幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
待ち受けるのは、まるで水晶(テレビ)番組における実証実験。
そこにおける、ダミー人形や果実(スイカ)のような将来像である。
それは、考える限り最悪の、バラエティ出演(デビュー)だった。
とは言え、地下アイドルたちにこの事態への抵抗力が全くない、と言うわけでもない。
そもそも“水の『浄界』”やそれに準ずる水の呪術自体は、比較的普遍的(ポピュラー)な攻撃手段である。
そのため、『ラリスキャニア』だって、普段から万が一の対策として、水中呼吸の呪符くらいは持っている。
更に、新調したうちの一着、『陰』のドレスにしても深海をイメージして製作され、実際に耐圧検査を潜(くぐ)り抜けた一品(いっぴん)である。
こうして、突然水中に投げ出されても無事生存出来ていることから分かるように、彼女“たち”は、この環境に対してもある程度の適応を示していたのだ。
けれど足りない。
その程度で、足りるわけがないのだ。
なにしろ『ラリスキャニア』は、あくまで地下アイドルであって、“水中アイドル”と言うわけではない。
彼女“たち”には、『地上』からの難民である魚人たちのような水芸も出来ないし、この間(あいだ)シナモリアキラ・アイドルがやろうとしたような異界芸術(アナザー・ディメンションアート)の『小便小僧』のような、水を活用出来る特技も無い。
(なお、その特技は使用前に『サイバーカラテ道場』経由で禁止され、その後なんだか下ネタが絡んだ論争に発展したのでそれ以上興味を持てなかった。曰く、全裸になるのは良いが“小”の方なのは『シナモリアキラ』としては解釈違いだなのだとか)
閑話休題。
ともかく、このアイドル“たち”は、水中で自在に踊るようなアイドルスキルなんて、まだ身につけられていないのだ。
更に、確かに『陰』のドレスも海適応の特注品ではあるが…ここは、あまりに眩(まぶ)しすぎる。
これでは、『ラリスキャニア』の『夜の民』としての力が、全く発揮出来ない。
高く打ち上げる波は、どんな高層ビルより澄(す)み渡った透明色(クリアカラー)の壁となり、アイドルの移動を制限すると共に光だけを反射し、増幅し、素通しで透過(とうか)させて、こちらに直撃させてくる。
真夏のような“日光”が、打ちつけてくる。
加えて、この空間が二種類の物質(マテリアル)で構成されているのも、また問題だ。
水と泡(くうき)、そのどちらに適応しても、すぐにもう一方が襲い掛かり、それを元の木阿弥(もくあみ)にしてしまう。
混じり合っているのは、共に性質が似通った流体ではあるが…いくら似ていても、別物は別物。
水と空気では、その圧力も保有エネルギーも、そして表現に関わる“属性”や“神話”も、その何もかもが違うのだ。
なのに、ここではその異質さが随時入れ替わり、どちらも凶悪なまでに稼働して、『ラリスキャニア』を常に翻弄(ほんろう)してくる有り様(さま)。
こんな環境では、舞踏(ダンス)も歌唱(うた)もやりようがない。
それに、言うまでもなくこの空間にある存在は、一つ残らず天然のものではない。
確かに、どう見てもただの水や空気にしか見えないし、自然にそのように振る舞ってはいるが…その全ては、やはりラクルラールが織(お)り上げた“織物(おりもの)”なのだ。
直接的に織ってあるか、あるいは織り上げられた品が投影する影や幻影、模様などによって再演された逸話(エピソード)の産物かの違いはあるかもしれないが…いずれにしてもど、そのどれもが『人工物』
ラクルラールの手製の檻であり、罠でしかない。
つまり、地下アイドル“たち”はまさに敵の手中にある。
絶対的なまでに、敵地(アウェー)なのだ。
そして、その無形の牢獄の主(あるじ)はいま何をしているかと言えば…彼女は、宙空で舞い踊っていた。
それも『地上』で言うところのウィータスティカの鰭耳(ひれみみ)の民…いや鰓耳(えらみみ)の民だったか?
ともかく、魚人(マーフォーク)の彼らを思わせる姿だ。
とはいえ、そんな魚類の性質を持つ民族でさえ、おそらくこんな空と海が混じり合った空間では、ロクには動くことが出来ないであろう。
だが、そんな魔境にも関わらず、女教師は野生動物以上に自在に動き回っていた。
その秘密は、おそらくその衣装(ドレス)にある。
それには、ウィータスティカの民とは明確に異なる点があったのだ。
それはまるで、鳥系闇妖精種(デックアールヴ)のような大きな翼を模(も)した飾り。
クルラールが装(よそお)っていたのは、羽根と足鰭(あしひれ)の両方を付けた、奇妙な姿であった。
『ラリスキャニア』の知るいかなる神話にも登場しないような、奇妙な肢体(したい)
それは未来に流行る何かの模倣(アリュージョン)なのか、あるいは遠い過去に忘れられたり、歴史の闇に葬(ほうむ)られている禁断の真実なのか。
いずれにしても、その服飾は奇怪であると同時に、この場において“最適解”であった。