幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
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洞窟の壁で踊る影が、交代する。
今、ラリスキャニアの自室である洞窟の壁を這い回る影は、まるで大きな爬虫類のようであった。
動画の壁と蝋燭、二つの光源に照らされその間をふらふらと動く影は、キャンプファイアーでも踊っているかのよう。
楽しげに、ゆらゆらと揺らめいている。
触手たちを含めたところで、この部屋にいる人数はキャンプファイアーにはあまりに少なすぎたが、少なくとも、それは愉快に踊っていた。
大きくなり小さくなり、ゆらぎ続けるその影は、今まさに産声をあげたばかりの未知なる怪物であるのかもしれなかった。
そんな影を投げ掛けている張本人、悪魔(アキラ)触手の左腕は、己の本体(あるじ)に語った。
「クロウサー家、ペリグランティア製薬、そして『呪文の座』の総力をかけたPR、アキラ様(【サイバーカラテ道場】)を引き立てるためだけのかませ犬(ジョバー)を作るために書かれた物語。アキラ様、あなたもあの九槍を苦しめた。動画を使い小説で訴え、メディアで相手の触れられたくない過去をほじくり返して利用したじゃありませんか」
「――ああ、そうだ。それは弁解しない」
悪魔(アキラ)触手は、床に抑えつけられ、苦しげな表情を浮かべながらも、言葉を絞り出し続ける。
「『あの時はああするしかなかった』とか『こちらにも正義があった』とか『あっちだけ反則(チート)な自己強化(バフ)山盛りにしやがって、聖騎士とか呼ばれてるなら少しは自重しろ』とか、そんな言い訳を言うつもりはない」
「思いきり言いまくってるように聞こえるんだけど」「言うつもりはない!」
食い気味で地下アイドルのツッコミに反論した悪魔(アキラ)触手。
その返答に対して、彼の頭上からもたらされた反応、それは微笑みであった。
かつて女神であった悪魔(アキラ)の左腕は微笑み、彼に更なる言葉(じゅもん)を投げかける。
「己を“悪”だと自認しながらもそれに甘えず、少しでも規律を正し、人を守ろうとする貴方の姿勢は実に立派ですわ」
「俺はただ、恩人を無思慮に利用されるのが、許せないだけだ」
「“恩人”ですか。そういえば、リーナが、炎上事件で火消しに回ったこともありましたね。ですが、自らが“悪”であることを否定しないその生き方は、自分を傷つけるだけですよ、アキラ様」
左手は、もはや本体の大元であるラリスキャニアの存在など完全に無視して、一方的に語り続けている。
「傷なら治せば良い。それだけだ」
「それが簡単には出来ないからこそ、傷なのですけどねえれど私は、そんな貴方を責めるつもりはありません。赦し受け入れます」
「その必要はない。間に合ってる」
「アキラ様、あなたはあまりにいさぎ良すぎる。そんな態度ばかりとられると、あなたは周囲の人を傷つける一方になってしまいます。誰もが、貴方のように罪に対して開き直れるわけではない。過去からの糾弾に上手く対処出来ない人々は、やがて必ずや貴方のまわりから遠ざかっていくでしょう」
「……」
沈黙する悪魔(アキラ)触手。
そんな"彼"を見て、喋る腕は
「まあ、あれは、そんな開き直る道を突き進むのですが。全く、『杖』使い臭い極端な合理性はいつ見ても変わらない……変えようがないのですね、やっぱり」
と、どこか遠くへ向けて独り言をつぶやくと、急に悪魔(アキラ)触手へとその身を近づけた。
それは、床に押し付けられて苦しんでいる本体をさらに強く押し付ける行為でもあったのだけれど、そんなことはお構いなしだ。
左腕の魔女は、己の見たいモノしか見ていない。
あるいは、愛しい相手すら、その眼の中には入っていないのかもしれなかった。
「だから、もう何も気にしなくて良いのですよ」
「な、何を…?」
そうして床に押さえつけられながらも、なお無理して上の左腕(ディスペータ)と会話をしようと試みる悪魔(アキラ)触手。
無理やり上を見上げようとしているそんな“彼”の苦しそうな姿を見下ろしながら、左腕の魔女は楽しげに返答する。
「全ての責任は私が持ちます」
そして、その"身体"を広げた。
所詮は人体を模した形状の一部、小さな末端に過ぎないはずのそのボディが、洞窟の様式に整えられたマイルームの壁に巨大な影を落としている。
その影が……
「私がなんでも面倒を看てあげましょう」
花のように開き…
「全ての劇は私が観客で、全ての劇は私が主催する」
形を変え…
「大道具も小道具も、全ては私の意のまま。アキラ様は、ただ安心して身を任せてくだされば、それで良いのです」
まるで大きな口のような姿となった。
そして、いつのまにか悪魔(アキラ)の左腕(まじょ)は、無数の呪文を、ケープかストールのようにまとっていた。
洞窟マイルームの壁に広がる影、スクリーンの映し出されたその姿は、まさに…影の竜であった。