幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
あるいは、こう言うやり取りもあった。
「キミはこの街以外に、工場都市以外で暮らしたいと思ったことはないのかい?
違う景色、新しい社会、異なる人間関係、そして体験したことの無い仕事。
そういった“外部環境”を変えれば、自然と自分の振る舞いも変わってもっと幸せになれるとか、そう言うことを考えたことは?」
「観光なんて、アプリの仮想現実(VR)やネットで充分ですよ」
「ラクルラールに完全に管理され、内容を規制された体験がかい?」
「それは、そうかもしれませんが…けど、“みんな”使っているし、何より“彼女”はこの工場都市の支配者じゃないですか!強大な力、持続する権力と地位はそれだけで信用に値(あた)いします!だってそれは『成果』であり、つまり社会と実績(かこ)に保証されているんですから!
“凄(すご)いものは凄い”と定義して、何が悪いんですか!」
「ふ〜ん、それがキミの本当に大事な視座(かちかん)なのかい?
ボクには、とてもそれが良いものには思えないなあ」
「…貴方に何が分かるんですか!?」
「分かるさ。
ボクだってこの工場都市の住民だからね。
どれだけ『評価序列(ランキング)』が高いものを味わってもちっとも楽しくない、心で感じられるものが何も無いことについては、良く知っているよ。
何の味わいも色彩も感じない、無彩色(グレー)な日々のこともね」
「……」
または、
「常に監視される生活は空しくないかい?」
「偉大なる工場長(ラクルラール)は、私たちを善導してくださっているのです!
どのニュース動画や解説動画でも、そう言ってますよ!」
「そして、監視されて売り渡してる情報の対価で、日々の糧(かて)や些細(ささい)な嗜好(しこう)品、サービスやそれらを獲得するための抽選(ガチャ)権を得る、と。
キミの欲しいものは、本当にそれで全て揃(そろ)うのかい?
心から満たされたと、“飢(う)え”が無くなったと思ったのかい?」
「それは…」
その時“彼”は何も答えられず、沈黙するしかなかった。
またあるいは、他の参加者(しんじゃ)たちから、
「すごいですね!」
「頭良いですね!」
「さすが名工員!
さす名工員(かぽ)です!」
誰もがやたらと名工員の意見や提案をほめ称(たた)え、「それはいいアイデアだね」「さすがだね」とちやほや 優しく大切にしまくっていた。
そして、そうした信者たちとのやり取りは、幾度(いくど)も繰り返され、気づけば正社員(カポ)の地下通いは、すっかり習慣となっていたのだった。
もちろん、本人はそれを決して肯定しない。
“自分はあくまで確かめるために来ているだけ”
“こんなこと気まぐれでやっているだけ。いつでもやめられるから問題は何も無い”
そんなふうに、言い訳を繰り返しながら。
しかし、側(はた)から見れば、それはまさに――
まあ、それはさておき、そうして質問を重ねるごとに質問者と回答者の距離は少しずつ近づいていき…
いつしかオブライエンと名工員(カポ)の二人は、すぐ間近で親(した)しげに会話を交わすまでになっていた。
その“近さ”は、誰の目から見ても明らかであったのだ。
そして気づけば…“彼”はすっかり熱心に通い詰める信者(ファン)になっていたのだった。
そうなれは、関係性も変わる。
最初はちょっとしたお使いやお手伝い、なんてことのない世間話からの“うっかり”した情報の漏洩(ろうえい)
しかしそれも段々とエスカレートしていき、やがてついには…
*
「この動画を見る頃には、私は栄光の使命を果たし終え、この世から旅立っていることでしょう、と。
…まあ、こんなもんで良いかな?」
時が過ぎたある日、そう語った名工員(カポ)は、出撃の準備をしていた。
“彼”に伝えられたのは、ある秘密の暗号文(メッセージ)
ラクルラールの監視眼(パノプティコン)の篩(ふるい)を掻(か)い潜(くぐ)って再び伝えられたそれは、これまでとは一線を画する、決定的な行動の誘いだった。
差し出されたのは、二つの錠剤(ピル)
一つは赤く、もう一つは青い。
前進を、そして『真実』を示すのは前者だけ。
故(ゆえ)に、“彼”は、迷わず赤を選び取った。
今度ばかりは、流されてはいない。
名工員(カポ)は、今こそまさに決断的に選びとり、己が実存(アイデンティティ)を自ら決定したのだ。
それによって、その将来(こんご)も迷いなく確定される。
これから“彼”は、工場敷地内にある山岳に籠(こも)って機会を待ち、そこから、他班の毒ガス散布に乗じて都市唯一の空港を襲撃。
大型箒をハイジャックして、ラクルラール中央投資ビルに対して箒ごと突撃を掛(か)けるのだ。
既に、その攻撃の“成功を祝して”参加する勇士たちを記念する石碑も、建て終わっている。
これに先程の、「遺言動画」を加えれば、その改変力で必ずや作戦は成功することであろう。
もはや、我々の陣営は勝利したのだ!
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一方その頃、部屋の外界つまり『現実』では…
「さて、そろそろ分かったのではありませんか?」
人面樹、シナモリアキラを虐げ文字通り『尻に敷いて』、正確にはその“根”の下敷きにしている死の魔女は、静かにそう告げていたのだった。