幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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207話 九つの異界、一つの戦い/共演⑫その2の62~63の途中まで

理論上最強とされる攻撃呪術・オルゴーの滅びの呪文は、二つだけ大きな欠点があることで知られている。

一つはもちろん、その長大な詠唱(えいしょう)時間。

そしてもう一つは、一度構成した呪文の性質をそう簡単には変えられないことだ。

 

これは、その二つの欠点を『織物』という形式によって解決しようとした、そうした試みであった。

それも一時(いちじ)は、自動織機のフル稼働(かどう)によって試(こころ)みられていたのだが…

試験(テスト)してみたところ、誤作動(バグ)や故障、連続稼働による部品の損耗(そんもう)そして操作者(オペレーター)による人為的失敗(ケアレスミス)が多発。

結局は、実現不可能な術であると否定され、忘れ去られていった。

それは、そんなものは織物の女神でも無ければ出来っこない、夢想である定義されて終わったはずの、古代の発想であったのだ。

 

だが、ラクルラールはそれを現代に復活させた。

いや、彼女だけは忘れていなかったと言うのが正しいだろう。

なぜなら、彼女こそがそこで夢見られた理想の存在…織物の女神であるのだから。

 

ではここで話を苦戦する『ラリスキャニア』“たち”へと戻そう。

 

 

超人的な編み物技術が、一切の遅滞(ちたい)無くもちろん失敗も無く、随時(リアルタイム)で編み物/呪文を書き換え、相手の防壁(ファイアウォール)を突破していく。

それは、自在に変化し得る呪文紙(パンチカード)にして、どこまでも対象を追跡する光の巻物(スクロール)

啓蒙(エンライトメント)の灯火が、教育を受けた文明人と野蛮を峻別(しゅんべつ)し、その定義をはみ出す全ての要素を滅ぼし焼き捨てていく。

女神のカタチをした灯台は、見渡す限りの全てを逃(のが)さない。

それは、絶対無比の正義の塔。

万物を監視するパノプティコン。

そこでは、一切の『陰』と『闇』は存在を許されない。

 

いや、その逆か。

存在を許されないもの、否定されたものは、ただこの部屋(セカイ)の中枢(めがみ)を讃(たた)える“引き立て役”としてだけその存在を欲(ほっ)され…それ以外のことは、一切求められないのだ

それは、全てを噛み砕く、巨大で非情な機構(システム)

そこでは、あらゆるモノはその歯車の一つとしてしか、その存在を許されない…

 

 

巨大歯車が宙で廻る。

工場は、歯車無しには動かない。

歯車(ソレ)は万物を動かす世界の骨格であり、筋肉であり、工場全体の循環を形成する、いわば“心臓”でさえあった。

そして歯車が“心臓”なら血液はベルトコンベアーだ。

 

あらゆる部品がベルトを流れ、工員たちの目の前を川のように過ぎ去っていく。

 

ここでは、何でも作る。

靴服帽子時計家具家電調理器具薬剤etc etc(などなど)…そして、当然それは目標(ノルマ)通りで無ければならない。

 

目標(ノルマ)、それこそがここの全てだ。

予(あらかじ)め細かく規定された作業の動作一つひとつや歩行速度、姿勢、服装、果ては呼吸や咳払(せきばら)い、そしてくしゃみに至るまで…工員のあらゆる振る舞いは、生産計画によって厳密に管理されている。

もちろん、休憩や食事の時間もそれは変わらない。

休養は仕事のためだけに在(あ)り、栄養補給は作業をこなすための身体を維持するためだけに行われる。

それもまた、製造作業の一環なのだ。

作業機械の整備をすることと、何も変わらない。

ここでは工員と言うのは作業機械の一種でしかないのだから。

 

工場は、こうして毎日を変わらず稼働し続けている。

それはまさに歯車のように、ぐるぐると同じ場所を回転してその軌道(レール)を外れないものだ。

そこに無意味な動作は何一つとして無いし、無価値な振る舞いは震(ふる)え一つすら存在しない。

してはならないのだ。

 

更に、工員たちは特殊なサングラスによってその視線(まなざし)さえも完璧に調整(コントロール)されていた。

寝るときでさえ。

それは、決して夢を見ないためだ。

工員たちは、その黒眼鏡を通してその視界(セカイ)や心さえも支配されていた。

 

もちろん、視認や行動には一切の支障は無い。

むしろ、裸眼(らがん)より優れているぐらいだ。

サングラスは、工場から支給された規定のアプリによってその視界が常に制御されている。

仕事をするために必要な全ての情報は、サングラスに投影され、絶え間なく供給されるのだ。

生活に必要な情報(こと)だって、全く同様である。

 

例(たと)えば現在の時刻は、ラクルラール未来世紀1984年終わり無き8の月、オルダーソン無限再帰日の4時44分44秒。

気温は、水沸騰百分率基準で233度。

ほら、極めて平常だ。

【ラクルラールは管理態勢にあり、世は全て事も無し】(システム・オールグリーン)

 

おかしいところは、何も無い。

 

更に、仕事をするための気力や呪力を回復させるための娯楽だって、完璧に計算されて支給され続けている。

その費用にしても、給与から自動的に天引(サブスク)されるため、面倒臭(めんどうくさ)い支払いや契約の手続きをする必要すらない。

 

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