幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
そこで更に、ラクルラールは高らかに謳(うた)った。
「もちろんお前が残していった悪影響も既に対処が終わっている。
見るが良い!」
そう言って、部長が指差す画面の中には…どうやら、工場都市の別のフロアが映っているようだ。
そう、ここでの仕事(タスク)は並列処理が基本。
ラクルラールの手(いと)はこの閉鎖空間(セカイ)の隅々(すみずみ)まで及んでいるのだ。
※
そして同時刻…工場エリアの地下、すなわちあの秘密の集会所において、事態は急変を告げていた。
演説者の背後に掛けられていた絵画が描き変わり、隠されていた巨大な画面(テレスクリーン)――監視装置の存在が暴(あばか)れる。
この秘密集会の会場は、楽園などではなかったのだ。
衝撃の事実を知った名工員は、絶望の叫(さけ)びを上げる。
「そんな、貴方が裏切り者だったなんて!」
「私だけではないのだよ」
その言葉と共に、フロア中に変化が起きた。
壁にぽっかりと縦長の闇が開き、隠し扉の存在が明かされたのだ。
そしてそれは、ただ一つでは終わらない。
次々と出現する無数の闇、扉の穴。
更にそこから現れる者たちもいる。
素早く整然と走り、観衆の周囲を取り囲むのは上級正社員(ハイグレード・カポ)の面々。
つまりは、この工場都市における『憲兵』だ。
その絶対的な武力を背景に、オブライエンは語りかけてくる。
あくまで親しげに、まるでこれが大した事ない些細(ささい)な出来事であるかのように。
「以前、『免疫』の例えを出したね。
今こそ、その詳細を教えてあげようーーそれは、異物(バグ)を取り込むことだ。
どんな堅牢な機構(システム)でも、必ず綻び(エラー)や雑音(バグ)は発生する。
それは、ラクルラールが未(いま)だ『全知全能』の女神ではないことに由来する。不可避の災厄。
だから、彼女は発想を逆転させたんだ。“どうせ綻びが不可避なら、あえてそれを発生させて吸収すれば良いってね”それこそが、今ボクらが行っている“バグを利用した自己の強化改造(アップデート)だよ。
仮想の対立を演出し、防衛が成功することを保証された攻撃(テロ)をあえて行うことによって、防衛力とソレへの信頼(じゅりょく)を一気に強化する。攻撃的呪文使い(ハッカー)だって、企業や政府に雇われて警備網(セキュリティ)の訓練に参加したりするだろう?異邦人(ゼノグラシア)あるいは異端者(グロソラリア)こそが、組織(システム)を強化するために必要な、最高の『贄(にえ)』なんだよ。言わば『ワクチン』だね。要するに、キミたちは意図的に引き入れられた“弱毒化された有害物”に過ぎないのさ。どうやら
随分と悲壮な覚悟で凶行(テロ)に挑もうとしていたようだけど、実はそんなの避難訓練と大(たい)して変わらないんだよねぇ~」
「そんな…!
私たちの『革命(レビュー)』は、仕組まれていたというのか!?」
いつしか完全に反乱組織の一員となっていた彼が受ける衝撃は、とてつもないものがあった。
「キミたちのやっていたことは、結局はただの『ガス抜き』そして『娯楽』に過ぎなかったのさ。
役割があることの充実感、外集団(やつら)を『敵』として憎み対立することでの“内集団(われわれ)”と言う『居場所』の確立、仕事と無関係…と言うことになっていた親しく苦痛を感じない『気遣(きづか)い』や『思いやり』に満ちた人間関係、習得が容易な知識や行動でも可能となる承認や達成感に、返報性がもたらす義務感。
そして、推奨される行動をすれば~幸せになれる/しなければ地獄に落ちるという快楽(アメ)と恐怖(ムチ)
結局キミたちは、普段の広告とはちょっと変わったやり方で誘導(ナッジ)されていただけなんだよ]
「そ、そんなはずはありません!
私たちは…私は確かに『決断』をして…犠牲と痛みの上に新しくより良い世界を築こうと…」
勢いよく反論するも、その威勢も話すうちにどんどんと消えていってしまう。
そんな"勇敢な兵士"相手に、裏切り者は笑って言った。
そうだね。確かにそうだ。キミは確かに“決断”した。
『自分はこの世界に違和感を感じるはぐれ者で、だから正しい革命家なはずだ』『自分だけは真実を知っている』『決断して今の全てを捨てれば、自分も世界も変えることが出来るはず。今までと違う、素晴しい未来(あした)が待っているに違いない』『だってこれは、"真実の教えを受けて""自分の頭で良く考え""心(かんじょう)で納得して決めたこと"なんだから』そんなふうに、完全にボクらに制御(そうさ)された通りにね。キミみたいな、ただひたすらに、見慣れたものとは違う革新(あたらしそう)を選び続けるだけの保守的(こせいてきなつもり)な革新(へそまがり)嗜好なんて、こうも簡単にコントロール出来る。ほら、ちょうどこんなふうにね」
その言葉と共に、彼の手の上に手品のように赤い錠剤(ピル)が現れた。
しかし、それは瞬く間にその姿を変えてしまう。
「ほら、赤い薬でも青い薬でも、実はどちらでも変わらないんだ。
"真実に目覚めて"用意された救世主(メサイア)演じるのも、そうしないのと変わらずボクらが敷いた路線(レール)の上を走るのは何も変わらないからねぇ」
オブライエンの、そしてその背後の画面に映る工場長ラクルラールの手のひらの上、確かに赤だったはずの錠剤は…今ではもうその色がまるで分からない。
それは時々刻々とその色彩を変え、色とりどりの万色に光り輝いていた。
無限の変化、ただし完全な無意味。
完全に支配された自由(さっかく)の象徴。
英雄とその勝利(せいこう)の悪質な諷刺(パロディ)
それはとても美しい、希望のような絶望の輝きだった。