幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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202話 九つの異界、一つの戦い/共演⑦その2の58~59の途中まで

それこそは、気流の乱れ、天然の罠。

箒乗りたちは、それを空の物入れ(エアー・ポケット)と呼ぶ。

今、大気の落とし穴によって動きを止められた地下アイドル“たち”に、四方八方から風が牙を剥(む)いて襲いかかる!

 

そして同時に、その穴に仕掛けられた『窒息』という罠の中に飛び込んでしまった『ラリスキャニア』は、ついにその飛行を止められ、墜落していく。

大量の糸が織り成す偽物の大空に、見下ろされながらも落ちていく。

それは、意識を落としていく地下アイドル“たち”のその瞳には、一枚の巨大な紗幕(しゃまく)のように映った。

しかも、まるで念写動画館のように、そこにはうっすらと何かの影が差している。

おぼろげな、巨人の影が。

あれはきっと、かなり偉大な存在の似姿。

アイドル適性も、かなり高いに違いない。

その堂々とした姿勢は、王者やあるいはそれをも超える高位の存在であることの証なのであろう。

女王系や巫女系?

いやこの高貴さは、もっと高位でもっと莫大(ばくだい)な規模(スケール)を感じさせるような…?

 

こんな状況でさえ、反射的に愚にもつかないアイドル考察をする自分に苦笑しながらも、『ラリスキャニア』は、ゆっくりとその意識の灯を落としていった。

それにしても、実に奇妙なことにあの姿にはどこかで見覚えがある気がする。

長い腕は六王パーンの再演(アリュージョン)であるし、あの帽子はリーナを思わせるのは良いとして…あそこまで立派な翼耳とあの金の瞳(色は見えないが絶対に金だ。そんな気がする)の取り合わせは一体…?

クロウサー家ごちゃ混ぜじゃないか。

少なくとも、死霊使いガルズの模倣者(コスプレイヤー)やそのフォロワーには、あんな姿のアイドルは居なかったはずだが…?

謎は解けない。

 

大気に堕(お)とされながら混乱する彼女“たち”の眼は、天空を占める巨大な風の織物にキュトス神話には存在しない、どこか見覚えのある異形の女神を見出していた。

それと共に、大気の加護(ようりょく)が、ゆっくりと地下アイドルを見放していく…

 

 

息が出来ない、早く動かなくては!

 

逃げてゆく気泡を追いかける。

だってそれは貴重な酸素(じゆう)

それが無ければ生きていけない。

だからまるで恋する相手にするように、必死にそれを求めざるを得ない。

環境が欲望を強制し、それ以外の全てを振り落としていく。

 

ここは、二種の透明が織り成す、巨大な檻。

大気は、気まぐれにその紋様(しょざい)を変え、水は光を屈折させて、位置感覚を狂わせる。

逆波(さかまくなみ)、渦巻く波、打ち上げる波、沈みゆく波、離岸流(しんかいへとまねくなみ)、引き寄せ、引き裂き、吸い込み、押し出し、押し流す、有りとあらゆる水の強制力。

こここそは、水の部屋。

ラクルラールの水の獄。

“空”は青く、“海”は更に蒼い。

そして、そのどちらにも全く果てが見えない。

まるで、世界の全てが水没したかのような惨状。

そこは、伝え聞く第四世界槍を思わせるような、水と空気の暴走地帯であり、不出来なゼリーのように無数の泡を内包した、荒れ狂う水の遊戯場(ゆうぎじょう)だった。

その強すぎる湿気は、水上の空気中にさえ波紋を描き、にも関わらず時折混ざる泡(あぶく)は、どこまでも純粋無垢に透明で、あらゆる異物を拒絶する。

それは、金剛石(ダイアモンド)にも勝(まさ)る大気の水晶(クリスタル)

天然自然(じねん)を装(よそお)った、絶縁体。

 

せめてもの幸いと言えば、それがその中に土砂や瓦礫(ガレキ)などの異物が混じらない、純粋な水であることだ。

『杖』の分野で言うところの『純水』ほどではないが、これなら飲むことも泳ぐことも可能…理論上は、十分に対抗可能なシロモノだ。

けれど、だから何も問題がない、と言うわけでも無い。

この水に一切の不純物が混ぜられていないのは、すなわち仕掛け人である女教師が、そんなものは全く必要としていない、ということを意味しているのだから。

この波と泡の部屋には、毒や硝子片(ガラスへん)のような凶器は、元より不要なのだ。

 

神代より生きる魔女、ラクルラールが敵対者のために用意したのは、大量の水。

それだけだった。

なにしろ、莫大な質量とはそれだけで十分過剰な暴力なのだから。

有名な謎かけ(クイズ)にあるように、鉄と同等の質量の綿は、まさに鉄と同じ重さを持つ。

雪崩(なだれ)事故がもたらす死因にしても、その一位こそ窒息(ちっそく)だが、第二位は外傷である。

あの、軽(かろ)やかに宙を舞う雪でさえ、ちょっと質量が増えただけで、ヒトを圧殺し轢殺(れきさつ)する暴圧に変わりするのだ。

なら、文字通り山のように大量に集められた水を、残らず叩きつければ…その破壊力は、一体どれだけのものになるのだろうか?

このままでは、『ラリスキャニア』“たち”は、自らの身体でその答えを確かめることになるだろう。

 

 

 

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