幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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204話 九つの異界、一つの戦い/共演⑨その2の60の途中まで

空では翼、海では尾鰭(おびれ)

宙を羽撃(はばた)き、水を潜(くぐ)る。

その動きは、自在。

その攻撃は自由(フリーダム)

見知らぬ女神の形を取ったラクルラールは、全周囲、ありとあらゆる方向から『ラリスキャニア』“たち”を攻撃してくる。

それは、苛烈(かれつ)にして間断(かんだん)無き、無窮(むきゅう)の連撃であった。

 

だがしかし、ここで一方的にやられるばかりの地下アイドルではない。

そもそも、この絶え間ない攻撃は、彼女“たち”にとっても有利な変化をもたらしていた。

それは何故(なぜ)かと言うと…

 

「この攻撃こそが、新しい“環境”そのもの!」

「ならば、これにさえ適応してしまえば、十分に反抗することは可能なのです!」

 

敵の攻撃を前提とした、適応と反応の振る舞いを、可能としたからだ。

これすなわち、反撃機動(カウンター)である。

この時『ラリスキャニア』“たち”は、空中にその身を投げ出されていたが、それでも問題は無い。

彼女“たち”は“一対”であることを利用し、互いの身体を押してその姿勢を制御。

それにより、何の足場も無い場所にも関わらず、呪術や民族特性すら使うことなく、反撃に打って出ることに成功したのだ!

 

思わぬ突撃を受けたラクルラールは、防御もままならず水面に叩きつけられていた。

 

そして、こちらは“二人”であるのに対して、あちらは一人のみ。

戦術をその機動性に特化しているのか、この部屋に居る女教師の身体(ボディ)は、いまのところただ一つしか見当たらないのだ。

当然、向こうにこちらと同じ挙動が出来るわけがない。

 

更に、瞬間的な猛スピードでの空中疾走(エア・ダッシュ)を可能としたぶん、今回は『ラリスキャニア』が確実に優勢である。

ならば、ここで得意の触手握手攻勢に持ち込めさえすれば…

 

「良し、勝てる!」

「そしてここで勝てればまず一つは“白星”を挙げられるよ!…って、これは!?」

 

しかしその前に地下アイドル“たち”は、もっと早く気づいておくべきだった。

『ミルククラウン』と呼ばれる現象がある。

それは、粘性の高い液体に同様の液体を一滴(いってき)垂(た)らすと、その落下点を囲んで液体が王冠のように持ち上がる、と言うものだ。

いま、地下アイドルを包む空間で起きているのが、まさにそれだった。

急速に粘度を増した水が、女教師を新体操(トランポリン)のように跳ね上げ、同時に王冠が地下アイドルに牙を剥(む)く。

そしてそれ、は凄まじい高波となって、その中心へと恐ろしい速さで押し寄せて来た。

わざわざ、人形の身体に反応させるまでもない。

既にラクルラールはこの空間自体に、反動による反撃(カウンター)の機能を予め組み込んでおいたのだ。

 

上手を行かれた。

取った戦法を完全に上回られた『ラリスキャニア』“たち”は、大量の水を一気に叩きつけられ、見る間に深く静かに、そして猛烈な勢いで沈んでいった。

まるで、栓(セン)を抜いたバスタブのように強烈な渦が全てを飲み込み、地下アイドルはゴム製の『青い鳥』(ペリュトン)さながら、抗(あらが)えず水底へと堕(お)ちていく。

 

意識が薄れ、混乱する。

脳が酸素を欲するが、それを叶えてやる術(すべ)はもはやない…

急速に沈みながら気を失いつつある『ラリスキャニア』"たち"からは、上下左右の感覚も、更には日付や時間の感覚もあっという間に失われていった。

こうなっては、もうどうしようもないだろう。

いまの地下アイドルには、自分がどこをどう堕(お)ちているのか、どれだけの深みを“落下”してきたのかそれももう分からない。

何も分からない。

錐揉(きりも)みの勢いで沈(しず)みゆく、その身をどちらへ運べば上へ出られるのかも、どうすればこの止めどなき落下から脱出出来るのかさえも…

 

そういやそもそも『地下アイドル』の『地』って何のことだったっけ?

 

遂には、『大地』の概念さえも、その脳裏(のうり)からは消え失せていた。

何も意識出来ない。

ここが何処(どこ)で今が何時(いつ)なのかさえ…

 

 

走り続ける地下アイドルには、何が起こっているのかすら、まるで分からない。

分かるのは、ただ時を刻む音が鳴り響き、自分を取り囲んでいると言うことだけ。

 

彼女“たち”は、巨大な歯車の足場を飛び移りながら急ぎ続ける。

しかしなんだか、いま走り始めたばかりのような気がしない。

良く思い出せないが、なんだか随分(ずいぶん)と長い時間を走り続けているような?

 

それは、そこら中に時計が設置された奇妙な部屋だった。

ありとあらゆる種類の時計が揃(そろ)い、巨大な文字盤やデジタル画面が壁面を飾る。

 

時計の駆動音が無数に響き渡るなか、地下アイドル“たち”は、走り、飛び、登(のぼ)り、あらゆる死の罠を潜(くぐ)り抜けていく。

交差する時計針の刃、不意に飛び出す殺人鳩(ハト)人形、文字盤から現れ互いに銃器や杖やまなざしを向け合う姉妹らしき魔女の人形、突然爆発し捻子(ネジ)や発条(ゼンマイ)を撒(ま)き散らす置き時計、何処(どこ)までも付き纏(まと)う目覚まし時計ドローン、

何故(なぜ)か牢獄に入れられている見覚えのあるメイド人形の複製(レプリカ)…

ありとあらゆる困難を、『ラリスキャニア』“たち”は、その絆(キズナ)と連携(れんけい)で乗り越えていく。

おんぶ、肩車、組体操、曲芸雑技跳躍鞍馬(きょくげいざつぎちょうやくあんば)槍踊り…

一体何をどこまでやったのか、自分(たち)自身ですら分からぬ数限りない挑戦と攻略。

 

あらゆる仕掛けを乗り越え、ついに辿(たど)り着くは迷宮の主の下。

 

 

 

 

 

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