幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
追い詰められた元指揮官は、叫ぶ。
「な、何者だ!いやなぜだ!
お前たちは、完全に支配されていた!
あの『時計部屋』での『思考麻痺』で思考を閉鎖(ループ)させられ、ただ命令に従うだけの操り人形(デク)に成り果てていたはずなのに!」
それに対し、彼女“たち”は、口々に答えた。
「“ボクたち”は密かに侵入し、増殖していた」
「密かに自分を取り戻し」
「潜入し」
「組織の中で、貴方方(ラクルラール)の体系(システム)の中に浸透し、反逆の機会をずっとうかがっていたのです」
そして、先程まで銃を突きつけられていた“元名工員”が最後にそうした輪唱をまとめ上げる。
「貴方の言葉でお返ししましょう。
言ってみれば“ボクら”は、『トロイの木馬』だったのですよ。
貴方は自らの手で、その身体(こうじょう)の中に毒(ボク)を取り込んでしまったのです」
れを聞いた相手の顔が驚愕に染まるのを見て、かつての“名工員”――すっかり自分を取り戻したラリスキャニアは、微笑(ほほえ)んだ。
そして彼女は、配信窓に向かって宣言する。
「まだまだいきますよ!
チャンネルは、そのまま!」
*
とはいえ、全ての場所で地下アイドルたちの破壊工作が成功していたわけではない。
一部では、不十分だったところもある。
例(たと)えば、砂浜(ビーチ)
氷山と熱砂を引き連れる豪華客船の『部屋』
ここでは、発砲自体は行えていた。
とはいえ、それでもしっかりと干渉(クラッキング)自体は作用しており…
結果として、蒼天の下にクラッカーの音が響き渡る。
それは、二重の包囲から放たれた重奏。
水着ラクルラールに突きつけられたものと、その“暗殺犯”を狙った警備員たちの銃口。
それら全てから、快音が鳴ったのだ。
破壊工作が行き渡り、あらゆるところから破滅が反響を返してくる。
仕掛け(トリック)は簡単。
二重の幻。
幻影呪符で銀盆に隠されていたはずの銃。
しかし、実はそれもまた偽装(まぼろし)だったのだ。
実際にウェイターが持っていたのは、禁忌の武器などではない。
それは、ただの三鞭酒(シャンパン)だった。
“彼女”は、“いかにも暗殺が行われるような状況(シチュエーション)”とそれらしい演技によって、祝宴用のクラッカー付きシャンパンを銃に見せかけていた。
なぜ老練の魔女たるラクルラールが、それを見抜けなかったのか。
それは、行使されたのが三重合成の『幻惑』だったからだ。
『幻惑』には複数の発動方法が存在する。
動きによる『幻惑』、周囲の“共同認識”あるいは“共同幻想”を構築する『幻域』そして、単なる呪符による光の操作、視覚的な事象の再演。
それら、発動方法複数の合成は、その観察者に入念な“罠”の存在を推測させ――しかしてその実、そこに害などは砂粒一つもありはしなかった。
ラクルラールは当然、相手の正体(フーダニット)も全ての罠の存在(ハウダニット)を見破ったが、ただ一つ“何故そんなことをするのか(ワイダニット)”だけは、見破れなかった。
それだけ手間をかけた偽装など、暗殺でも目的としなければ到底非効率(わりにあわない)からだ。
ここで、女教師の致命的な弱点が判明した。
彼女は、悪意と金銭でしか人を測れないのだ。
結果、暗殺銃撃への反撃としてラクルラールが密(ひそ)かに放っていた対抗呪文、つまりは非難と糾弾の嘘情報流(フェイクニュース・ )は、ただの悪ふざけに対して過剰な反応(リアクション)として放映・記録され…全ては単なる悪戯(ジョーク)に貶(おと)められた。
要するに赤っ恥である。
更に、映像窓や水着の投資家(ラクルラール)が見つめていた帳面型端末の映像枠(ワイプ)でも、工場都市におけるラリスキャニア“たち”の反乱の光景がつぶさに映し出されていた。
日々の過酷な業務の合間にひそかに広がるバンド活動、布教されていくアイドル概念。
失われたはずの相方同士は、食堂の鏡が破られたことによって再会。
"彼女たち"は、独特のお色直し(ドレスアップ)を重ねることによって、拝借した退職金代わり(しょうひん)の花嫁衣装を魔改造。
それにより、見事“対ラクルラール特製ドレス”の『創造』に成功した“二人”は、『工員(ハグルマ)』概念と『花嫁(ざいさん)』概念の呪縛から同時に解放され、そのまま“特に初めてでもない共同作業”に突入。
ドレスに集った反ラクルラール呪力によってがらくたを寄せ集めた(ブリコラージュ)大砲を形成し撃ち放つと、それは、かつて第五階層で猛威を振るった『ワルシューラ』呪文弾となって見る間に全てを破壊していく。
更に、放たれ弾丸丸や破片は外の巨大な緑髪美少女に次々と吸収されていき、新たな資源(リソース)として再活用(リサイクル)されていく。
それは、古びた巨木を分解(ほしょく)する白蟻やキノコのような機能的で生命力に溢(あふ)れた破壊の連鎖であった。
栄華を誇った工場都市も、こうなっては壊滅も時間の問題であろう。
しかしその情景を目撃したにも関わらず、ラクルラールは平然とした態度を崩さなかった。