幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
「こ、これは……」
ラリスキャニアは、そこに、恐るべき怪物を目撃した。
怪物は揺れている…と思ったら足が震えていた。
揺れていたのは、自分だった。
がちがちうるさい音がすると思った。
ずいぶんうるさい竜だと思ったら…それは自分の歯が鳴る音であった。
ああ、そうだ。
言い訳のしようもなく、ラリスキャニアは…恐怖していた。
知らず識らず、言葉が漏れ出た。
「アレは、アレは、あの時の怪獣……」
「ああ、なるほど。なんでそんな呼び方をするのかと思ってましたが、直接名前を呼ぶことが出来ないんですね。怖くて」
「……ぐっ!」
期待していなかった返答に、思わず地下アイドルは黙り込んでしまった。
もし、ネット百科に"痛いところを突かれた"人物のイラストを載せるなら、そんなものは今、すぐに用意できるに違いない。
それは、そんな有様だった。
ひるんだラリスキャニアを前に、悪魔(アキラ)の左腕は、堂々と宣言した。
「再演・【魔竜レーレンターク】劣化版。そこの地下アイドルさん程度の粗雑な再演で良いのでしたら、今の私にだって余裕でこなせますよ」
「むぐぐ……!」
勝ち誇る左腕の魔女を前に、ラリスキャニアは、ただ立ちすくむことしか出来ない。
本来は、彼女こそがこの場の支配権を握っているはずなのに。
左腕(まじょ)は、語る。
「しょせん、この世は悪意溢れる超越者たちが演出する残酷な喜劇(ファルス)に過ぎません。こうした人形劇にしたところで、その原型は単なる家庭内暴力の戯画化(カリカチュア)だったのですよ。妻に暴力(パンチ)を振るうためだけに設定された夫。殴られる様を笑われるためだけに舞台に上がる妻。座る瞬間に椅子を取り上げたり、人の欠点や悪口を連呼したり。表現(エンタメ)というのは、常に悪意に満ちていますよ」
「そ、それはそうだ。だが…!」
恐れながらも、その言葉にラリスキャニアは反論しようとしたが、それはまた別の"人物"の言葉によって遮られた。
「それは、お前も同じだろ」
悪魔(アキラ)触手。
"彼"の魔女への対応は、冷静(クール)そのものだ。
それは、相手が恐るべき竜の姿をとっていたとしても、変わることがない。
先程から震えを止めることが出来ていない"本体"(ラリスキャニア)とは違う。
だが、竜(まじょ)は、そんな冷たさすら一顧だにせず言葉を続けた。
「ええ、その通りです。だから――だから私も超越者になったのですよ、アキラ様」
「……な」
そして、それに続く言葉も気負いなく、ごく自然に放たれた。
「アキラ様、貴方を愛しています」
「いきなり何を…」
「いきなりではありません。ずっとずっと……もう私自身ですら覚えていないほど前から、それは変わりません。私は確かに貴方を弄びます、隠し事もします。嘘だってつきますし、こうして責め苛むことですらよくやるでしょう。しょせん私も残酷な超越者の一柱(ひとり)、それは否定しません。でも、私は、貴方を誰よりも愛しています。この世界には、他にも強大な力を持った超越者が何柱(なんにん)も存在しますが――私はその誰にも負けません。たとえ負けたとしても、貴方は、貴方だけは、誰にも奪わせた
りしません。貴方を、誰にも渡しはしない――アキラ様、あなたを愛しているのです」
突然始まった魔女の長広舌は、極めてシンプルな言葉によって締めくくられる。
その純粋な愛の言葉(メッセージ)は……その場の空気をただひたすらに重くしていた。
あまりの重さに黙り込む悪魔触手(おとこ)
言いたいことを全てぶち撒け、満足気に微笑む左腕(おんな)
だが、そんな殺伐としたカップル空間に、容赦なく踏み込む向こう見ずが、ここに現れたのである。
それは、言うまでもなく――――
それは、ちょうど悪魔(アキラ)の左腕(ディスペータ)が、決定的な行動に踏み込んだ頃合いであった。
「私はここに『誓約』します。病める時も貧しき時もアキラ様の意向や他のいかなる関係にも関わらず、貴方にどこまでも追随し、捕縛し、暗闇の中につなぎ留めることを」
「待て、俺の意向は無視なのか」
「ええ、私の行動(じゆう)は、私が支配します。私のモノは私とアキラ様のモノ。そしてアキラ様も私のモノなので、結局全て私のモノですね」
「自分勝手(エゴイズム)が過ぎるぞ、その理屈…」
そう、ちょうどその時だった!
「そこまでだ!倦怠期か別れ話のもつれかは知らないが、茶番(ラブコメ)はそこまでにしてもらおう、そろそろ舞台の権利を返してもらおうか!」
その時、それまで立ちすくんでいた"興行主"地下アイドル・ラリスキャニアが、向こう見ずにもカップル空間に割り込んで来たのだ!
「誰がラブコメキャラだ」
だが、その"乱入"は、あまり歓迎されていなかった。
即座に本体(ラリスキャニア)の言葉に反論する悪魔(アキラ)触手。
「お前だ」
「アキラ様ですね」
「僕はてっきり、アキラさんは、そういうのが好きな方なのだとばっかり…」
「お前もか天使(レオ)触手!」
とは言え、だからといって別に悪魔(アキラ)触手の意見が支持されているというわけでも無かったようだ。
無情である。
場の全員から総ツッコミを受けた悪魔(アキラ)触手はなんだか落ち込んでいたが、みんな無視した。
今は、とりこんでいるのだ。
そう、今こそ、役者(まじょ)と座長(まじょ)の対決の時。
この場の"座長"にして"興行主"たるラリスキャニアが、勝手に独壇場を演じている左腕(やくしゃ)に立ち向かい、この舞台袖の主導権を取り戻さんとしている場面なのである!