幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
けれど、
「それはもう、お伝えしたはずですよ」
それでもその問い返しに地下アイドル“たち”ははっきりそう答えると、柔らかな笑顔を保(たも)ち続けた。
それに対し、
「何のことですか?私にはさっぱり…」
そう言いながら、人面樹は器用に小首を傾(かし)げてみせた。
いかにも可愛らしく、どこか上品さを感じさせる仕草(しぐさ)
けれど、その動作と同時に彼女の下側からはたちまち悲鳴が漏れ出し、残酷な背景音楽(BGM)となって、その全身を彩(いろど)る。
それはつまり、本来の『本体』たるシナモリアキラ触手にとって死女神(ディスペータ)触手のその挙動(きょどう)は…背中にねじり上げられていた"彼の"左腕がさらにねじられた/拷問が倍加したことを意味すると言う、明白な証拠であった。
死の女神は、苦痛と犠牲の上に屹立(きつりつ)している。
それも、彼女に最も身近で、世界で一番愛しているはずの、そんな相手の苦痛の上に。
だが、そんな恐ろしい彼女を相手にしても、地下アイドル“たち”は変わらずためらいなく向き合った。
「では、ここでもう一度宣言しましょう。
貴方に、そして貴方がたに。
勝利してみせる。
そしてそのために…」
そして“二人”は、一瞬力をため、力強く言い切った。
「“助っ人を呼びます”と!」
けれども、その宣言には即座に反論が飛ばされる。
「でも、それはもう失敗したではありませんか?貴方の出来の悪い分身による“場(げき)の零落”にしろ、他の地下アイドルたちの召集にしろ、ラクルラールの優勢を覆すには至らなかった。それとも、まだ続きがあると言うのですか?とは言え、現在の機械女王は、祝祭の準備でてんてこ舞いのはず。
彼女が踊れる唯一のダンスに集中している間は、とても貴方の手助けなどに手を割(さ)けないと思いますが…?」
そう語り、意味深な含み笑いをする人面樹触手。
その正面、地下アイドルの背後に展開されている大画面(モニター)には、浜辺でそして地下会場でそれぞれ取り囲まれている地下アイドル“たち”の 姿があった。
前者は銃を突きつけてはいるが…同時に、更に強力そうな機関銃や杖を持った警備員たちに包囲され、その優位は完全に逆転されているようだ。
一目見れば、誰でも分かる。
全ての“部屋”において、“夢のラリスキャニアたち”は致命的に不利な状況(チェックメイト)に置かれている。
敗色は濃厚であり、まさに絶望的な状況。
しかし、そんな情景を目の当たりにし、過酷な『現実』を突きつけるような対応をされてもなお、
「いいえ、肝心な賓客(メイン)は、まだおいでになっておりませんよ。貴女の言う“茶番劇”は、まだ前座すら終わっていない。"ボクら"は、勝ちます。たとえ貴女たちでも、いいえ誰が相手だろうと、絶対に勝ってみせます。あの、大事な助っ人(サポーター)さえ来ればね。そしてそれは、貴女がよく知った人物なのですよ」
地下アイドル"たち"は、不敵な態度を崩さない。
そして『ラリスキャニア』はそう語ったあと、今度は自ら夢世界との接点を指し示した。
画面(スクリーン)に映されたそれは…
※
※
※
失敗した。
けれど、派手な徴(しるし)は何も無い。
静謐と不在、それこそがこの事態の異常性を物語っている。
まず手始めは、不発。
それぞれ一斉(いっせい)に発射されたはずの、銃器の射撃失敗(ジャム)
しかも、それだけでは終わらない。
それを皮切りに次々と不調(バグ)が発生し、工場都市全体にトラブルが多発する。
あらゆる部署からトラブルの報告が殺到し、瞬(またた)く間(ま)に全ての連絡回路が飽和(パンク)する。
混乱したオブライエン――工場都市の端末にして特上級正社員は、大声で叫んだ。
「なんなのだ!一体何が起きている!」
「分かりません!
みんな端末のアプリもまともに起動しないようです!」
動員されていた警備員たちは、大パニックに陥る。
なにしろ、この都市の全機能は端末とアプリに依存しているのだ。
それらの支援(サポート)が無いと、彼らは武器の呪術錠(ロック)も外せないし何をしたら良いかすら分からなくなる。
思考力の全てを機構(システム)に頼った“完璧な兵士”たちは、機構に不測の事態(トラブル)が発生したが最後、共倒れしてしまうのである。
しかしそれでも、冷静に行動することを忘れなかった者も中にはいる。
彼らの現場指揮を担当している人形(たんまつ)であり、何重にも安全装置(セキュリティ)が重ねられた、工場都市の人工知能システム。
それもやはり、あの地下会場の元指導者・オブライエンであった。
「ええい、もういい!
啓示(ヘルプ)担当を呼び出す!」
そう叫ぶと“彼”は、緊急時専用回線と上級アカウントを用いた、最優先呼び出しを発動する。
端末を介して監視網(パノプティコン)のその向こう、監視員がいるはずの先へ呼びかけたのだ。
そこには、この工場都市でも特に選りすぐられた社員が待機している。
それは最後の頼みの綱であり、最も優秀で訓練(ちょうきょう)された選抜民(メンバー)だ。
“彼ら”ならば、例(たと)え何があってもどうにかしてくる。
そして万が一、手に負えない事態が起こっていたとしても、こちらに信頼出来る正確な報告と打開の糸口を、必ずやもたらしてくれるはずなのだ。
はたして、答えはすぐに返ってきた。
それは奇怪な高い声を以(も)って、にあ、と返事を返してきたのだ。