幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

240 / 272
240話 水と風と① その2の87~88の途中まで

それは例(たと)えば、この第五階層を統(す)べる奇妙な主従の相互の『使用』関係。

または、どうしても思い出せないが記憶の奥底に眠る白であり黒でもある美しい導き手、光に満ちた通ったことがない学舎で出会った誰かさん。

そしてはたまた、今も『現実』で解除困難な絡(から)まり合った関係性でもつれている身体性の紀人とその左腕の魔女のように。

 

いやそうだ、そんな特殊なものばかりを論(あげつら)わなくても、そもそもニンゲン、いやあらゆる“もの”との関係自体が、本来そういうものなのではないか?

愛憎、善悪、美醜に流行(はや)り廃(すた)り。

それら全ては、表裏一体であり、あるいはもつれ合い絡まり合って切り離し難(がた)いものなのでは?

 

もしそうなのだとしたら…あの元学院長の掲(かか)げるような数値化と金銭換算、絶(た)え間ない上昇志向は、やはり歪(いび)つで限定された価値基準に過ぎないのではないだろうか。

 

そう、きっとこの世には『上昇』や『光輝』以外の価値や意義が、ちゃんと居場所を持って確かに存在している。

 

思えば、地下アイドル“たち”自身こそがその『生きた証拠』そのものではないか。

なにしろ今ここに沈みゆく“彼女”は、『夜の民』

『杖(かがく)』的には『夜』や『闇』は“存在しない”ものだとしても、『感覚(じゃし)』的には、それは確かにここに存在する。

だって、感じられ影響を与え合えるものが“存在しない”なら、この世の何が『存在している』と言えるのだろうか。

地下アイドルは、そうした『価値』を信じる。

いや、たぶんそれ以上に自分がそれと切り離せない、切り離されていないことを『実感』していた。

その身体の"一方"を包む『陰』のドレスも、それを教えてくれるが…

なにより、それ以前に彼女は、その『虚無(マローズ)』を、前世からずっと知悉(ちしつ)していたのだ。

それは言わば…『負の価値』とでも言うべきものではないだろうか?

 

そして、もしそれが本当に実在するのであれは…その“地点”に届くためには、ほんの少し証拠が、確信に至るだけの認識(じゃし)さえあれば、それで足(た)りるはずだ。

それには、本当に少しで良い。

一目見られれば、いや一言聞ければ、いやいや一瞬だけそれに“触れた”ならそれで十分間に合う、そのはずなのだ。

だから、『ラリスキャニア』は、それに手を伸ばした。

無音の闇の中、寒く触覚が鈍(にぶ)るこの水中で、それでもなおも全てを変える希望を、『闇(ひかり)』を求めて。

 

しかし、あと少しで指が届かない。

水流に邪魔されて、手が一定より上に伸ばせないのだ。

もう少し、あとちょっとなのに…

 

そうこうしているうちに、意識は薄(うす)れ、気は遠くなっていく…

 

 

 

 

風が吹き荒れる。

うなりを上げる空気。

そのねじれには、明確な中心が存在していた。

それこそは、色違いのスカーフを巻いた女性たち、その腰に巻かれしベルトの巨大な飾り(バックル)

この巨大な、地平線すら見えるような広大な部屋を支配する強風は、全てそこから発生しているのだ。

それは呪的な発電機構であり、同時に派手な興行(エンタメ)によって呪力を生産し続けると言う、擬似的な『第二種永久機関』なる『杖』の神秘であった。

 

そして、そうしたエネルギー生産はもちろん経済であり、利益となる。

誰の利益に?

そんなもの、答えるまでもない。

ラクルラール電気、ラクルラール工業、ラクルラール整備。

ラクルラール、ラクルラール、ラクルラール。

全ては皆等しくラクルラールのために。

双子のようにそっくりな美女たちは、皆ラクルラールの端末であり、その偉業は残らずラクルラールの成果となる。

そしてその成果は威光へと繋がり、すなわち呪力となって、更にその行いを偉大なものへと高めていくのだ。

一分も隙(スキ)が無い、完璧な機構。

 

だがしかし、それも視点を変えより広い視野で捉(とら)えると、少し様子が違った。

彼女たち『台風の目』の外側には、それとは異なる風、言わば『逆風』が巻き起こりつつあったのだ。

それは、疾走する“ニつ”の影。

まるで運動会か何かのようだが、おそらくこんな走り方はどんな競技にも、いやどこの文化も存在しないであろう。

なんとなれば。

“二つ”の影は、右と左、真逆の方向を目掛けて疾走し、しかして幾度も合流しすれ違うばかりだったからだ。

これでは、先頭も追い抜きも定義は不可能。

 

故(ゆえ)に、『台風の目』として固まって立つラクルラール人形たちは、声を揃えて嘲笑する。

其(そ)が行うは、無意味な堂々巡(どうどうめぐ)り。

見よ、そこに勝敗も序列も無く、交差する疾走はお互いの軌跡を掻(か)き消しあう相殺の形。

そんなモノに価値も結末(せいこう)もありはしないと、やんややんやと呪文で責め立てる。

 

だが、そんな呪いは走者“たち”には届かない。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。