ。それくらいはボクの口からちゃんと話すよ」
「本当か…?」
疑わしそうな目で本体を見つめる悪魔(アキラ)触手の前で、地下アイドルは説明を再開するのであった。
「ボクの目的は、リーナの過去を説明することであり、それによって、彼女の『大アイドル時代』という目的に"どうやってたどり着いた"か、そしてそれの何にボクが"絶望"を感じたのか、それを明らかにすることだ」
「そうそう、そういう話だったよな」
うなずく悪魔(アキラ)触手の前で、洞窟マイルームの画像窓を指さしながら、ラリスキャニアは静かに語り続けた。
「問題なのは、その目的にそぐうための"表現"が、リーナの悲惨な過去を単なる扇情的な効果を狙って描いたものではないか?という疑問だな」
「それだけじゃない」
「ふむ…他に何かあるのか?」
"興行主"は険しい顔をしている悪魔(アキラ)触手に問いかけた。
だが、それに答えたのは"彼"ではなく、意外な"人物"であった。
「それは、キャニアさんがリーナの過去を語ることを通じて、自分の欲望、あるいは自分の傷(いたみ)を発散して愉(たの)しんでいたのではないか、ということですわね?」
艶めかしい唇でそんな言葉を紡いだのは、悪魔(アキラ)の左腕であったのだ。
「…そういうことだ。どうなんだ、そのあたり?」
興奮しましたわよね?気持ちよかったでしょう?と騒ぎ出す左腕を押さえつけながら、悪魔(アキラ)触手は確認する。
「……」
「おーい」
左腕のまさしく無礼(アウト)な暴投発言に、これは、本格的に機嫌を損ねてしまったか?と
どう見てもダメなんじゃないかと懸念を抱き始めた悪魔(アキラ)触手だったが……。
「そこはまた逆に聞き返そうか。楽しくて何が悪い?」
「アウトォォォ!」
ラリスキャニアから返ってきたのは、なんと更なる死球(デッドボール)発言であった。
そうですよね!そうですよね!と、はしゃいで跳ね回る自身の左腕をなんとか取り押さえながら、悪魔(アキラ)触手は叫んだ。
「露悪的なことは、褒められないぞ!悪趣味に振り切るとか俗悪なウケや炎上による"焼け太り"を狙っても、すぐに飽きられて捨てられるだけだ!」
「もちろん、その程度のことは分かっているさ」
「ならなんで!」
「落ち着けよ、ボクの触手。そんなにはしゃいでると、"悪"を演じる『シナモリアキラ』らしくないぞ。
では、更に問おう。お前が考える"悪"とはなんだ?」
「それは…」
ラリスキャニアの更なる問いに対して、悪魔(アキラ)触手は口ごもった。
それは、極めて答えにくい質問だ。
なぜなら、今の"彼"は、あくまで再演され模造された存在に過ぎないのだから。
加えて、そうでなくともこれは難題だ。
万人に共通する絶対的な"悪"の基準というものがあれば別ではあるが、そんなものは、それこそ"絶対に"存在しない。
それがあれば、『地上』と『地下』、二つの"世界"は、最初から二つに分かれたりはしなかったことであろう。
無論、例外はある。
先日の第五階層における騒動、あの時は、吸血鬼=病人への迫害に対して、『地上』と『地下』の双方から非難の声が上がっていた。
いかに弱肉強食を是とする『地上』であっても、病人ばかりは排除しづらい。
病人には、誰もがなる可能性があるからだ。
誰でも長生きはしたいし、病気にもかかりたくはない。
利用するだけの関係が大半だとしても、家族や社員にも病人にはなって欲しくはないし、病気が理由で殺して欲しくもない。
そうした感情については、天地を問わず共通の理由なのだ。
それに、天地双方に共通する基準なら、もっと明確なものもある。
それこそが"悪"の概念。
"仲間"を守れ、"敵"を滅ぼせ、"共同体"の法に違反するモノ、"我々"を脅かすモノを排除せよ。
大魔将イェレイドが象徴するように、"悪"の存在とその排除のための戦いこそが、二つの"世界"を繋げる最大の共通点である。
つまり、先日の騒動で第五階層の支配者、『機械女王』トリシューラがそう見なされかけたように、天地を合わせたこの世界(ゼオーティア)にとっての、そして天地の間にある第五階層(シナモリアキラ)にとっても"悪"とは、すなわち――――
「それは…俺にとっての、『第五階層』(シナモリアキラ)にとっての悪とは…」
悪魔(アキラ)触手は口ごもる。
それでも、答えは既に見えていた。
"悪"を排除することで存続を可能とする"共同体"こそが、普遍(ゼオーティア)ならば、この世界における"悪"そして"正義"とは……
けれど、口ごもる悪魔(アキラ)触手の言葉は、中断されることになる。
なぜなら、この問答に新たなる参入者が現れたからだ。