幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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211話 九つの異界、一つの戦い/共演⑯その2の65~66の途中まで

呪力の副作用。

未熟な、あるいは不適切な呪術の行使による環境破壊。

意図せざる、自然や生物心身への悪影響。

空間を歪め、物理法則に従わない災害を巻き起こすこと。

それこそが、呪波汚染。

それは呪術による大規模な自然操作がもたらした、大規模な歪みなのだ。

 

しかも今回豪華客船で行われているのは、氷山と熱砂の同時再演である。

これだけの無理をすれば、呪波汚染が起きてしまうのも、当然のことと言うしかない。

 

けれどそんな異変に構わず、豪華客船では、楽しげな宣伝がまだまだ続いていた。

気づけば、船上で無数の観光用アバターが遊び歩き、賑(にぎ)やかな雰囲気を演出している。

そこからは、今回の“興業主”たるラクルラールの目的が、明確に見て取れた。

人気取り(じゅりょくあつめ)である。

高級感があり、選ばれた上流階級(カネモチ)だけが堪能(たんのう)出来るような、娯楽施設(リゾート)の運営。

それを、アイドルの練習試合と言う特殊な状況を活かし、時季限定の快楽(アクティビティ)と定義して行うと言う、酔狂(フーリッシュ)

それは正(まさ)に、持てる者だけが行うことが出来る贅沢(ムダ)の精華。

言わば蕩尽(とうじん)であった。

狂気の沙汰(さた)、もしくは意識高い大学生(こども)の夢想としか評価されないような、そんな愚行(チャレンジ)

とは言え今の船上を見るに、どうやらそれは、確実に功を奏しつつあるようだ。

豪華客船には次々と観光アバターが訪れ、カジノなどの船内施設で遊ぶ者も急増しつつある。

そもそもこの練習試合は、二種のネットを通じて『上下』全世界に配信されているのだ。

面白半分の野次馬を集めるのには、まさにうってつけの環境であった。

 

ただし、もちろんこの状況で割りを食っている者たちもいる。

運営スタッフだ。

前述したように、ラクルラールは今もビーチで寝転びながら、撮影と配信のリアルタイム編集の並行作業に余念が無い。

当然、こんな状況の女教師に、観光アバター人形たちをもてなせるわけがないだろう。

だからこの船には、当然のようにその代行を担う従業員(スタッフ)が用意されていた。

彼女たちは、次々と訪れる観光客たちを甲斐甲斐(かいがい)しく世話をしていく。

施設案内、飲み物(ドリンク)の提供(サーブ)、マッサージ、船内カジノのディーラーなどなど…その業務は多岐に渡っていた。

そしてその手足には、きらきら輝く金属製のブレスレットとアンクレットが装着されており、首には太いチョーカーが巻かれていた。

更にそれら全ては光り輝く青いリボンによって、どこか遠くと結ばれている。

つまりこのスタッフたちは、ラクルラールに完全に拘束され隷属(れいぞく)させられていたのだ。

当然、この場で一番危険なのは彼女たちである。

難解で一方的に不利な契約呪鎖(けいやくじゅさ)によって何重にも縛られたスタッフたちは、逃げることも出来ずに次々と災厄に見舞われていく。

 

いや、正確には“逃げる場所”自体はあった。

だがそれは、ひどく狭き門。

スタッフたちは、その眼前に唐突に投影される選択肢を突きつけられ、強制的に難題(クイズ)への挑戦を強いられていた。

正答出来た者たちだけが無事に救命ボートへ逃(のが)れることが出来、そうでない者は、容赦無(ようしゃな)く汚染された荒海へと落とされていく。

 

そう、ここでは選り分けの試験(テスト)が行われていたのだ。

◯✖️クイズや曲芸で合格したものだけが避難ボートに乗ることが出来ると言う、それは死の試験だった。

そしてもちろん、その“選別”は見世物(エンタメ)として、更に賭(か)けの対象として資産家(カネモチ)たちの暇潰(ひまつぶ)しとラクルラールの金儲けに使われるのだが…

実は他にもそれが必要な理由は、充分にあった。

なにしろこの巨大船には、乗員全員に間に合うだけの避難ボートなんて、最初から載せていなかったのだから。

これまた言うまでもなく、船主(ラクルラール)にとってそんなものは、帳簿(よさん)に組み込みに値しない項目に過ぎなかったのである。

 

けれどああ、見よ荒れ狂う海のあの異変を。

時に腐った肉塊に、また次の瞬間には冷たく輝くラピスラズリの岩山へと姿を変えるこの変容。

そして、そこに生きていた生物たちのあの歪みようを。

ごわごわとした毛や人間のような手足が無秩序に生え出して苦しむ魚たち、胴体が変異した樹木に貫かれて沈みゆく鳥たち、急膨張(きゅうぼうちょう)と体質の変性によって空へと浮き上がっていく頭足類、連休にも関わらず休暇を貰(もら)えなかったため休載が決定し恋愛場面の続きを書けなくなってしまったweb作家……そこには、あまりに甚大な被害が多発し過ぎていた。

 

そしてそんな中でも、女教師はデッキチェアに寝そべり端末の操作に余念が無い。

彼女は忙しい。

なにしろ今、投資の真っ最中なのだ。

 

この瞬間に乱高下を始めた自身の株価が、地下市場でどう値動きするか、そしてそこからどう利益を取り出すのか。

 

彼女にとっては、それだけが関心の的だった。

全てが、利益(カネ)になる。

 

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