幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
とは言え、だからと言って周囲に無関心過ぎて呪波汚染に襲われるようなラクルラールではない。
なにせ、彼女には、その絶対の呪術の手腕がある。
ほら、見たまえまた弾かれた。
よく見れば、分かるはずだ。
たった今、ほんの一瞬。
彼女や観光アバターの周囲に、不自然な“空白”が出来たことが。
まるで、不出来な合成念写のように人物だけがセカイから浮き上がるあの光景が。
女教師は、ほんの片手間、投資の合間に片手を軽く振るだけで『糸の檻(オリ)』を形成し、あらゆる災厄から護(まも)りたいものだけを守護(まも)っているのだ。
そんな高度な数学能力と立体の演算をこなさなれば不可能な絶技を、ラクルラールはあくまで“本命”の商売(ビジネス)にさしつかえない程度に、しかも恐ろしい速度でこなしていく。
その高度な『技能』の前には、環境汚染を非難する批判も『道徳』的な怒りや糾弾(きゅうだん)の扇動も、更には工作を含む『炎上』の大火すら、絶対に届きはしない。
なんとなれば。
彼女こそは孤高(ゆいがどくそん)の女王、全てを支配する偉大なる超越者(オーバーロード)
そして経済を支配する大投資家(ミス・ワタナベ)なのだから。
ゆえに、回し車(ラットレース)から抜け出せない貧乏父さん母さん男子女子地下アイドルなどが、そんな彼女に敵(かな)うわけがない。
世界は二つに分けられる。
持つ者と持たざる者、支配する者とされる者、そして自分の物語を統制(コントロール)出来る者とそうでない者に。
後者、すなわち賢く希少(レア)な『技能(スキル)』の持ち主が『働き者』として『富(りえき)』と『地位』と『尊敬(しょうにん)』の一切を牛耳(ぎゅうじ)り、そう成れなかった一般人は『怠(なま)け者』として見下(みくだ)され、いくら働いても抜け出せぬ奴隷身分(モーロック)としてその生を終えることだけを、確約されて使役され続ける。
この豪華客船の船主がそのどちらかは、もはや言うまでも無いことであろう。
こうして経済の女王が君臨する中、豪華客船は二分され隣接する『地獄』と『天獄』が入り混じる混沌(カオス)へとあっという間に陥(おちい)っていった。
ただ、そんな中。
それでもスタッフ“たち”は必死に生き抜き、“興業主(ラクルラール)”の意図にも抗(あらが)い出していた。
彼女“たち”は、お互いに助け合い、難題の成否に関わらず全員でこの窮地を乗り切らんとしていたのだ。
とは言え、状況は実に厳しい。
荒れ狂う波が、怪物たちが、次々と襲いかかって来る。
その連撃は、凄(すさ)まじい。
それでも、スタッフ“たち”は必死に食らいついていく。
それは、風に翻弄(ほんろう)されるただの意思なき木(こ)の葉ではなく、嵐の海を渡る蝶であるかのような勇(いさ)ましさであった…
※
雷鳴が鳴り響いていた。
暗雲が天地を満たす。
紫電が走り、閃光が断続する。
爆音と衝撃に満ちる世界では、一切の攻撃感知は不可能。
ランダムな閃光で破られ続ける暗夜では、光と闇が順不同に入り混じる。
これでは、何を基調(ベース)にして適応すれば良いのかも分からない。
ありとあらゆる暗黒(くうかん)は、光の聖別によって強調され『異物』『他者』そして『ケガレ』としての面を打ち出されていく。
それは、『夜の民』すら殺す真なる闇。
無秩序に氾濫(はんらん)する光は、閃(ひらめ)く度(たび)に全てを斬り裂き、平衡感覚と視聴覚に加え、アストラル知覚や予知すら、完全に無効化していく。
その“音災”を背景音楽(BGM)に、女教師は問いただしてきた。
「指摘してやろう!
お前には、『怒り』があるのではないか?
地下に押し込められたものとして!
何者かに産み出され、過酷な競争社会に挑まされた身の上として!
抑えきれない恨みと憎しみが!」
ラクルラールは、高らかに宣言し、説教師のように教えを垂れる。
それこそが“確かなもの”だと、叩きつけてくる。
それは、この短時間で何度も繰り返された議論に過ぎない。
けれどそれでも、いやだからこそ、しつこく飽きるコトなく叩きつける。
力一杯、否定を押し放つ。
まるで、その主張(しんり)の確立こそが、己が存在と等価であるかのように。
けれど、『ラリスキャニア』“たち”は口々に言い返した。
「…否定はしません。
けど、そんなもの不要です!」
「確かに、怒りは消えません。
けど、切り捨てません!
理想像(アイドル)に不要なものは、みんな“影”が持っていってくれます!」
アイドルに相応(ふさわ)しいものは表の『陽』が、相応しくないものは、裏の『陰』が担い、価値の分別を図る。
そしてどちらも切り捨てず、失わない。
そう語り続ける間も、地下アイドル“たち”の姿は、絶え間なく流動的にブレ続けていた。
“二人”の姿は更なる影を纏(まと)い、それもそれぞれに融合と分離を繰り返し続けていたのだ。
そこから、力強い宣誓が発される。