幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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209話 九つの異界、一つの戦い/共演⑭その2の63~64の途中まで

工員は、◾️という概念を認識することが出来なかった。

それは、無意識領域からさえ◾️◾️されて消失していたのだ。

更に、過ぎゆく毎日はかつて◾️◾️ ◾️◾️ ◾️だった記憶すら奪い去っており、…いつしか全ては、定型(たいくつ)に埋没(まいぼつ)していった…

 

 

それはただ、灰色だった。

灰色に次(つ)ぐ灰色の日々。

来る日も来る日も、ベルトコンベアの前に座(すわ)り続け、同じ作業を続ける毎日。

食事の時刻になれば、皆、移動用のベルトコンベアに乗って一斉(いっせい)に食堂へと向かう。

 

しかも、たまに小さな変化があったとしても、それはすぐに是正されてしまうのだ。

ほら、アレなんていい例だ。

一人の工員がぼうっと壁を見上げていて、正社員人形に怒鳴(どな)りつけられ、あまつさえスープまでかけられる。

 

ここでは、非効率は犯罪なのだ。

だから、いつも影のように付き添ってくれる相方がいなければ、工員はとっくにダメになっていたことだろう。

なにしろ、昼間から◾️を見ているのかと叱られてしまっては、貴重な睡眠時間さえ削られてしまうのだから。

 

もっとも、やはりここでは夜でも◾️など見ないのだけれど。

◾️、◾️?

 

それも謎だ。

一体、何のことだったっけ…?

夜には眠り以外、何も無い…はずだが。

 

そんなことを考えていたら、また突然後ろから怒鳴りつけられた。

いけない、このままではもっと酷い目に遭(あ)う。

なにしろ評価ポイントに比べて、懲罰ポイントは増え方が激しい。

あらゆる機会に加算されていく。

それはあらゆる名目によって急激に足されて、累積していくことが多いのだ。

 

工員は、曇った全身鏡から目を離し、食事に戻った。

もう少しで、何かが思い出せそうだったのだが…これ以上考えこんで、目をつけられるわけには行かない。

もしそうなれば、懲罰ポイントは溜まっていくばかり。

溜まりきれば、行き着く先は解雇(リリース)しかない。

そして、工場都市によって家畜のように飼いならされた…いや、家畜そのものでしかない工員たちが解雇(リリース)されると言うことは、それ即(すなわ)ち明確な死である。

あらゆることに金銭が必要とされる都市(ここ)では、無職に生きる術(すべ)など有りはしないのだから。

 

何にしても、ここでは寮で過ごす時計の一回りと、職場で過ごす時計の一回り以上の間に、何の違いも存在しない。

◾️すら見ない疲れ切った眠りが、昼と夜とに恣意(しい)的な境界線を引いてはいるが…一体そんなものが、何になるだろう?

 

全てはただ、工場(しごと)のためにあり、それ以外には何も無かった。

 

 

そんな中、ある事件が起きた。

永遠に変わらないかに思えた殺人的な退屈の中、待望されていたはずの非日常。

それは、予想外に恐ろしいものだった。

 

「あ」

 

起きた事自体は、実に単純(シンプル)だ。

工員が一人、製造ラインに転落した。

 

「あ、ああああー!」

 

より明確な事態の認識が叫び声となり、その後を追う。

転落していく。

落ちていく、ベルトコンベアにそしてその先の破砕機械の顎(あご)の中へ。

 

粉砕、流血、混合。

 

全ては文字通りあっという間に、瞬(まばたき)より速く起こり、そして終わってしまった。

落ちた誰かは岩石と一緒に破砕されて、コンクリートに混ざる。

混ざって一瞬黒くなり、そしてすぐに灰色に戻る。

短編動画(ショート)としてタイトルを付けるなら、"衝撃の肉ミキサー"だろうか。

思わず、そんな巫山戯(ふざけ)た思考をしてしまうくらい、それは非現実的な衝撃だった。

恐ろしい出来事が起きたはずなのに、異様なほどその実感がない。

 

ブー!

そして、いっそ愉快な響きと共に警報音(サイレン)が鳴った。

世界が、赤く染まる。

精神的な衝撃のせい…いや違う、物理(つえ)的な意味で普通に赤い。

壁から警察車両のような回転灯(ビーコン)が出現し、工場(セカイ)を夕陽のように染め上げている。

まるで、一瞬終わってしまった異変を追いかけるように悔やむかのように、ただ人工的な"流血"だけが日常の破綻(はたん)を証立(あかしだ)てていた。

急な変化に、誰もがどよめく。

 

しかし、その騒(さわ)ぎはすぐに収まった。

サングラスを通じて、業務復帰命令が出たのだ。

なにしろ、工場都市の機器は全て優秀である。

工員たちが何もしなくても、事故の詳細なデータは残らず記録されるし、破損や"汚染"もすぐにきれいに取り除かれる。

原状復帰は驚くほど早く、電車の遅延ほどの時間もかからない。

もちろん、葬式も当然のように行われる。

それによって回収される呪力もまた、工場を動かす貴重な資源(リソース)となるからだ。

文化的儀礼は、『真面目(じゅうじゅん)で社会的(スタンダード)な社員』という定型(テンプレ)を維持し再生産し続けるために、重要な節目(インスペクション)である。

みすみすそれを逃す手は無い。

全ては、ラクルラール工場都市の円滑にして至高足(しこうた)るべきその運営のために。

小さな異変は問題なく、工場の運営(にちじょう)に回収されていったのだ…

 

 

しかも、驚くべきことに異変はその後も続いた。

工場の日常に、小さな変化があったのだ。

 

それは、食堂に起きていた。

 

 

 

 

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