幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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222話 工場の策動その2の73~74の途中まで

 

 

 

毎日、曇った鏡を見つめている。

ずっと見ていたら、そこに何かが映るような気がするから。

 

今日も工場都市は変わりない。

気温もいつも通り、水沸騰百分率基準で二百産十三度。

誰もがサングラスの中の番組や広告や、上からの指示に没頭し続けている。

あるいは、その全てに違いなど無いのかもしれない。

なぜなら、何かを買うように促(うなが)す広告も、楽しげな雰囲気で理想像(あるべきすがた)を提示する番組も、結局はその全てが工場都市上層部(うえ)の意図によって制作され、配信されているだけの代物(しろもの)なのだから。

 

だから、そんなものに没頭する気にはなれなかった。

それは、自分の感情や悩みを覆(おお)い隠す欺瞞(ぎまん)のようにしか思えなかったからだ。

今の工員はただ、食堂で何にも染まれずたたずんでいるだけだった。

 

そんな時、突然声をかけられた。

 

「おい、お前」

 

「へっ…!?」

 

驚きのあまり、妙な声を出してしまった。

◼️ ◼️ ◼️ ◼️にあるまじき振る舞いだ。

 

しかも、その声の内容と言うのが、更に驚くべきことだった。

 

「お前は真面目に働いているから、今日から事務(ブルーワーク)部門に栄転だ!

良かったなぁ〜」

 

「はぁ…どうも」

 

あまりに突然過ぎて、反応に困る。

 

そもそも、この工場都市に栄転とか出世と言った概念が存在したことにまず驚いているぐらいだ。

それに、自分の能力考課が別段優(べつだんすぐ)れているとも考えにくい。

なにしろ、こうして昼休みも鏡を見てぼうっとしているほどなのだ。

確かに、流石(さすが)の工場都市にも、休憩中の従業員を拘束する律法(ルール)はそれほど多くは無い。

 

だがしかし、だからこそそれを補うために件(くだん)の番組だの広告だのが存在するのだ。

精神面からの支配(コントロール)と欲望の誘導(バイアス)制御。

おそらくだが、あれらはまず間違いなくそうした目的で配信されているものに違いない。

いくら昼休み中とは言え、それを無視しているのは都市への反逆行為だと見做(みな)されても仕方ないだろう。

そうした諸々の状況から察するに…おそらくこの声かけは、体(てい)の良い処分方法の一種ではなかろうか。

思わず、工場で実(まこと)しやかにささやかれる噂(うわさ)を連想してしまう。

曰く、呼ばれた者はもう二度と戻らないのだとか。

 

…とは言え、そう考え込んだところで組織(あいて)は待ってくれないし、辞令拒否も不可能だろう。

なにしろこれは、あのラクルラールの作り上げた機構(システム)なのだ。

下手に叛意(はんい)を見せれば、それこそ確実にハンバーグになって、食堂に帰還するしか無くなってしまう。

それだけは確実なことだ。

 

だが、同時にこうも思う。

まあ良い。

どのみち、この工場でボクがやるべきことなんて、もう何も無いのだから、とも。

それもまた、不意の事故(ろうさい)で唐突に相棒を失った事がもたらす必然の思考。

だから、あっさりと決断した工員は、“栄転”の辞令に従うことを選択する。

 

そして“彼女”は、

…ところで◼️ ◼️ ◼️ ◼ってなんだっけ?

と、どこか曇った頭をひねりつつ、栄転先へと赴(おもむ)くのであった。

その途中、工員の手元で一瞬、日差しが反射した。

それはまるで、そこに透明な何かが握られていたようだった。

 

だが、それもすぐに消え去る。

後にはただ、何事も残らない。

そこには、工場都市の平穏(ゼオータイル)な日々、全てがベルトコンベアに乗せられていくように、潤滑(じゃゅんかつ)に流れていく振る舞い(ムーブ)が、ただただ繰り返されていくだけであった。

 

 

 

 

一方、工員が一人栄転になった後も、工場では変わらぬ日々が続いていた。

 

だが実は、そこには密(ひそ)かな異変が生じていたのだ。

ひとまず、それをある一人の視座から見てみよう。

工場の通用路を、一人の工員が歩いている。

その作業服には汚れが無いうえに、あちこちに略章のようなマークまで施(ほどこ)されていて、いかにも高価そう。

更に腕には“KAPO”と言う、階級を示しているらしき刺繍(ししゅう)付きの腕章(わんしょう)まで巻かれている。

どうも、ある程度の地位がある社員であるようだ。

“彼”こそ、つい先頃に個人事業主(どれい)人形に栄転辞令を伝えた人物、あの正社員人形である。

 

そんな“彼”であるが…どうも、その気分はあまりパッとしていないようだ。

背筋からして猫背気味なうえに、その足取りは工場規定に触れるかどうかと言うほどに遅かった。

その正社員人形は、今日も勤勉に勤務をこなしながら移動していく。

その道中も、四角い黒リュックを背負って走り回る背負宅配(うばりよん・いつまでん)工員を叱咤(バカに)したり、理念物質亜空間倉庫森(アークマテリアル・ゾーンフォレスト)への製品の出し入れを行なっている者に激励(ケリ)を入れたりと、その行いは確かに、しっかりと社内秩序(ぶんだんとうち)を推進してはいる。

けれどその表情は、基本的にいつもどんよりと曇(くも)っていた。

 

その振る舞いから読み取れる感情はただ一つ。

空(むな)しさだ。

 

 

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