幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

232 / 272
232話 工場の策動⑪ その2の81~82の途中まで

名工員は…いや、もはやかつてそう呼ばれていただけの罪人は、思わず目の前の相手に向かって問いかける。

 

「貴方は…貴方は一体何なんです!?」

 

「さっき説明したろ?ボク自身もキミと同じさ。『トロイの木馬』いや、こう言っては分からないか。

要するに囮、人工的な間違い(バグ)だよ」

 

そう語るや否や、“彼”の姿は急激に変わり始めた。

元から朧(おぼろ)げだった目鼻は完全に消え失せ、ローブ状のゆったりした服と肉体は一体化。

全身に垂直に交差する直線が浮かび上がり、その色合いもたちまちインクのような青に染まっていく。

それは、十字の線が無数に重なり織り上げるヒトのカタチ。

超絶的な技量によって、最小限の資源(いと)だけで立体となった青の塊。

まるで計算幻像(コンピュータ・グラフィックス)の基礎的なお題であるかのような、簡素な姿。

つまりはその正体は、十字線分(マトリックス)で形成された、ただの編み人形(マネキン)

文字通り、ラクルラールの操り人形であったのだ。

 

その“編みぐるみ”が、語りて曰く。

 

「“オブライエン”とは『猫の国(いせかい)』から持ち込んだ単なる引喩、本質を覆い隠す部分を誇張した仇名(ニックネーム)に過ぎない。その本質は、“基盤”にこそある。全ての中核となるべき『子宮』を、人工再演することに挑戦しそして失敗し続けている試験体。人形を超えた天形(あまがつ)それを更に超える“世界形(あまらがつ)”を目指す、仮想現実機構(シミュレーション)あらゆる要素と文明と技術、そして可能性を内包することを目指して作られたモノ。九なる無窮の迷宮、すなわちこの人造『浄界』そのもの。つまりボクは、この工場都市そのものなのさ」

 

「ど、どういう…?」

 

聞き慣れない用語ばかり話されたせいで、まだよく分かっていない聞き手を前に、工場都市の端末(インターフェイス)は気楽そうに説明を続ける。

 

「これまでボクは、既存の枠組みからはみ出すもの――特異体(バグ)を集めて組織していた。その目的は、そいつらを枠組みに新たに組み込んで枠組みそのものを『更新(アップデート)』させること。そこまでは話したね。これは、その『更新』を行っている“主体”が、その枠組みそのものだという話さ。つまりは、それがボク。ラクルラールのためだけに存在し、進化し続ける小世界(システム)なんだよ。要は、キミたちは工場都市に役立つ新たな資源として、工場(ボク)に発見(スカウト)されたのさ。ちょうど『猫の国(いせかい)』における『新大陸』のようにね。そしてその存在は、文字通り全体のための素材にして財産――『人財』として扱われる。これも資本主義の用語で言えば、企業労働組合と同じさ。反逆組織の幹部は企業上層部の協力者となり、やがてそれまで抗争(やおちょう)を演じていた当の相手であるその『上』へと昇進し取り込まれる。かつての反体制(ゲリラ)は、次の憲兵(たいせいのいぬ)となる。そうして、ラクルラール工場都市(ボク)という小世界は、新陳代謝(しんちんたいしゃ)を繰り返していくわけだ」

 

最初から仕組まれていた。

この地下で開かれていた秘密の集まり、工場都市(ラクルラール)に反逆する『革命(レビュー)』自体が、既(すで)に一つの大きな罠だったのだ。

 

「そ、そんなぁぁぁー!」

 

衝撃は驚愕にそして思考停止と疑問を経てまた絶望へと至る。

 

一度は完全に信奉し、己が命まで捧(ささ)げようとしていた対象に裏切られた者の叫びが、再び地下会場という牢獄に木霊(こだま)していった。

 

 

 

 

 

 

 

そして場面は、また『現実』へと戻る。

 

「ほら、やっぱり。夢でも追い込まれているではありませんか。どうします?このままではあっさり負けて、あの部屋に取り込まれてしまいますよ。そうなれば、貴方の自我も何も残りません。進むべき道を受け入れる決断の猶予(ゆうよ)は、もうあとわずかですよ」

 

死の魔女は、絶望に染まった画面(ユメ)を見ながら楽しそうに語った。

 

「どうしろと?」

 

苛立(いらだ)つラリスキャニアに、冷たい声は更に告(つ)げる。

 

「私に味方しなさい。それ以外に、あなたに勝ち目はありません。もし、あのお馬鹿さんが勝ち、完全にここを、アイドル空間を支配してしまえば何もかも終わりですよ。だから、後はただ残された道を進むべきなのです。悔(くや)しくても辛くても、次善の選択を選ぶしかないときはありますし、それでも生き抜けばそれ相応の幸いを掴(つか)むことだって出来るのですから…」

 

けれど、聞き手は不遜(ふそん)にも言い返す。

 

「それはどうでしょうか?

まだ勝負か終わってもいないのに、もう降伏勧告ですか?」

 

その言葉は、少なからず死の魔女に苛立ちを与えたらしい。

次に彼女から放たれた声音(こわね)には、明らかにそれが現れていた。

 

「ここからどんな逆転のチャンスがあると?」

 

その言葉は、呪詛(じゅそ)そのもの。

それは、死臭を帯びた風となって聞き手を苛(さいな)む。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。