幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
「そんなことはありません!
人気あるものは、魅力的で独自な個性を持つものはたくさん、たくさんあります!
それこそ無限に!
みんなそれぞれ信じる価値はあって、それは数値や序列だけでは測りきれないものです!」
「真の価値は数値でも金銭でもありません!
愛です!
継続的な愛好や応援を可能にするのは、一重に愛のみ!
愛するから序列(ランキング)の上昇を望むのであって、その逆は必ずしも正しくありません!」
「愛、だと!」
その言葉を切欠(きっかけ)に、女教師から凄(すさ)まじい圧力が放たれた。
だがそれでも、『ラリスキャニア』は踏み止まる。
今の地下アイドル“たち”には、そのような抵抗を可能にするだけの呪力があるのだ。
ファンの増大が順調であり、その支援が継続されるなら、アイドルは理論上無限にその力を増していくことが出来る。
だから、彼女“たち”はなおも言い返した。
「“場”“共同体”“理想像”の共有が、そしてともに過ごす"体験(イベント)"と、未知なる他者との新しい魅力と驚きを期待する心こそが“ボクら”を何度でも再誕させ、『アイドル・ラリスキャニア』を存在させ続けるのです!」
「偶像(アイドル)は、そして人類(ロマンカインド)のみんなも、いくらだって新しい価値を見出していけます!
自己を『更新』していけるんです!」
「あまりにも欺瞞(ぎまん)過ぎる!
確かなものは物理的実体、金銭的利益のみ!
信仰も居場所も関係性も愛も、全ては儚(はかな)く脆(もろ)い幻想!
すぐに固まってしまうような、神話の些細(ささい)なゆらぎに過ぎない!
そんなもの、最初から何も無かったよりなお悪い!
支配されること、何も考えず苦しまず、無責任のまま怠惰に生きるのが民衆の真の望みだ!」
しかし、『ラリスキャニア』"たち"はそれでもまた一歩も退かない。
師弟の論戦は、再び過熱していく。
「それでも愛は残る!
愛し愛されたい、認められそのために認めたいという人の心が、支配関係や階級ではない人間関係を、社会を作っていくんだ!
それが、アイドルが作る幸福な社会!
アイドル社会には、無責任など無く、責任と承認ある愛がすべてを形作るのです!」
「そんなものは現実から目を背けた戯言だ!
付和雷同で流行に流される民衆の完全な制御(コントロール)など不可能!
結局はその大波に呑まれて全ての破滅をもたらすのみだ!」
「いいえ、それは違います!
みんなを輝かせるアイドルの基本理念こそが、その柱となります!
みんなが幸せになる未来へと羽ばたいていけるはずです!」
「アイドルは特権者ではありません!
愛されるもの、民衆の心を代表するものであって、君臨する暴君ではないのですから!
だから、皆(みんな)と共に、平和と希望を目指せるのです!」
「戯言に過ぎん!
この世は所詮、奪い合いの殺し合い!
誰もが自分を【被害者】だと宣言してマウンティングを取り合い、キレイな理想を錦の御旗としてエゴイズムの実現に邁進している!
こんな状態で【結束】や『調和』を説いてなんになる!
自浄能力を持てない集まりなど、独裁や衆愚政治(ポピュリズム)に堕するだけだ!
そんな愚民に頼れるわけがない!
破滅するだけだ!」
よほど民衆への信頼が無いのか、そこで女教師は更に語気を強めて、こう叫(さけ)んだ。
「お前は、他人に玩具(オモチャ)にされる人生で本当に良いのか?
他人の妄想(イメージ)に容易(たやす)く左右されてしまう、そんな存在を肯定するのがお前の自己承認(アイデンティティ)なのか?
そんなあやふやな神話存在としての己を良しとするのか?」
その言葉に少し思うところがあったのか、地下アイドルは僅(わず)かに怯(ひる)む。
『陰』となっていた方の『ラリスキャニア』が、ぽつぽつと語り出した。
「……確かに、ボク“ら”も他人に好き勝手に自分を支配されたり、自己同一性をあやふやにされるつもりまではありません」
「ならば!」
勢いよくそのまま押し切ろうとするラクルラール。
しかし、『陰』はそれを遮(さえぎ)った。
「けどそれでも…どうあるべきかとか、貴女に決めつけられる筋合いはありません。
ボクは、ボク"ら"は夢をみたいのです!
ある程度他人に左右されることは、誰かの夢であることの当然のリスク!
憧れられ、愛されるものは、決して完全に自由ではいられない。
けどそれが、それこそがボクたちの決めた道なんだ!」
そしてその言葉を『陽』が繋ぐ。
「ボク“たち”は、自分たちを夢見てくれる者たちを、そしてその夢の正しさを信じる!
共に同じ理想(アイドル)像を共有し、同じ幻想(ユメ)を目指して飛翔するんだ!」
それが理想像(アイドル)となることの代償。
どんな言い訳をしようと、また欠点や闇を認めさせることが出来たとしても…信奉者(ファン)の信仰(ファナティック)の束縛や干渉を無視しきることだけは、決して出来ないのだ。
なぜなら、
「「だってそれが…星を目指す者(アイドル)としての在(あ)り方なのだから!」」
重なる響きを前に、女教師はそれをフン、と鼻息荒く断罪する。
「英雄王傑でもあるまいに…飛んだ思い上がりだ
ならば、それがどこまで持つか示してみろ!
この私の舞台(ステージ)でな!」
「分かってます!」
「今こそ決着をつけましょう」
「後悔させてやろう…!」
そうして凄(すご)むラクルラールの背後に変化が起きた。
再び、九つの複雑な紋様が浮かび上がったのだ。
師の戦術を解析しつつあった元生徒“たち”は、その正体を即座に判別する。
「その攻撃は…!」
「『杖』による疑似『浄界』…!」
それは、一度はなんとか他アイドルの力を借りてしのいだものの、決して真(ま)っ向(こう)からは立ち向かえなかった超絶の絶技。
言わば、"九つの創世"
『ラリスキャニア』の前に広がっていたのは、新たに織りなされた九の"地獄"だった。
「来い」
しかし、招かれてしまっては否応(いやおう)もない。
その呼び声に応え、地下アイドル“たち”は、姿を“九人”以上に分割。
それぞれ朧(おぼろ)な多重影を引き連れ、九つの紋様に分かれて入っていった。
最後に、どこからかため息と共に響く独言(ぼやき)だけを残して。
(さて、ここまでは『再演』されていない…のかな?
ボク“ら”からは観測出来ないや。
ともかく、これからも“彼女”の期待に応え続けないと…全てをちゃぶ台返しされかねないからなぁ…)
それは、未来からの干渉者と“戦う”際の当然の心得。
相手がやり直し(リトライ)の権限を持つ以上、望む未来へ辿(たど)り着くには二つの方式しか残されていない。
やり直しきれないほど、決定的な結果(ルート)を確定させるか。
それとも、相手が満足するか。
いずれにせよ、それは途轍(とてつ)もない難事であった。
しかしそれでも『ラリスキャニア』は、飄々(ひょうひょう)とした姿勢(スタンス)を崩さず舞台(ステージ)へと向かう。
何故(なぜ)なら、きっとそれこそが、
(ファンが信じる“ボク”なのだから。
いや、“ボク”も“ボク”自身のファンなのだけれどね)
(ともかく、ベストを尽くすしかないねー)
(尽くしてなかったことなんて、今まで一度もないけどねー)
(そだねー)
だから、足取り軽く“彼女たち”は進んだ。
気軽に、気楽に、当たり前に。
いつものように前進する。
行き先の紋様は、巨大な泡。
全てを呑み込む、網目の迷宮。
九種の戦場が、そして恐るべき壁(きょうし)が、そこで『ラリスキャニア』を待ち受けているのだ。