幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
「どうやら、我が都市の価値を下げようとしているようだが…無駄なことだ。株価を見ろ。どうだこの上り調子を。世間(とうしか)は、工場(ワタシ)の価値を冷静に把握している。我が商売(ビジネス)が完全に打ち砕かれない限りこの工場都市は不滅!我もまた同じ!そしてこのラクルラールがいる限り我が商売(ビジネス)も不滅なのだ!貴様らが何をしようがこの無限の循環(ループ)を破壊することは不可能なのだよ!」
そんな上機嫌な女社長に対し、ウェイターを演じていたラリスキャニアが、静かに声をかける。
「後で高く売るためには、株価は高いほうが良いですからね」
「なんだ気づいていたのかその通りだ」
真相を当てられたのがよほど嬉しかったのか、ラクルラールは、満面の笑みで語り出した。
「その通りだ会社は売り飛ばすもの!経営などそのための過程(じゅんび)でしかない!いや売れなければどんなものにも価値は無い!他人に欲望され所有権が移行する可能性があるからこそそれは売買の対象となり更に欲しがられその価値を確立していくものだからだ!“会社は家で社員は家族”?“三方よしで地域に貢献し従業員の福祉を図る企業の社会的責任”?くだらんな全ては金銭価値交換可能性こそがあらゆる経営者の目指すところであり究極の終着点なのだほら見るが良い!」
そう言って水着社長が指差したその先には、一台の豪華な箒が停(と)められていた。
この南国の気候を再演している“部屋”にあるにも関わらず、そのカラーリングは艶(つや)のある黒に塗られ、その角張(かくば)った形状(ふぉるむ)は、威厳ある雰囲気を醸し出している。
一目で、有名な高級箒ブランドの品だと判別出来た。
あれは、その頑丈さから、資産家やマフィアに大人気なことで知られるメーカーの製品に間違いないであろう。
それを誇示しながら、女社長は話を続ける。
「お前は地下アイドル活動にどれだけ資金を浪費した?工員になってからはさぞやその給与を投資して増やしたことだろうな?おやなのにお前は資産家のように見えないなまさかまだ貧乏な被雇用者(はたらきばち)のままなのか?見ろ、あの誰もが羨(うらや)む高級箒の輝きを!我がラクルラール社に投資していれば、今頃あの箒が買えたのだぞ!自分専用のドーム会場でも余裕で手に入ったはず!今そうなっていないのは利益最優先の行いをしていなかった怠惰(たいだ)せい!このラクルラールに全てを投資しなかったツケだ!どうだ反省しろ後悔しろ泣いて土下座して詫(わ)びるが良い!」
高級箒を用いた示唆(アリュージョン)、つまりは購入可能な『地位』の威光を背景(けんい)として、威圧を込めて放たれる猛烈な弁舌。
だが、暗殺者はそれを同じく指差しによって切り返す。
「貴女のやり方ではそれは不可能です!見なさい、あの環境破壊を!あんな世界全体の負債(マイナス)を生み出すような経営が、正しいと強弁なさるおつもりですか?あれほどの破滅的な有様では、たとえ何を買ったところで自滅は免(まぬが)れないでしょう!」
暗殺者・ラリスキャニアがそう指摘した通り、空が抜けるような青天であるにも関わらず、海は黒く泡立ち赤い雷や低級の泡魔(バブルエネミー)を無数に生み出し続けていた。
深刻な呪術産業の副作用、典型的な呪波汚染の影響である。
それを受けて、批判は更に続く。
「それに貴女の給与体系は、社員の福祉や貯蓄に全く配慮していない!働かせているのも、ほとんどが請負や派遣、良くてパート。しかも正社員ですらろくに残業代が払われず、計算すればバイトより時給が下回る始末。きちんと家族を養い、家族の介護と自分を含めた教育に充(あ)てられるだけの金額でなければ、投資どころか生活すら早晩ままならなくなります!しかも、貴女が推奨しボーナスや備品の支給代わりに用いているあの『ガチャ』にしても、国によっては依存性が高い違法賭博と判断されるのではありませんか?貴女の利益最優先のやり方はただの利己的な独善主義(エゴイズム)に過ぎません!即刻の待遇改善とそれを加味した慰謝料込みの退職金を要求します!」
「フン、何を言うか!」
ラクルラールは、鼻息(を擬装した『空圧』呪符演出)も荒く、ノートパソコンから無数の幻影を呼び出し声高に語る。
「待遇改善だと?愚かな!自分の待遇は自分で変えろ!自己資本比率の高い会社を起業してな!仕入れ顧客備品機材そして労働者(じゅうぎょういん)!ありとあらゆるところで経費を節減し利益を無理矢理にでも搾(しぼ)り取らなければ富など得(う)るべくもないし歴史に残るような大社長には到底(とうてい)成り得ない!それに介護や教育だと?そんものはなあ採算に合わなければ切り捨てるべき無価値な余剰(ゴミ)だろう。利己主義と独善が悪いと言うのか?馬鹿馬鹿しい!それらこそ効率と進歩をもたらす暴力(エナジー)の源ではないか!英雄と呼ばれるような連中はな皆暴力によって名を挙げてきたのだ!密林の王者やその弟子が毎日家事や妻のマッサーに励(はげ)む光景を見たことあるか?武術の達人や歴戦の兵士が南国で孤児の少年を拾ったからとこれを育てたり部下と一緒に掃除を趣味として楽しんだりするか?遺跡から発掘した伝説の兵器を洗濯や家畜の輸送に使うような馬鹿なんて未来永劫現れないことだろう!ましてや追放された勇者が自ら他人を支援(しえん)する畜獣(マスコット)に身を落としたり兵器として育てられた英雄がかつての敵と共に子供の世話をしたり新しい生き方を学ぼうとするわけが無い!そうだ!英雄とは男性性(マチズモ)と資本主義(ビジネス)の極致!掠奪(りゃくだつ)と暴力の化身であり市場に生きる経済人(ホモ・エコノミクス)の唯一の規範(モデル)!その振る舞いを見習う以外に生きる道などあり得ない有り得ない話ばかりだ!」