幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
いかに触手分身を得意とする『夜の民』と言えど、一度に操れる触手の数には限界と言うものがある。
あまりに数が増せば、その内実は無限に引き延ばされ、ついには『ラリスキャニア』と言う存在そのものが拡散しきり、希薄化されてついには消滅してしまうことだろう。
そもそも、もし分身を無限にすることが可能なのであれば、ドラトリアがカーティスの後継者を大切に保存し続ける必要なんて無かったはずだ。
呪術にも技術にも限界と言うものはあるのである。
閑話休題。
丁度その時、衝撃の事実に硬直する円卓の人影を、強烈な光が照らし出した。
"火の部屋"に再現された強大な炎の像が、全てを焼き尽くす火焔(かえん)を放ったのだ。
それは、今生きる誰も見たことのがないはずの伝説の第八の創生竜。
よほどの知識と技術のせいか、それとも単に永命の不死者である織り手が実際にその姿を目撃していたのか、それは極めて真に迫った、恐ろしい美しさを備えていた。
そしてその恐ろしさは、純粋な破滅の具現として顕現していたのだ。
真夏の日差しのような閃光は、所詮その余波でしかない。
あの部屋で何が起きたのか、それを改めて語ろうとする者は、誰もいない。
だが、それが作り出した地下アイドル"たち"の表情の陰影は、焔がどんな結果をもたらしたのかを何よりも雄弁に騙っていた。
沈黙が、円卓を満たす。
ここでようやく、人影たちの正体が判明した。
それは、平たく透明で、片面に絵が描かれた板。
すなわち、等身大の板状人形(アクリルフィギュア)
『ラリスキャニア』は、戦闘力と演出力を極限まで削り、持続性(もち)を可能な限り引き上げた節約(しょうえね)仕様の簡易分身を用意していた。
それしか出来なかったとも言う。
その背景に流れるのは、大自然の暴力に加え、支配者を裏切り暴動を起こす大衆や争う軍隊の映像。
これはまず間違いなく、この世界(ゼオーティア)最低最悪の災厄、『言震』の前兆に他ならない。
一度それが“本震”に発展したら最後、その激震は間違いなく夢世界ごとこの“部屋部屋(へやべや)”を打ち砕くことだろう。
それに誰が取り残され、そして破滅してしまうかなんて、そんなことは今更言うまでもない。
そこへ、新たな声がかかった。
〈負けるわ〉
その澄んだ声音は『ラリスキャニア』のものではない。
いかに分身と複製を繰り返そうと、あの地下アイドル“たち”からこんな声は出てこない。
その言葉の主は、彼女"たち"の“外部協力者”である。
"無限の九部屋"での戦いをサポートしているのは、『ラリスキャニア』だけではない。
他の地下アイドルも間接的な情報支援を行うスタッフとして参戦していたのだ。
これまた言うまでもなく、その統括が務まる者はただ一人。
この地下アイドル空間でもっとも軍事と集団行動に詳しいグループの代表(センター)その人である。
彼女は、その意見を率直に述べる。
〈このままでは、あの教師には勝てない。
『SNA333』から派遣された今回の協力者として、地下アイドル空間の代表としてそれを宣言するわ〉
あまりにも冷たい言葉に、絶望の空気が円卓を包み込む。
押し潰されたかのように、打ちひしがれる者も多い。
だが、そこに希望を見出した者(フィギュア)もいた。
この声の主が、“彼女”が本物ならば、そこに信頼と活路の余地があるはずだ。
なによりこれが偽物の謀略なら、ここまで持って回ったやり方をするわけがない。
もしラクルラールなら、堂々と姿を現して降伏勧告をすればそれで済むし、怒り狂っていたあの女教師がそんな絶好の復讐の機会を見逃すわけもない。
つまり、この『SNA333』(アイドル・シナモリアキラ)の代表(センター)は本物であり、この言葉は彼女なりの助言(アドバイス)なのだ。
だから、そう考察した地下アイドルは、彼女を信じるという決断に向かって跳躍した。
まるで空中階段へ飛び移る、シナモリアキラのように。
だから、呼びかける。
「ボクは貴女を尊敬していて…素晴らしい力量と人気を持った宿敵(ライバル)の一人だと確信してます。
同じ地下アイドルのひとりであり、信頼できる呪術師である、と。
だから…貴女を信じます。
あの『SNA333』(巨大アイドルグループ)の代表(センター)ともあろう方が、ただボク“たち”を愚弄(ぐろう)したり、諦観を表明するだけために声をかけてくるとは、どうしても思えませんから。
どうか、言ってください。
あるんですよね、何か逆転の糸口(ヒント)が!」
果たして、その推測は正しかった。
それを証明する返答は、すぐさま返ってきたのだ。
〈…なら言うけど、ほんとうに些細(ささい)なことよ。
あの『浄界』の中には、氷雪系だけが無かった。
あの豪華客船の部屋の氷山はその例外に見えるけど…よく見ればそれだって慎重に管理されていて、決して部屋全体の"支配権"を握るような要素にはならないように、制御(コントロール)されきっている。
明らかにおかしいわ。
動きを止める攻撃は、彼我(ひが)の力量差を分かりやすく示す絶好の機会、ここで逃す手がないような"最適解"だと言うのに…〉