幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
一種類しかない日替わり定食に、今日はなぜか缶詰が増えていたのだ。
それも、貴重な肉の缶詰。
世にも珍しい熱量(カロリー)の増量である。
サングラスを媒介とした"指導"によって、"度が過ぎた"感情表現が禁じられているはずの工員たちの間に、初めて歓声のようなものが広がった。
だが、誰も聞こうとはしない。
缶詰の原料は、何なのか?
次々と姿を消していく工員(なかま)たちは、本当に退職(リリース)や配置転換(てんきん)していっただけなのか、などとは問わないのだ。
それは、ここでは答えが返ってこないことを、誰もが知っているからであった。
この工場都市を統(す)べるのは、資本主義という絶対の論理。
数値と図表(グラフ)
右肩上がりに上がっていくべき利益と、そのために全てを捧(ささ)げて奉仕すること。
ここに在(あ)るべきなのは、ただそれだけだ。
営利と言う唯一無二の価値基準に従(したが)って、工場ラクルラールは全てを使い潰す。
合理と経済性の名の下(もと)に、あらゆるものを享楽(きょうらく)するかのように蕩尽(とうじん)し、消費し尽くしていく…
※
ふと一人の工員が、工場へ向かう列車から外を見た。
見渡す線路はどこまでも繋がる環状(えん)であり、巨大な外壁の外は断崖絶壁。
この工場都市には、出口がない。
それは、円(まる)く果てのない実験迷路(モルモット・ルーム)であり、鍵も鉄格子も無い牢獄であった。
ここは、工場の部屋(めいきゅう)
ラクルラールの、罠の中。
ここには、必殺の仕掛けが無い。
それどころか、物理的に身体を傷つける機構が一つも存在しなかった。
そんなものは、最初から全く必要無かったのだ。
灰色の毎日は、ただそれだけでかつて◾️◾️ ◾️ ◾️◾️ ◾️◾️だった誰かから、心ごと呪力を容赦無く削り取っていく…
疲弊していく彼女“たち”は、都市の形が巨大な歯車であることにすら、気づかない。
“船員”たちは、溺れそうだった。
こんなにも、巨大な船に乗っているはずなのに…
※
※
※
世界は、完璧に南国だった。
灼熱の太陽が、純白の浜辺を照らし、完璧な異世界様式(コロニアル・スタイル)の建物が、真白くその陽光を跳はね返す。
そしてそんな浜辺(ビーチ)の中心は、一人の美女であった。
オールドスタイルな水着を、あえてバラバラに切り裂き切り込みを入れるという斬新な改変(アレンジ)
女教師はビーチチェアに寝そべり、過激な水着で浜辺全体のまなざしを集めている。
だが、その実態は、不可視なる監視塔(パノプティコン)でしかない。
ラクルラールは、寝そべりながら全てを支配していた。
彼女は、集まる視線を逆に支配し返す呪術装置。
この一帯の呪力(ミーム)の支配者。
すなわち、“生きた”広告塔だ。
そして、そんな存在がすることと言えば、一つしかない。
つまり…
「あー、アツい!
真夏の砂浜で食べる『火鍋』は最高に熱いな!」
そう、広告(コマーシャル)である。
なんと、ラクルラールは炎天下の中、ぐつぐつと煮える真っ赤な鍋を食べ始めたではないか!
しかも、それだけでは終わらない。
水着美女が、今度はほんの少しだけ寝返りを打つ。
すると何故(なぜ)か、そこには巨大な氷山があって…
「おお冷たい!
いやぁ、氷の中で味わうアイスは最高にクールだな!
これは、怠惰で貧乏な一般庶民には到底楽しめない美味だよ!」
そうだ、ここでは二つの楽しみが味わえる。
一つはご覧のように、氷山でアイスを食べること
そしてもう一つが、常夏のビーチで熱々の鍋物を味わうことだ。
ここで、女教師が指先を軽く動かした。
すると、彼女に集中していた視線(カメラ)は、するすると上空へと移動していく。
そうして広がる視界に映るのは、氷山と砂浜が平行的な位置関係を保ちながら、海面を移動している姿だ。
驚くべきことに、二つの地形は巨大な豪華客船によって運搬されていた。
莫大な呪力を用いることで、専用浜辺(プライベート・ビーチ)と私有氷山を同時に形成し、なおかつ海上での娯楽(レジャー)に"持ち運んで"いるのだ。
あえて無駄なことをすると言う、贅沢な楽しみである。
豪華客船は、熱砂の浜辺と氷山と言う異質な一対を、同時に運びながら運航を続けていく。
それを包み込む世界は晴れ渡り、何一つとして不幸が無さそうなそんな天気だ。
だが、そこへ一点にわかにかき曇りが生じていく。
突然、黒い雲が集まり天候が荒れ始めているのだ。
見間違いでなければそれは確かに、豪華客船のその船尾から発生しているようであった…
急に波が荒れ、豪華客船を後方から嵐が包み込んでいく。
しかもどう見ても、その“荒れ”は間違いなく客船の末尾から生じている。
これこそは悪質な呪波汚染、それも非合法な機関を用いたゆえに発生したもの…つまりは、れっきとした公害であった。