幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
ただ、女教師の姿勢には奇妙な“力(りき)み”があった。
それは、何か“オリジナル”と信奉する存在、そのまなざしへの恐怖から逃れられないと思い込んででもいるような、“視線を意識した力み”だ。
その視線は恐らく、巨大で凍てついたような、不変の視線。
決して変えられない過去から投げかけられる、すなわち『死』のまなざしなのだろう。
けれどそれは、対面している地下アイドルにはまるで見ることが出来ないものでもあった。
恐らく、女教師以外の誰にも見えないのだろう。
だってそれは、彼女の過去に過ぎないのだから。
そんなふうに、ひたすらにこの場に存在しないソレに対抗しようとしている女教師は、常に過剰な“力み”に満ちていた。
それに対し、『ラリスキャニア』"たち"は、あくまで自分とファンや同僚たちの視座で困難を乗り越えよう試みており、その姿勢は脱力に近い"緩(ゆる)み"と若々しい活力に満ちていた。
恐怖(ざせつ)と信頼(きぼう)
真逆の眼差しを背後に受ける二人は、対極の概念を力と変えて激しくぶつかり合う。
「痛みが、孤独と絶望が!
そしてそこからの脱出を求める渇望が!
個我を確定させ、個人の価値を定める!
いつだってそうであったし、そうでなければならないのだ!
なのにお前という奴は…!」
「アイドル価値はヒトそれぞれ!
どんなアイドルになりたいか、どんなアイドルを推すか、
つよいアイドルよわいアイドル、そんなのをどう決めるかなんてひとの勝手です!
本当に推したいなら、どんなアイドルでもトップスタァになれるよう推し続けるもの!
そこに現時点の序列に過ぎない順位なんて、関係ありません!
個々の感性(クオリア)を否定し、ただ量だけを普遍的な価値として称揚(しょうよう)するのは、間違っています!」
そして、それらの戦いは論戦(ことば)の上では、ただ一つの対立に集約された。
すなわち、
「この『私』のために全てを切り捨て否定する!
そしてその否定を否定する者も否定し尽くす!」
『悪』や『汚れ(ケガレ)』と認定した対象を、切り捨てる存在確立(アイデンティティ)と、
「先生、ボクたちは常に付き纏う理想(ユメ)を憎み見下そうとするのではなく、一緒になって踊るべきなんです!」
「そしてその踊りの環をどこまでも広げていけば、それで良い」
「「さあ、一緒に踊りましょう!」」
認め合い、競い合うこと、愛し合い、癒しと受容をしあう、世話(ケア)で成り立つ自己承認(アイデンティティ)である。
一方が数値序列(ベクトル)と貨幣(スカラー)の蓄積による劣等地位の克服を掲げれば、もう片方は、対話(ことば)と見守る愛護(まなざし)による価値と尊重を信じてみせた。
そして、この対立自体、その戦い/共演なのか、殺し合いなのか、その対立する価値と戦術(いきかた)を巡る闘争であり…すなわち、相手(きょうえんしゃ)を自分の領域(ハウツー)へ引き込まんと、演技(ふるまい)の影響を競い合う表現闘争(パフォーマンス・バトル)でもあったのだ。
そしてその行き着くところは、それぞれ一言に集約された。
「ならば魅力がある方が!」
「勝ち残る!」
そう、演者/人形(アイドル)同士のぶつかり合いは、当然このような形を取るのであった……
そして、永遠に続くかと思われた睨(にら)み合いは、あっさりと打ち破られる。
先に動いたのは、地下アイドル側だった。
彼女は、どこからか小さなマスコットキャラクターを取り出し、それをドレスの一部である腕輪に装着。
更に叫ぶ。
「ネイル!リップ!アイシャドゥ!
教えて(テイーチ・ミー)ボクの秘密の奇跡(マイ・ミラクル)!
ボクも知らない秘密のボクよ!
異質な側面、押し隠した影!
キミこそが、ボクに力と新しい魅力をくれるんだ!」
同時に、もう片方がかつての師に対して呼びかける。
「先生、貴女だってきっとそうだったはず!
本当に自己を肯定するためには、普段切り捨てている影を、否定的な価値を見直し取り込まねばなりません!
光り輝くアイドルにこそ、昏(くら)いヒトの業が必要なのです!」
そう語った『ラリスキャニア』“たち”は、身体の半分を重なり合わせる独特のポーズを決めた。
身体は弱い。
それはあらゆる呪術や自然の力によってあっさりと打ち負かされ、容易(たやす)く変形と変容を遂(と)げてしまう。
幻想、物語もまた弱い。
それは強大な物理(つえ)的理屈によって押し流され、あっと言う間に変わり果て、打ち消されてしまう。
どちらも、己とは異なる存在に依存しなければ自己を維持出来ない、はかない概念だ。
…だが、もしその両者が互いに補い合ったら?
『ラリスキャニア』“たち”、つまり“一人で二人”の地下アイドルが辿り着いたのは、そんな境地だった。
対極にして相反するはずのニ要素の一致は、彼女の、いや彼女“たち”の力をかつて無いほどに高めていく。