幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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第21話(17〜18の途中まで)

暴れる左腕(耳に息をかけたり舐め回してくる)をガードするのに手一杯な悪魔(アキラ)触手を横目で見ながら、地下アイドルは口を開く。

 

「"悪"がそうしたものだとしよう。"悪"は触れるべからざる禁忌であり、排除するしかないモノであり、文字どおりの"悪い見本"でしかないのだと」

 

「何が言いたい?」

「簡単なことだよ、助手触手くん」

「誰が助手触手だ」

 

分身(しょくしゅ)からの反抗を受けながらも、ラリスキャニアは、更なる疑問を述べた。

 

「しかし、表現はそうした"悪"を描いては、伝達してはいけないのだろうか?もっと言えば、"悪"に疑問を持ったり、問い直すことは"罪"なのだろうか?」

 

「それは…」

 

有名人の過去の"悲劇"という"悪"そして"悪を楽しむ"という"悪趣味"を演じようとしている"興行主"は、自らの配下(やくしゃ)に、そう問いかけた。

彼女の問いは、まだ続く。

 

たとえば、"悪"の家族がいる場合を考えてみよう。共同体に反し害をなすのが"悪"。だが、その共同体のメンバー家族や友人、恋人などが"悪"であった場合は?」

 

地下アイドルの問いかけは露悪的だったが、それはわずかな観客に大きな影響を与えた。

 

聞き手である"二人"の触手とその左腕は、問いに反応して、ぴくりと身体を震わせたのだ。

まるで、何か思い当たることがあるかのように。

 

その反応を見て、満足したかのようにうなずくラリスキャニア。

 

だが、悪魔(アキラ)触手は、身体反応を抑え込むと、主(ほんたい)に反論した。

 

「その問いかけは、今回の問題とは関係無いんじゃないか?」

 

「ほう。では、キミはそうした場合"悪"である家族や恋人を、何の疑問も抱かずに排除すべきだと思うのかい?」

 

「そうは言ってない。そんなケースでも"悪"を定義する共同体やその法(ルール)自体が間違っている場合だってあるし、そうした事態を描くことは、確かに劇に、"表現"になり得るし必要なことでもあると思う」

「では、ボクがどんな"悪"を表現しても、別に構わないんじゃないか?」

 

「それは違う。さっきの例は、今回のように他人のプライバシーを利用するような場合とは、関係ない話だ」

「それはどうかな?」

「どういう意味だ?」

 

疑いのまなざしでこちらを見る悪魔(アキラ)触手に対して、一人劇の"興行主"は、己の主張を語った。

 

「そもそも、クロウサーの当主に『プライバシー』なんて存在しない、と言うことさ」

そこで地下アイドルは、再び洞窟の壁を指さした。

 

洞窟の壁には、幻像の窓がいくつも重なっており、その全てにとんがり帽子の少女が映っている。

 

少女は笑い、少女は語り、少女は箒で飛んでゆく。

ウェブマガジンの特集で、動画のインタビューで、公式会見で、そしてアイドルライブで。

それは、ラリスキャニアが集め続けた『空使い』の少女の映像。

 

リーナ・ゾラ・クロウサーは、あらゆる場所で縦横無尽に活躍していた。

 

「『空使い』リーナ・ゾラ・クロウサーは、常に人々に見られ、"あるべき姿"を期待され、そう演じている。彼女はもはや存在そのものがパブリックドメイン、いやクロウサーの商標だと言っても過言じゃない」

「そんな、グレンデルヒじゃあるまいし」

 

「いや、むしろグレンデルヒ――企業の紀人というのは、彼女のような企業を代表する人物、企業の創設者や代表者などの魅力的で話題性を持つ『企業の象徴』的な有名人を、原型(モデル)として模造(イミテート)された代用品に過ぎないと言える。あえて言えば、リーナこそが『本物』のイメージキャラクターなんだ」

 

「それは…」

 

それは、あまりにも人の尊厳をないがしろにした話ではないだろうか――と、悪魔(アキラ)触手は指摘することは出来なかった。

 

なぜなら、彼自身もしょせんは模造(イミテート)された存在に過ぎないからだ。

今ここにいる模造品(コピー)も『本物』(オリジナル)も、シナモリアキラとは、ことごとく複製的な存在である。

彼に関しては、真贋の区別など意味を成さない。

 

それならば、『空使い』リーナ・ゾラ・クロウサーもそれと同じ――そう言い切ってしまって、本当に良いのだろうか?

 

そんな悪魔(アキラ)触手のためらいを置き去りにして、ラリスキャニアはなおも語り続ける。

 

「ボクが演じた…そしてこれから演じる"劇"にしても、それらはすべて公開された情報を再構成・再解釈したものに過ぎない。家族の事情やいかにも"悲惨そうな"過去にしたところで、それは、こうして集めたリーナの公開(オフィシャル)情報のちょっとした並べ替えに過ぎないんだ。

 

有名人にプライベートもプライバシーも無い、それらは事あるごとに公開され、社会(みんな)の利益(きょうみ)のために供された生け贄となる――――とまで言うとさすがに露悪的過ぎるとは思うけど、ともかくそういうことだ。オフィシャルな、公開されて知れ渡っている情報を解釈の範囲で私的に編集しても、それはプライバシーの侵害にはならない。これがまず一つ」

 

「あのリーナさんに、そんな事情が…」

 

「まず一つ?」

 

天使(レオ)触手がどこか悲しげにつぶやいたのに対し、悪魔(アキラ)触手は話を促した。

"二人"の触手は、真逆の反応を示しながらも、等しく『相手役』という役割を果たしていた。

それはまるで、光と影のように。

 

「ああ、それが一つ目。リーナの劇が露悪的な"苦痛(ひげき)を表現の成功に利用"するモノにならない三つの理由の一つだ」

 

「今ひとつ納得がいかないところもあるが、理屈は分かった。残りの二つは何だ?」

 

「ニつ目は、演劇、表現の本質的な部分についての話になる。さて、また尋ねるけど、公開される表現(メディア)の本義、本質的な意義とはなんだと思う?」

 

「また質問か。ずいぶんと長引くな」

 

「まあそう言うな。長い説明を一方的に、しかも面白く出来るのは熟達した『呪文使い』だけの特権だ。『話が長い』『説明が長い』と言われても、なお話を聞かせ続けたり読ませ続けることが出来るのは、説明と描写の双方が優れている作品だけなんだよ。普通は、そんな文句が出る前に、飽きられて離れられるしかない」

 

本体のそんな言葉に対して、悪魔(アキラ)触手は肩をすくめた。

 

「いくらそれが褒め言葉に近いとしても、そうした文句さえも言われないに越したものじゃない。そう思っているかもしれないぜ、言われてる方はな」

 

「それはそうだろうなぁ。まあ、上手くて分かりやすい説明になればなるほど、説明手腕じゃなくて内容に話題が集中するわけだし、そこは仕方ないか。複雑な概念や事情の上手い説明は、それだけでも面白いものでもあるんだけど…良かった点より悪かった点のほうがどうしても言語化しやすいものでもあるしなぁ…ともかく、話を戻そう」

 

地下アイドルは嘆きを打ち切り、表現についての話に戻った。

 

表現の意義まで話が来れば、後は実際に演じるまですぐである…そのはずだ。

そうした"興行主"(ラリスキャニア)の想いを知ってか知らずか、悪魔(アキラ)触手は、ハキハキと本題について語りした。

 

「わざわざ"公開される"とつけたということは、そこに意味があるのか?」

 

「ああ、そうだ」

「なら、話は簡単だ。"公開された表現"なんてくくったところで、そのすべての内容を一律にまとめることなどは不可能だろう。だが、"公開"だけなら話は違う。要は、観客に、視聴者の大半にウケるかどうかだ。そうだろ?」

「その通り。だが、ここはもっとそれを厳密に定義したい」

 

「もっと厳密に…?ああ、分かった」

 

そこで悪魔(アキラ)触手は、手を軽く叩き合わせて"閃いた"ことを示す振る舞いを行い、そしてそれを告げた。

 

「それは『共感』だ。リーナの悲劇(くつう)を表現する理由のニつ目は、それが多くの『共感』を呼ぶからだと言いたいんだろう。違うか?」

 

悪魔(アキラ)触手は、そう問いかけながら、静かに、そしてごく自然に、身体の右半身をラリスキャニアの方に向けた。

朝起きて歯磨きをするかのようにさりげなくとられたその体勢は、まるで、闘争の前段階、必殺の一撃を放つかのような構えであった。

 

 

 

 

 

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