幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
空(むな)しさが拭(ぬぐ)えない。
どこまでもどこまでも付き纏(まと)ってくる。
"彼"は、思う。
自分は、必要なことをしている。
だから、その価値が認められ存在も工場(カイシャ)に承認されている…はずだ。
秩序(じょれつ)を再確認させるために、ちゃんと社則(マナー)通りに冷酷非情に振る舞っているし、その姿もきちんと周囲のポスターや端末画面(テレスクリーン)にあるラクルラールの目(カメラ)によって捉(とら)えられているはず。
それらに対しこれだけ目立って、工場への忠誠心と精勤を表現(アピール)しておけば…過酷な工場外の荒野領域(ダストスペース)に解雇(リリース)されることは、まずあるまい。
ましてや。"元"の地位(ポジション)に戻され、自分に恨みを持っているであろう怠け者(クズ)どもと同じになることなど、絶対に有り得ない。
更に当然、合間合間に賄賂(ワイロ)として、通貨代わりの合成チョコレートなども、きっちり入手してもいる。
これぞまさに、理想的な工員生活だ。
自分こそはここでも指折りの名工員(カポ)に違いないという確信がある。
…だが、なんなのだろう、この空しさは。
まるで、その全てに意味が無いようだ。
何も中身があることに接続していないような、そんな悪寒(おかん)が、どうしても拭いきれない。
この生活(じんせい)の全ては考えうる限りの最適効率だし、給与、待遇、地位、そして賄賂や接待など交換可能な価値の全ては、自分の存在(しょうにん)を確かに保証している…そのはずなのに。
そんなことを考えながら、決められた順路をただただ歩く。
決められた速度(ペース)で、定められた歩調(テンポ)で、サングラス(ARめがね)が命じるままに、ただ進む。
だが、その思考は唐突に遮(さえぎ)られた。
向かいから歩いてきた誰かと、肩がぶつかったのだ。
「気をつけろ!
ハンバーグになりたいか!」
反射的に怒鳴(どな)る。
怒りのあまり、思わず工場都市における恐ろしい噂の内容を叩きつけてしまったが…なあに、問題はない。
この程度では何の真実も明かしてはいないし、もちろん証拠も無い。
どうとでも釈明(イイワケ)は効くし、そもそもたとえ真相を知ったところでそれを周知(かくさん)するのは不可能だ。
ここには支給品のサングラス以外の情報端末は存在しないし、念写による撮影など、後からいくらでも改変できる。
最悪、真理顧問部(べんごまほうつかいども)の『呪文』を頼って過去改竄(かこかいざん)をする必要があるかもしれないが…まあ結局はその程度の話に過ぎない。
もしもネットに流れ、外部社会に公開されれば『上下』を問わず大きな問題となってしまうような違法…もとい"柔軟な"待遇についての工場都市(ここ)の真相は、結局どこにも漏(も)れないし、誰からも糾弾(きゅだん)されることなど有り得ないのだ。
…しかし、冷静に振り返ると今の衝突は謎だ。
工場都市(ここ)では全ての動線がリアルタイムで完璧に管理されている。
サングラスの業務アプリを通じて報酬や任務(クエスト)と固く紐付けされ、あらゆる移動は、常に精密に制御されているのだ。
工場内では、誰も彼もが工場長(ラクルラール)からのご褒美たる祝福(ガチャけんり)を求め、日々の任務(デイリークエスト)に夢中になっている。
何故(なぜ)なら社則(タテマエ)上はあらゆる必要物資が支給され、工員の生活が完全に補助されることになってはいるが…実際にはここでの暮らしは不備だらけだからだ。
石鹸(せっけん)などの生活雑貨、衣料品、調味料や食料品、そしてお菓子やより豪華(ワンランクうえ)なサービスや娯楽の数々…盗みや略奪、上役による徴発(ちょうはつ)が横行していることもあり、ここでの暮らしは欠乏(けつぼう)と貧困に満ちている。
だから、機構補助(システムサポート)や誘導(ナッジ)に逆らい、定められた順路(レール)外れるものなど、ここには居るはずがない。
工場が公認した奇跡(ガチャ)だけが、ここでの数少ない資本増加システム。
それによって少しでも生活に潤(うるお)いを補(おぎな)わなければ、工場内(ここでの)の暮らしは、本物の■■になってしまうのだから。
だが…現に衝突は起きた。
起こり得ないことが起き、名工員は混乱の中に取り残されている。
せめて犯人、衝突を起こした人物(グズ)を捕まえて捜査(ふくしゅう)をしようにも…気づけばそいつは、物凄(ものすご)い速さで遠ざかってしまっていた。
もちろん、個人履歴も追跡したがそれも無意味。
相手はなにやら重要な任務を与えられており、その内容も自分の地位(セキュリティクリアランス)では確かめることは出来なかった。
工場長(ラクルラール)の指令と任務は、全てに優先する。
何者もそれを邪魔してはならない。
それが、ここの掟(おきて)だ。
だから、謎の衝突事件に遭遇(そうぐう)した社員(カポ)は、気持ちのやり場を無くし、ただ立ち尽くすしかなかった。
しかしそれはそれとして、同時に"彼"は異変に気づく。
「…ん?
これは何だ?」