幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
※
闇。
全てを包み込む漆黒(しっこく)の中では、何もかもがどこにあるのか曖昧(あいまい)となる。
たとえそれが、自分の身体でさえ。
それは、全てを無知と混迷に落とし込む原初の無明。
もちろん、それにもこの世界(ゼオーティア)なら、いくらでも例外はある。
けれど、高度な呪術迷彩の下(もと)ではたとえ『夜の民』とて同じこと。
幻影による徹底的な視覚妨害がもたらすは、光も影も許さぬ真なる闇。
ただそれには、ただ一つの例外が存在した。
それは、間違いなく『光』だった。
闇のセカイの中枢は、真っ白に屹立(きつりつ)する一柱の女神。
松明(たいまつ)を掲(掲げ)げる女神像が、この空間の唯一の光源となっている。
言うまでもなく、ラクルラールである。
それは、“教示の光”
あらゆる愚者を導き、闇を照らす魅惑の誘蛾灯。
すなわち、教育系ミームだった。
そう、その光こそは、偉大で民主的な自由を謳(うた)う希望の灯火。
自由を象徴する、不滅にして無敵の輝き。
自由な徴税、自由な軍隊の駐留権、交易における自由な関税の撤廃権、自由に自国言語だけを使って振る舞うための標準化、自国に都合の良いルールに準拠した自由市場の解放、反民主的な国や政治体制に対する自由な武力行使やその支援…それは、自由を広める素晴らしき啓蒙の民が、自由かつ最低限の尊厳を得るために、当然の権利として要請(ようせい)する、絶対に認められるべき“ほんの些細(ささい)な”要求の数々…灯火の教育ミームはそれを振り撒(ま)き、布教(のうずいあらい)し、偉大なる教育者に相応(ふさわ)しいだけの尊敬と自由を、確実に確保していく。
まさに、自由(フリーダム)
しかも、それを否定することは不可能だ。
なにしろ、その“新しい(アップデートされた)自由権”には、“自由に自国に対する憎悪発言(ヘイトスピーチ)を処罰する権利”に加え、“自由に憎悪発言の定義を定め自らをそれから逃れさせる権利”が含まれている。
つまりこれは、改竄(ハッキング)や抵抗(ブロック)が不可能な光通信(ライト・インプリティング)呪文なのだ。
この女教師像が放つ偉大なる後光(ヘイロー)の前では、言理の妖精は倒れ伏し、解釈の余地が無い単純(シンプル)な命令の伝達者としてしか、機能することが出来なくなってしまう。
そこは確かに、ある意味自由の地だった。
しかしだからこそ、そこには一切の自由が許容されない。
ラクルラールの自由は、彼女以外のありゆる他者の自由との交換(ひきかえ)に依(よ)って存在している。
そこに『共生』や『共存共栄』と言った概念は存在し得ず、許容されるのは強奪(ごうだつ)と踏み付け、ただそれのみ。
怨念(おんねん)を呼び起こす『強者』としての立ち位置、秩序を構築する“絶対者”としての君臨だけが、ここに在(あ)る全てなのだ。
絶対的“上方(じょうほう)”から降り注(そそ)ぐ光が、それ以外の全てを『闇』と決め付け、あらゆるモノを己が価値観に染め上げていく。
そしてその光が、いま容赦なく地下アイドル“たち”に襲いかかってきた!
「輝かしき我が栄光の前に沈むが良い!」
“松明の女神”の堂々たる宣言。
まるで常に美白を宣伝(アピール)でもしているかのような圧倒的な閃光が、触れる全てを焼き尽くす!
とは言えもちろん、この程度の事態(ケース)はとっくに想定済みだった。
『陽』のドレスは、密林の蔓翠(つるみどり)
“光の側面”あるいは“陰中の陽(かげにたいしてのかげ)”としての属性を持たされたそれは、『夜の民』に親和的な装備でありながら、あらゆる熱と光に耐性を持ち、なおかつある程度はそうした攻撃さえ吸収する。
例(たと)え、街路樹の民(ディリビナびと)の達人が用いる奥義『陽閃』でさえ、このドレスなら耐えぬくことは出来るだろう。
だが…残念ながらそれにも限界はあった。
何故(なぜ)ならこの光は、“織られている”からだ。
そう、もはや毎度お馴染(なじ)みとなったラクルラールの織物呪術である。
それは、映像でしか見たことない土砂降りの雨のように、ドレス触手の“盾”を潜り抜け、未(いま)だ光に弱い『陰』目掛けて降り注いでくる。
「ぐっ!いたたた!」
しかも、
「大丈夫!?
今たすけ…けけけけ謙虚で偉大なるラクルラール学園長ばんざざざいいい…」
「もう一人の『ボク』!?
どうしたの!?
しっかりして!」
なんと、光を防(ふせ)げていたはずの『陽』にも異変があった。
慌てふためく『陰』は、手元に開いた配信窓から現状分析を受け取り、驚愕(きょうがく)した。
「なんだって!
この光の洗脳呪文は防御を貫通してるのか!?
進化する擬似オルガンローデ!?」
正しくは、随時再編型・織物式オルゴーの滅びの呪文。
『呪われた手編みのマフラー』『死の織物』などと呼称される、遥(はる)か昔に廃(すた)れたはずの呪術基盤である。