幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
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激しい疾風。
どこにも大地や床が無く、もちろん壁など微塵(みじん)も無く。
存在する者は、気まぐれに吹き荒れる烈風に翻弄(ほんろう)され、引きちぎられ、乾燥機に放り込まれたかのように縦横無尽に引き摺(ず)り回される。
それは、風の部屋。
その有り様は、不可視のこね棒が支配する、巨大なすり鉢。
白、翠(みどり)、薄茶、紫、黄。
世界のあらゆる文化圏において、風を表すのに用いられる色の糸が、ここでは常に流動し、それでいてその都度(つど)カタチを織り成して…呪術的な圧力(ベクトル)を形成していた。
仕組み(りくつ)としては、単なる『空圧』の再演。
涼を得るための日用品にすら応用されている、言わば“枯れた技術”である。
だが、それは博物館や展示会における最新の目玉芸術(トップアート)でさえ凌駕(りょうが)する、呪術機構の産物(けっさく)だった。
見える糸が見えざる意図を、すなわち見えない大気のゆらぎや澱(よど)みを、まるで文章がその行間を含んでいるように描き出し、現出させている。
可視が紡(つむ)ぐ不可視。
凡庸(にちじょう)が呼び起こす神秘(ひにちじょう)
それは、気流の檻(オリ)
空間全体を呪いによって再構築した、透明な動く迷宮だった。
どれほど高解像度で世界を観れば、これほど精密に現象を記述出来るのだろうか。
どれだけの大胆さと決断力があれば、ここまでの過小な表現(プログラム)で、こんなに圧縮された情報を提示出来るのだろうか。
大気と言う見えない存在を、見事に織物で再演した国宝、いや世界遺産レベルの芸術(アート)が、たった“一人”のアイドルのために惜しげもなく蕩尽(とうじん)される。
それはある意味、途轍(とてつ)もない贅沢(ぜいたく)だった。
そしてそこでは…その背景(ぶたい)に負けじと演者たちが、最速を競い合いながらぶつかり合っている。
未来からの干渉と言う至高の先手(あとだしジャンケン)が、ラクルラールの攻め手ならば、無数の分身、無数の予見眼による並列高速…いいや、高速を超えた超アイドル高速演算、それこそが、『ラリスキャニア』の応手。
“師弟”は、互いに全速で活動し、裏をかき合う。
四次元方向(ベクトル)で時空を超え、光の速度すら超越したそれは論戦、情報(じゅもん)戦。
詭弁、難癖(なんくせ)、恫喝(どうかつ)論点ずらしに論点回避に論点先取。
合成の誤謬(ごびゅう)分割の誤謬、排中律と矛盾の悪用。
未知論証、対人論証、充填された語に循環論法。
誤った二分法、伝統へのアピールに目新しさへのアピール…
詐欺師や独裁者、広告戦にセミナー商法やネットワークビジネス、そして、新興宗教において頻繁(ひんぱん)に用いられる手法の数々。
"三人”が繰(く)り広げるこの戦場では、ありとあらゆる正道と邪道の技法――言いくるめや弁論術から営業話法(ビジネストーク)や詭弁術(ソフィズム)、泣き落としに演劇技術まで――が尽くされ、そしてその悉(ことごとく)相殺(そうさい)され、撃(う)ち落とされていく。
そんな高速の情報のやり取りは、交差しまた積み重なって、幾重にも独特の紋様(テキスタイル)を描き出していく。
情報戦の過程が、流動する周囲の糸に影響を与え、固定した形に織り上げているのだ。
それはあたかも、異界の遊戯にあると言う『綾取り』のようだった。
「言理の妖精語りて曰く、」
「言理の妖精――」
「言!」
「精!」
正道は『陽』がアイドル答弁で受けて立ち、邪道は『陰』がカルト教祖めいた怪しげな詭弁で受け流す。
更に、そこへ謎の新武器も投入されていた。
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注意!
以後あまりに公開不能な悪言が続くので、一部文章を差し替えて配信いたします。
それを念頭に置かれたうえで、引き続き『ラリスキャニアちゃん公開練習演目!復活の邪悪教師とゆらぐアイドル“たち”』をお楽しみ下さい。
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地下アイドルの少女“たち”は、それぞれ手に薄い何かの固まりを持ち、大きく声を張り上げる。
「また途中で拾った資料(テキスト)その2!
『夜の民』が理解不能な邪悪な怪物だと見なされていた時代の物語!
少年少女が出会って和平成立で入学!
そこに元怪物たちも入学みんなで勉強!」
「続きは無いけど、たぶん善人コミュ力超絶強化(スーパー・パワーアップ)!
相互理解達成、完全解決(ハッピー・エンド)!」
「「今のボクたちがいるから結果は良いに決まっている!完全証明(Q.E.D)!
『言の葉の物語』完了――!」」
怒涛(どとう)のように、謎の物語(ストーリー)が紡(つむ)がれ呪文となる。
すると、地下アイドルが手に持った手製の台本らしき紙束から、美しい少女の立体映像が現れた。
どこかあやふやな彼女は、ラクルラール目掛けてぎこちない剣捌(けんさば)きで切り掛かり、それを後ろから新たに出現した凛々しい青年が拙(つたな)い呪文を放って、支援(サポート)する。
それに加えて、それまでただの背景(モブ)、自意識を持たない鏡的反響生成物(オートマトン)としか思われていなかった“怪物たち”が、心を持つとしか思えない振る舞いで――