幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
その原因、いや犯人についてはまたも言うまでもないことだろう。
ラクルラールが、そしてその背後の極彩色の空間そのものが、大量の罵詈雑言(じゅもん)を投げかけて来たのだ。
見慣れぬその輝きは、“色の洪水”とでも呼ぶべき色彩の暴力、複数の呪力を複合的に組み合わせることで、あらゆる防火壁(ファイアウォール)を擦り抜ける…言わば進化した『炎上』、『炎上2.0』であった。
そしてそれは、論(じゅもん)戦の幕を再び切って落とす合図となった。
元師弟は、力の限りの撃ち合いでお互いの攻撃を相殺し合う。
対立する二人はどちらも『呪文』が不得手。
ゆえに扱われているのは、どれもこれもが使い古された型(パターン)、その流用ばかり。
けれど、全力を込められそれぞれの限界まで、いや限界を超えた技術と熱量(じゅりょく)が尽くされたその『業(ワザ)』の数々は、まるで良く練磨された演舞のように宙に色取り取りの軌跡(きせき)を描き、花火のように炸裂(さくれつ)していった。
そんな時、『ラリスキャニア』を支援する地下アイドルの代表が、配信窓越しにつぶやいた。
〈これは、もしかして…〉
意味深な言葉、そして口籠(ご)もり。
まるで何らかの伏線(フラグ)のような発言。
しかし例(たと)えそれが勝利の箒旗(チェッカーフラッグ)だったとしても、それが振られる機会が回収されなけば意味が無い。
その隙を見せまいと、ラクルラールから続け様(ざま)に猛攻が放たれる。
熾烈な連撃は、女教師の全身を包む漆黒のラバースーツに新たな電飾(ネオンサイン)を走らせ、その表面に浮かぶ数多(あまた)の広告をも、その見えざる余波で揺らがせていった。
だが、その基調(ベース)たる黒色(こくしょく)には少しのブレも見られない。
あまりにも力強く、そして圧倒的な余裕に溢れたその姿。
それを目撃した地下アイドル“たち”は、もはやこの“擬似『浄界』”における対決劇の終幕(おわり)が近いということを、そしてそれが、師弟の共通認識になりつつあることを感じていた…
※
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白。
そこは、白に満ちた空間だった。
どこまでも広がる白い宇宙。
あるいは、ひたすらの閉塞(へいそく)
精神病院(こころのきゅけいじょ)の特別室(ほごしつ)の全面防音とクッションで施工されてでもいるような、柔らかなる窒息(あんせい)隔離。
矛盾した印象を与えるその場所は、もちろんラクルラールの部屋部屋(へやべや)の中にあった。
ただし、それを創ったのはかの女教師ではない。
ここのことは、彼女は何も知らない。
絶対に、知りはしないだろう。
なぜならここは非正規(イリーガル)な空間、『ラリスキャニア』“たち”が、九つの部屋の隙間に干渉し、無理矢理押し広げた不確定な新部屋なのだから。
ここは、いわば“前線基地”なのだ。
辺(あた)り一面には配信窓(モニター)が広がり、床や壁には保護色のような白い触手が蛸足(たこあし)配線のように這(は)い回る。
そして、その中央には唯一の家具。
一つの長い円卓が、これで充分とばかりに据(す)えられていた。
円卓を囲む人影は十三。
その姿はいずれも朧(おぼろ)げで、はっきりしない。
それが集(つど)うここは、各擬似『浄界』の“後方支援”を行う統合参謀府、いわゆる“司令部”と言うやつだ。
ここでは、それぞれの部屋から送られる情報を受け取り、分析してその戦況に対応するためのアドバイスや選択肢として情報を送り返している。
そしてそのために、このテーブルにおいて熟議(じゅくぎ)――建設的かつ深く考察された議論――が行われ、考えられ得(う)る最高の作戦がそれぞれの“前線”と言う現場に届けられる…と言う設計になっているのだ。
だが、残念ながら現状この“司令部”における熟議は…混乱の一途(いっと)を辿(たど)っていた。
「おかしい!」
上がるのは怒声。
しかし、その震(ふる)える声音(こわね)からは、困惑と不安が滲み出る。
「計測している先生の擬似『浄界』の広さが、いつまで経(た)っても確定されない!」
それに対し、口々に異議が上がる。
曰く、
「そんなハズはない!」
「計測にミスがあるのではないのか!?」
しかし、
「だが、現にそうなんだ!
この“部屋”には決まった広さが無い!
どこまでも拡大し、無限に広がっているんだ!」
議長『ラリスキャニア』はそう叫(さけ)ぶと、証拠(ソース)として背後の画面(モニター)に数表や縮小配信画像(ワイプ)を集約して見せた。
「時計の部屋、配信画面のコメントが欺瞞(ギマン)されています!
『ゲーム実況』用の情報制御呪術です!
こちらから伝言(メッセージ)を送ることが出来ません!」
次々と重なる警告画像は、その報告を明白に裏付けていた。
「なんだと!?」
「実質的な通信の途絶じゃないか!」
「これはもう作戦中行方不明(MIA)と判断するしかない!」
「作戦の危険度を見誤(みあやま)ったか!?」
騒(さわ)ぐ『ラリスキャニア』“たち”は、ますます混迷を深めていく。