幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

194 / 272
194話 アイドル飛翔③(その2の52~53の途中まで)

「そんなことはありません!

人気あるものは、魅力的で独自な個性を持つものはたくさん、たくさんあります!

それこそ無限に!

みんなそれぞれ信じる価値はあって、それは数値や序列だけでは測りきれないものです!」

「真の価値は数値でも金銭でもありません!

愛です!

継続的な愛好や応援を可能にするのは、一重に愛のみ!

愛するから序列(ランキング)の上昇を望むのであって、その逆は必ずしも正しくありません!」

 

「愛、だと!」

 

その言葉を切欠(きっかけ)に、女教師から凄(すさ)まじい圧力が放たれた。

 

だがそれでも、『ラリスキャニア』は踏み止まる。

今の地下アイドル“たち”には、そのような抵抗を可能にするだけの呪力があるのだ。

ファンの増大が順調であり、その支援が継続されるなら、アイドルは理論上無限にその力を増していくことが出来る。

だから、彼女“たち”はなおも言い返した。

 

「“場”“共同体”“理想像”の共有が、そしてともに過ごす"体験(イベント)"と、未知なる他者との新しい魅力と驚きを期待する心こそが“ボクら”を何度でも再誕させ、『アイドル・ラリスキャニア』を存在させ続けるのです!」

「偶像(アイドル)は、そして人類(ロマンカインド)のみんなも、いくらだって新しい価値を見出していけます!

自己を『更新』していけるんです!」

 

「あまりにも欺瞞(ぎまん)過ぎる!

確かなものは物理的実体、金銭的利益のみ!

信仰も居場所も関係性も愛も、全ては儚(はかな)く脆(もろ)い幻想!

すぐに固まってしまうような、神話の些細(ささい)なゆらぎに過ぎない!

そんなもの、最初から何も無かったよりなお悪い!

支配されること、何も考えず苦しまず、無責任のまま怠惰に生きるのが民衆の真の望みだ!」

 

しかし、『ラリスキャニア』"たち"はそれでもまた一歩も退かない。

師弟の論戦は、再び過熱していく。

 

「それでも愛は残る!

愛し愛されたい、認められそのために認めたいという人の心が、支配関係や階級ではない人間関係を、社会を作っていくんだ!

それが、アイドルが作る幸福な社会!

アイドル社会には、無責任など無く、責任と承認ある愛がすべてを形作るのです!」

「そんなものは現実から目を背けた戯言だ!

付和雷同で流行に流される民衆の完全な制御(コントロール)など不可能!

結局はその大波に呑まれて全ての破滅をもたらすのみだ!」

 

「いいえ、それは違います!

みんなを輝かせるアイドルの基本理念こそが、その柱となります!

みんなが幸せになる未来へと羽ばたいていけるはずです!」

「アイドルは特権者ではありません!

愛されるもの、民衆の心を代表するものであって、君臨する暴君ではないのですから!

だから、皆(みんな)と共に、平和と希望を目指せるのです!」

 

「戯言に過ぎん!

この世は所詮、奪い合いの殺し合い!

誰もが自分を【被害者】だと宣言してマウンティングを取り合い、キレイな理想を錦の御旗としてエゴイズムの実現に邁進している!

こんな状態で【結束】や『調和』を説いてなんになる!

自浄能力を持てない集まりなど、独裁や衆愚政治(ポピュリズム)に堕するだけだ!

そんな愚民に頼れるわけがない!

破滅するだけだ!」

 

よほど民衆への信頼が無いのか、そこで女教師は更に語気を強めて、こう叫(さけ)んだ。

 

「お前は、他人に玩具(オモチャ)にされる人生で本当に良いのか?

他人の妄想(イメージ)に容易(たやす)く左右されてしまう、そんな存在を肯定するのがお前の自己承認(アイデンティティ)なのか?

そんなあやふやな神話存在としての己を良しとするのか?」

 

その言葉に少し思うところがあったのか、地下アイドルは僅(わず)かに怯(ひる)む。

『陰』となっていた方の『ラリスキャニア』が、ぽつぽつと語り出した。

 

「……確かに、ボク“ら”も他人に好き勝手に自分を支配されたり、自己同一性をあやふやにされるつもりまではありません」

 

「ならば!」

 

勢いよくそのまま押し切ろうとするラクルラール。

しかし、『陰』はそれを遮(さえぎ)った。

 

「けどそれでも…どうあるべきかとか、貴女に決めつけられる筋合いはありません。

ボクは、ボク"ら"は夢をみたいのです!

ある程度他人に左右されることは、誰かの夢であることの当然のリスク!

憧れられ、愛されるものは、決して完全に自由ではいられない。

けどそれが、それこそがボクたちの決めた道なんだ!」

 

そしてその言葉を『陽』が繋ぐ。

 

「ボク“たち”は、自分たちを夢見てくれる者たちを、そしてその夢の正しさを信じる!

共に同じ理想(アイドル)像を共有し、同じ幻想(ユメ)を目指して飛翔するんだ!」

 

それが理想像(アイドル)となることの代償。

 

どんな言い訳をしようと、また欠点や闇を認めさせることが出来たとしても…信奉者(ファン)の信仰(ファナティック)の束縛や干渉を無視しきることだけは、決して出来ないのだ。

なぜなら、

「「だってそれが…星を目指す者(アイドル)としての在(あ)り方なのだから!」」

 

重なる響きを前に、女教師はそれをフン、と鼻息荒く断罪する。

 

「英雄王傑でもあるまいに…飛んだ思い上がりだ

ならば、それがどこまで持つか示してみろ!

この私の舞台(ステージ)でな!」

 

「分かってます!」

「今こそ決着をつけましょう」

 

「後悔させてやろう…!」

 

そうして凄(すご)むラクルラールの背後に変化が起きた。

再び、九つの複雑な紋様が浮かび上がったのだ。

師の戦術を解析しつつあった元生徒“たち”は、その正体を即座に判別する。

 

「その攻撃は…!」

「『杖』による疑似『浄界』…!」

 

それは、一度はなんとか他アイドルの力を借りてしのいだものの、決して真(ま)っ向(こう)からは立ち向かえなかった超絶の絶技。

 

言わば、"九つの創世"

 

『ラリスキャニア』の前に広がっていたのは、新たに織りなされた九の"地獄"だった。

「来い」

 

しかし、招かれてしまっては否応(いやおう)もない。

その呼び声に応え、地下アイドル“たち”は、姿を“九人”以上に分割。

それぞれ朧(おぼろ)な多重影を引き連れ、九つの紋様に分かれて入っていった。

最後に、どこからかため息と共に響く独言(ぼやき)だけを残して。

 

(さて、ここまでは『再演』されていない…のかな?

ボク“ら”からは観測出来ないや。

ともかく、これからも“彼女”の期待に応え続けないと…全てをちゃぶ台返しされかねないからなぁ…)

 

それは、未来からの干渉者と“戦う”際の当然の心得。

相手がやり直し(リトライ)の権限を持つ以上、望む未来へ辿(たど)り着くには二つの方式しか残されていない。

やり直しきれないほど、決定的な結果(ルート)を確定させるか。

それとも、相手が満足するか。

いずれにせよ、それは途轍(とてつ)もない難事であった。

しかしそれでも『ラリスキャニア』は、飄々(ひょうひょう)とした姿勢(スタンス)を崩さず舞台(ステージ)へと向かう。

何故(なぜ)なら、きっとそれこそが、

 

(ファンが信じる“ボク”なのだから。

いや、“ボク”も“ボク”自身のファンなのだけれどね)

(ともかく、ベストを尽くすしかないねー)

(尽くしてなかったことなんて、今まで一度もないけどねー)

(そだねー)

 

だから、足取り軽く“彼女たち”は進んだ。

気軽に、気楽に、当たり前に。

いつものように前進する。

 

行き先の紋様は、巨大な泡。

全てを呑み込む、網目の迷宮。

 

九種の戦場が、そして恐るべき壁(きょうし)が、そこで『ラリスキャニア』を待ち受けているのだ。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。