幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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239話 工場の策動⑱そして更に その2の87の途中まで

実に簡素で、いかにも稚拙。

けれど同時にそれは、単純であるがゆえに無視出来ない“誘引力”を持つ『呪文』であったのだ。

社長ラクルラールは、そして配信窓の向こうの群衆(ギャラリー)は、これに惹(ひ)きつけられざるを得ない。

 

「なんだと!貴様、一体何を目論(もくろ)んでいる!」

 

「実に単純(シンプル)な話ですよ!“みんなボクらのファンにする”投資家も工員もみんなみんなです!やりとげるのです!あなたには出来なかったこと、あるいはもうあきらめてしまったことを!」

 

「何を言う!お前の言うことは全く理解不能だ!」

 

「もちろん、それを狙いました!この隙に“事態”は既に致命的な段階へと進ませていただいております!そう、全ての部屋で既に『革命(レビュー)』は進行しているのです…!」

 

途端に、破砕の音が響いた。

ガラスのような何かが、砕け散る音が。

空が、海が砕け、それぞれ透明な破片が飛び散ると共に、形ある何かの残骸が投げ込まれそれを追って高速でまた別のナニカが飛び込んで来る。

 

「貴様…!」

 

続いて、まるで氷山が割れるかのような、そんな軋みが響く。

 

その音源は、暗殺者のすぐ近くにあった。

ラクルラールの顔に、クレーターのように亀裂が走る。

それは、耳まで裂けた大きな口。

 

これまでより遥かに険しい表情を浮かべた、怒りの表情だった。

 

それに対し、反乱に参加していた地下アイドル“たち”は異口同音に告げた。

 

「「「貴方の造った経済システム、短期的な利益しか考えず非道ばかりを行う仕組みが、今まさに崩壊を始めているのです!」」」

 

そう、それはちょうど――

 

「「「南海の泡沫(バブル)のように!」」」

 

 

同時刻。

沈む。

深く、静かに急速に。

ただただ底へ、闇の中へと引き込まれていく。

 

沈みゆく旅程に同行するのは、並走者の如(ごと)く共に下降していく無数の遺物(がらくた)

既に文脈が失われたモノたちが、その悲しみを漂(ただよ)わせながら、競い合うように降下していく。

玩具(おもちゃ)、靴の片割れ、割れた瓶(ビン)、破れたコート、錆(さ)びついた旧型の箒…親子、上司同僚部下、遊び仲間、同郷学友、ご近所盟友顧客に取引先。

そこには、ありとあらゆる関係性に纏(まつ)わる悲劇があった。

 

そしてその中に、敗北し今まさにそこへ加わろうとしている地下アイドルが“一人”

彼女は、水中でその姿を揺(ゆ)らがせながらも、深き底への競争に導かれていく。

何もかもが破滅へと向かうように見える、そんな情景。

だが、そこに違和が生じる。

何一つ生命の気配も動くものも無いこの水の中で、透明な何かがきらりと輝いたのだ。

停滞が破れ、調和と静謐が脅(おびや)かされるその時、“彼女”の目蓋(まぶた)が少しずつ動き出す。

反撃の気配は、“水と空気の部屋”にも確かに訪れ始めていた。

魔女が紡(つむ)ぎし魔海の底から、小さな光が立ち昇(のぼ)っている。

そしてそれは、小さく輝く泡(あぶく)となって、観の中にある全てに逆らい進み出す。

 

そのわずかな、しかし確かに存在する光だけが、諦観とは異なる可能性、絶望とは相反する方向性を指(さ)し示していた。

 

すなわち『上』

 

小さな光は、生命の先触(さきぶ)れであり…それはまぎはもなく、希望そのものであったのだ。

 

 

 

水底へと沈みゆく途上で、気がついたことがある。

 

ここにはさまざまなモノがあり、それらからはありとあらゆる思いが伝わってくる。

母から子への愛、子から母への思慕(しぼ)かつて新しく流行の品だったモノへの喜び、古びて流行(はや)らなくなった品への絶望と悲しみと諦観、完成の記憶。

それらは、さまざまなな呪力(ミーム)

つまりは、ヒトビトが己から切り離し明日へと進むためにモノと共に捨てていった思念の残滓(ざんし)だった。

 

だが、それらに取り囲まれ共に廃棄物(ゴミ)として『沈澱』しつつある地下アイドルは…そうしているうちあることに気づいたのだ。

なんだろうか、ここには無いものがある。

 

ここにあるモノ、廃棄物やそれにまつわる思いの集積は、一つの方向性を明確に示している。

すなわち『上下』

沈降という不可逆の進行は、縦に連なる一つの『軸』としての流れを、これ以上なく表現していた。

もう戻れない『過去』『輝かしい思い出』に位置付けられる『上』こそが貴(とうと)く希少(レア)とされ、その真逆、現在でありやがて全てが行き着く『未来(さき)』たる『下』は、凡庸(コモン)で無価値な“劣化”に過ぎない。

そうした“位置付け”あるいは『序列』がこの場からははっきりと感じ取れるのだ。

 

けれど、その論理には回収しきれないもの、そんな“輝き”も、あるいはこの混沌とした世の中には存在するのではないだろうか。

少なくとも、『ラリスキャニア』には、なぜかそのことが強く確信出来た。

 

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