幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
あるいはそれは波。
話者の喜んだり、驚いたりといった感情、それに感応しまるで波のように共鳴していく波のようなうねり。
ただひたすら、そんな大きな盛り上がりだけは、密着する“彼ら”の身体を通して直接的(ダイレクト)に感じられるのだ。
気づけば、話は終わっていた。
しかし、聴衆はまだ何かを待ち望んでいる。
次の演目(コンテンツ)が始まるのだ。
そして間も無く。
先程までの話者が、さっと手を振った。
それこそが、合図だった。
唐突に薄闇の中、一斉(いっせい)に声があがる。
構図は完全に逆転していた。
今ではかつての話者が沈黙し、聴衆が歌い出している。
同じ文句(フレーズ)が、繰り返される。
それは、出来の悪い歌であった。
旋律(メロディ)は単純、歌詞も同じ語句(フレーズ)をいくつか繰り返すばかり。
それも、「奮い立て!」とか「我らは一つ!」とか、そんな言葉ばかりだ。
極めてシンプルすぎる、スローガンめいた練り上げ(クオリティ)の低い合唱。
だが、妙に耳に、そして心に響く。
聞いていると、赤い旗が鮮やかに翻(ひるがえ)るイメージが、自然と脳裏に浮かんで来る。
なんだか、どこかの戦いの映像で、そんなものを見た気がしてきた。
地上を蠢く死者たちの海を、赤い旗を振り回す黒騎士が突っ切っていく姿が目(まなこ)に浮かぶのだ。
代わりに用意されていたのは、再びの弁舌(ことば)だ。
どうやら、演説と歌が交互に繰り返される方式(スタイル)らしい。
なんだまたか、と未来(さき)を見切ったことで、倦怠(けんたい)と諦観に包まれようとした、まさにその時!
「キミ、ちょっと聞いても良いかい?」
予想外の現象が、侵入者(カポ)を襲っていた。
言葉が、"彼”に投げかけられ指差されていたのだ。
それも、選(よ)りに選(よ)って壇上の、あの人物から。
指名された。
今まさに、質問を迫られているのだ。
「ひ、ひぃ…っ!」
急な出来事に驚く。
だが、演説者はその想定される地位に反して、意外なほど優しく声をかけてきた。
「キミは、今困(こま)っていないかい?」
「こ、困って…?」
意味が分からない。
分からないまま、話は進む。
「そうだ、困っていないかい?」
「べ、べつに“ボク”は、いま困ってなんて…」
「そうかな?
じゃあなんで、キミはここへ来たんだい?」
そう改めて問われると、言葉を詰まらせずにはいられない。
…いやホント、なんでだったっけ?
そうだ、ここへ来たのは単に…
「好奇心で試してみただけ。
ただの試験(テスト)
気の迷いです!」
しかし、そこへ重ねて問われる。
「本当に?」
くどい。
正社員(カポ)は、苛立ちを込めて問いかけを突き放した。
「本当です!
もう放っておいてくださいよ!
通報は…とりあえず、しないでおきます。
だから、貴方も“ボク”を放っておいて下さい!」
そう答えると、演説者は今度こそ納得したようで。
「ふむ、良いだろう。
だが、覚えておきたまえ、気まぐれな試験官クン。
ここは、そして“私”は、いつまでもキミのことを待っている、と言うことを。
また来るなら、いつ何時(なんどき)でも歓迎しよう」
と、うなずいた。
そして、また歌が始まる。
今度は演説者も歌う(カポを除いた)全員での合唱だ。
足を踏み鳴らし、一斉に手を打ち鳴らす。
それは、対抗文化(カウンターカルチャー)を褒(ほ)め称える歌。
体制の外部(アウトサイド)、周縁であることこそを、良しとする思想。
工場都市(ここ)では絶対にあり得ない、そんな考えがこの場所では全肯定され、それへの共感が大きな声で斉唱(せいしょう)される。
それは、逆立ちした価値観の賛歌だった。
やがて、唐突に始まったそれは、同じくまた唐突に終わる。
どうやらこの演目(コンテンツ)にも、終わりは来るようだ。
そして、最後にこれを締めくくったのは…なんと、歓迎の祝福だった。
その呼びかけの対象は、もちろんこそこそと去り行こうとする相手であって…
「たとえそれが『気の迷い』だとしても、そんなことは関係ない!
キミは間違いなく、“私たち”の大事なお客様!
親愛なる隣人だ!
なんでもその望みを聞き遂げ、あらゆる手段を以(も)ってもてなそう!
我らが愛しき異邦人(グロソラリア)よ!」
だから、流石(さすが)の名工員(カポ)も、思わず立ち止まった。
「な、なんでまた?」
その最後の文句(ワード)が"、帰りかけの背に、彼"(カポ)に対して、突き刺さっていた。
思わず声に出たのは、反射的に浮かんだ疑問。
当然、応答を期待したものではなかったが…果たして、生真面目にも答えはまた返ってきた。
「…何故かって?
そんなのは簡単さ!
キミが遠くから来た…“私たち”とは違う存在だからだよ!」
なんだそれは。
あまりの違和感から、思わずまた反射で発言してしまう。
「意味が分かりません」
「どうして?」
「…だって、違うモノは排斥するのが当たり前じゃないですか。
そうでないと、気持ち悪い」
そうだ、そのはずだ。
それが正しい…唯一の真理、そのはずなのだ。
だから、