幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
まあ、そんな釈明(イイワケ)があのラクルラールに通用するはずもない。
「アキラくんが異性にそんな仕草(サイン)をするわけがない!
むしろ色々とされる方だ!
おのれミヒトネッセそしてラリスキャニア!
そしてそもそもそんなものを演目(パフォーマンス)で出すな!
死ねえ!」
もちろん、そんなことは承知の上。
と言うより、通用しなくても彼女を怒らせることさえ出来れば、この場合は成功なのだ。
こんなふうに、相手がなんとしても攻撃したくなるような、悪辣(あくつ)な要素(ネタ)を使えば、女教師は、その復讐のために再演(リセット)を取り止(や)めることだろう。
少なくとも、ひとまずこの“現在”を引き延ばすことぐらいは出来るはずだ。
そのために取れる手段は、今はこんな、その場しのぎの付け焼き刃のみ。
けれどそれでも、『ラリスキャニア』たちは共演者(ラクルラール)の圧倒的な呪力にもめげることなく、あくまで全力でぶつかっていく。
それこそが、自分たちのアイドル道だと心に決めて。
同時に、彼女“たち”は、気持ち(ムード)を盛り上げるため、ガンガンと音楽を鳴らしていた。
ドレスの簡易端末機能を使って、配信情報を再生しているのだ。
それは、高らかに希望と明るい未来を歌っていた。
共に高く飛ぼう!そして、見たことのない景色へ!
けれど、その背景音(BGM)に大きく顔をしかめながら、女教師“たち”は、吐き捨てるように言い放った。
「まだ言うか!
その変な自称を止めろ!
きちんと一人称で話せ!
いいか、唯一無二の自我を意識しろ!」
「そんなアイドル像、矛盾している!」
「だから、そんなもの耐えられるわけがない!」
こちらも多人数。
だが、その意志と主張は繋がっており、確かな統一性を発揮していた。
それは、“お前の在り方(パフォーマンス)を否定する”と言う、何よりの宣言(メッセージ)
ラクルラールは、相手の行動の外形だけをなぞりつつ、それを真逆の概念として表現することで、その持ち味を完全に殺す戦術(スタイル)を採(と)っている。
否定されているのは、地下アイドルが打ち出した新機軸、すなわち自己の不確かさや複数性。
それこそが、ラクルラールが最も嫌うところだった。
どう言う訳(わけ)か、この女教師は統合されたり『独立』していない存在を非常憎んでいるらしい。
だから彼女は、その“典型例”である地下アイドル“たち”を不倶戴天の敵と見做(みな)して、厳しい視線と敵意を飛ばしてくる。
まるでそれを認めることが、己れの存在意義を否定すると見做(みな)しているかのように。
だが、そうではないのだ、と多重存在として復活した“二人”は、あくまで反論する。
「どうあるべきかとか、貴女に決めつけられる筋合いはありません!」
「単独(ひとつ)に絞りきれない複数性こそが『ラリスキャニア』(ボク“ら”)の実体!
影や否定的なもの、あいまいさも含むのがアイドル、いやニンゲンとしての本質なのです!」
「「そしてそれを、誰よりもしっかりと顕(あらわ)す、それこそがボク“ら”のアイドル性!
ボク“ら”は今しっかりとここに存在しています!
こうしてこの在り方で復活出来たのも、それがファンに認められたから!
これがこそが、“ボクら”の“キャラ”!
認められ、アイドルとそのファンは、互いに認め合って存在しているのだから!
理想像を演じるのは、決して迎合でも妥協でもありません!」」
しかし、更に多重に響く反論が、それを否定する。
「「「否!単に流され、型に嵌(は)められている程度の者が、真に人気あるアイドルになれるわけがない!」」」
それでも、女教師が巻き起こす激しい気流の中、必死に姿勢を立て直しながら“二人”は交互に語り続ける。
「シナモリアキラ系のアイドルたちが、皆それぞれ個性や出自を持つように!
ときに期待に反する欠点(とくちょう)さえも、立派な個性(みりょく)となるのです!
個性を、闇と罪を、世評の風を!
翼に受けて、『ラリスキャニア』は飛翔します!
調和(バランス)を目指し、頂点へと駆け昇る!」
「そう、アイドル活動(アイカツ)とは、アイドルとファンが共に喜べる地点を探し、目指し続ける飛翔なのです!
みんながいるなら、どこまでも無限に飛んでいける!」
しかし、その声はより大きな音によって掻(か)き消され、遮(さえぎ)られてしまう。
ここは、常に風が吹き荒れる風の部屋、ラクルラールの擬似『浄界』のひとつなのだから。
それに、よく耳を澄(す)ませば、聞こえるはずだ。
笛のような音が幾つも鳴り響いているのが。
それこそが、この擬似『浄界』を強固にしている構造(りゆう)の一つ、音響による想念(イメージ)の伝達。
おそらく、この風の部屋を織り成す無数の糸の外には“外壁”が存在し、そこには多くの楽器の図柄(パターン)や楽器の機能を持つように立体成形された“糸の笛”が、大量に組み込まれているのだろう。
擦(こす)れ合う糸の群れは弦楽器(げんがっき)となり、吹き抜ける風は音を鳴らしまた新たな“空気の管(くだ)”を形成して、多重構造の管楽器(かんがっき)と成る。
風が風を、音が音を、そして定型が呼び起こす想念がより強大な呪力を呼び起こす。
これはもはや、風と音の巨大な神殿、大都市を支えるに足る大呪力源(だいリソース)であった。
その有り様は、まるで実現不可能とされる第二種呪的永久機関――無限の呪力回収と言う、夢想の具現を思わせる。