幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
その吐息は、死そのもの。
彼女が喋(しゃべ)る度(たび)に、黴(カビ)や墓土の匂いに加え、濃厚な死臭が漂って来るのだ。
その悪臭と悍(おぞ)ましさは、気弱な者なら一瞬で昏倒(こんとう)させてしまうことだろう
しかし、
「何がですか?」
ラリスキャニアは、どうもその言葉を理解出来ていないようだ。
首を傾(かし)げる
そんな彼女に対し、死を司る魔女は涼しげに答える。
「あなたが負けると言うことです」
しかし、それでも。
「そうですか?
どう映像を観ても、“ボクら”が優勢。
勝利も目前でしょう!」
地下アイドルは、くじけない。
即座に言い返すその態度は、実に反抗的。
そして、事実としてその反論はしっかりと目の前の『現実』に保証されているようだった。
今のラリスキャニアは、絶好調。
夢からの風(じゅりょく)を四枚羽に受け、エネルギーは満タン、あらゆる意味でその心身は充溢(じゅういつ)していた。
しかし、彼女たちが見つめるその瞳の先、映し出される画面の中では…
※
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文字鍵盤(キーボード)を叩く音が、空間全体を満たしていた。
明るく照らされるオフィス街は、まるでその中に含まれる全てを祝福しているかのよう。
そこは、人造の天の国。
光り輝く文明と上品さ、そして機能美の極致。
ガラス、鋼鉄、そして白で統一され明らかに費用を掛けられて製作(デザイン)された壁面が、『文化』的雰囲気、すなわち呪力(ミーム)を常に供給し続ける、文明の城。
ラクルラール本社オフィスは、工場都市の中央上層部、何重ものセキュリティの奥底に護(まも)られ、存在していた。
そして、こんな場所に、迷い込んだ子羊が一人いる。
それはあの、毎日曇(くも)った鏡ばかりを見ていた落ちこぼれ工員だ。
“彼”は、理由(わけ)も分からず戸惑うばかり。
その混迷の原因は、目の前にあった。
工員の道案内を行い、オフィスの解説をしているのは案内ドローンではない。
なんと、ラクルラール御本人である。
もちろんそれは分体であり、この工場都市を支配する中枢の『本体』ではない。
だが、堂々と胸に社員証を飾り、風を切って前へ進むその姿は、まさしくこの王国(セカイ)の王(しはいしゃ)そのものであった。
その彼女は、大きく手を動かし事務階層(オフィス)全体に仕込まれた機構(ギミック)を起動させ、青い光の導線(いと)を通じてさまざまな放送窓(ウィンドウ)を動かしたり拡大させたりして、ここで行われている業務の説明をしている。
それらの説明の対象となっているのは、オフィスで働き文字鍵盤を叩き続けているこの都市の選民(ホワイトカラー)
すなわち、ラクルラール特製の創作用人形であった。
旧(ふる)い人類の欠点を改善し、より労働に適した不屈の耐久性、人工知能の不足を補う長く強靭な手足、更に機械保全用の超低温の室温に耐え衣類(せいふく)の支給さえ不要とする毛皮で覆われたその機体(ボディー)…それはまさに、進化した新たな人類、工場都市(しゃかい)人として『合格』を認定された逸材(せいしゃいん)たちの姿であった。
すなわち、『タイプライター猿』である。
その製作者は、大きく声を上げて彼らの美点を称揚(じがじさん)する。
「これからは漫画や小説は全てこいつらが書く!動画や映画の制作もだ!
こいつらは絶対に休載しない!そして常に売上序列(ランキング)の最新動向に適応し続ける!
それも瞬時にだ!常に流行作家の模倣(コピー)を最高精度で行い更にそれに統計と過去情報に基づく未来予測を加え適切な変化を与えていく!すなわちこれらは流行に追い縋(すが)り追い越していく無限進化の製作機械なのだ!」
更に、
「加えてレビューを書き、挿絵(イラスト)を入れ、装丁を整(ととの)えることも至って容易!
編集や校正だって完全自動化!そしてその読書と推薦感想文(レビュー)だって代行してくれる!
これでもう上司に押し付けられたり流行となっている本をわざわざ読んで時間を無駄にする必要なんてない!
これからは本に関する全てを使い魔が代行する時代になるのだ!アストラル体が脳が作り出す幻像に過ぎぬという定義が『上』に定着した以上もはや『交換不可能な人間の尊さ』や『人間性』などという戯言は過去の塵芥(ぽんこつ)に過ぎん!あらゆる創造(クリエーション)そして『芸術』(アート)は全て自動化と外部委託(アウトソーシング)が可能なのだよ!」
座席を埋め尽くす沢山の猿が、その演説に賛同して飛び跳ねる。
そんな部下たちに対し、部長ラクルラールは高らかに言い放つ。
「諸君は選ばれた存在であり、ラクルラール工場付属アカデミーで品質保証(そつぎょうしょうしょ)を得た選民(エリート)
言わば我が貴重なる『人財』だ。
さあ問おう!
皆エリート生活をエンジョイしているか?」
猿たちは、競い合うように…いや実際に競い合いながら右手を高く差し上げ、同時に逆の手や肩で同僚を妨害することで少しでも目立ち寵愛(ちょうあい)を受けようと暗闘を繰り広げる。
「キーッ!」
「キーッ!」
「キーッ!」
「我がラクルラール社のために常に前例(ぜんりょく)以上の成果(パフォーマンス)を上げられるか?」
「キーッ!」
「キーッ!」
「キーッ!」