幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
まず、彼女“たち”が巻き起こす風は、確かに一部は打ち消し合っている。
だが同時にその人工的な気流は、現在進行形で二重の『空圧(エアカーテン)』となり、人形たちの“台風”を押し留める“防壁”の役割をこなし続けてもいるのだ。
言わばそれは、部屋の主“たち”が、一つの方向(ベクトル)だけを押し付けることに対する、地下アイドル“たち”の必死の抵抗(レジスタンス)であった。
いかに強力な風と言えど、その流れにそぐわない気流をぶつければ乱されて当然だし、どれほど範囲に渡る攻撃だとしても、それを受け流すように遠ざかりまた迂回すれば、その威力を減衰(げんすい)させながら近づくことまた可能なのである。
ゆえに、“二人”は敵陣の周(まわ)りを走り続ける。
それはまるで、月に一度しか重ならない双子の衛星のように。
そしてもちろん、この動きが妨害や逃走だけで終わるわけがない。
そこには、それ以上の意味が、備えられていた。
そもそも、走る“二人”すなわち『ラリスキャニア』は『アイドル』なのだ。
ならば、それがやるべきことは必然的に限定される。
ほら、今も耳を澄(す)ませれば聞こえるはずだ。
切れ途切れでも、確かに世界に響くあの声が。
そう、アイドルが声を放(はな)ち、風に乗せて広く呼びかけるとなれば、その振る舞いの正体など決まっているだろう。
彼女“たち”の周りをとりまく無数の窓枠を見るまでもなく、それは間違いなく、現代呪術文明を象徴する個人発信メディアの現れであった。
すなわちそれは…
「「“『ラリスキャニア』のぐるぐる触手通信!”さあて次のコーナーは!」」
配信、『放送(ストリーム)』の発信であった。
地下アイドル“たち”は、世界に向かって声を発しながら、揃(そろ)いのマフラーを靡(なび)かせる。
その色彩は、ラクルラールたちと異なり、統一された単色。
血のような真紅。
そして、鏡映(かがみうつ)しのように走る“二人”は、ただ単に娯楽を放出しているだけではない。
つまりはこちらも一つの抵抗(レジスタンス)
この部屋の主“たち”が巻き起こす呪力(ミーム)の暴風、すなわち流行(トレンド)の台風への、伊達服長(ファッションリーダー)の名を以(も)って自認する彼女"たち"に対する飽(あ)くなき反逆、それそのものであったのだ。
そもそも、この“風の部屋”の支配者たるラクルラール“たち”は、ただ単に集団でぼけっと立っているわけではない。
模範(モデル)にとって立つことは、れっきとした表現(マジカルアピール)の一種である。
つまり、その振る舞いは、自分“たち”の美しさやファッション性を誇示(ひけらかし)するだけのものではなく、大企業の扇動力を表出(アピール)する宣伝行為でもあったのだ。
それは広告、それは威嚇、それは威圧、武威の放出。
そしてもちろん、価値(じゅりょく)の生産。
スポンサーとモデル、アイドル空間では一組(ワンセット)として扱われるソレを、ラクルラールは単独にてやり尽くす。
そこにはまさに、ラクルラールによるラクルラールのためのラクルラールが支配する“完全モデル王国”が顕現(リアライズ)していた。
けれど、だからこその『抵抗』(レジスタンス)なのだ。
『ラリスキャニア』“たち”の配信は、もちろんソレらへの対抗措置。
すなわち、野良ファッションショーである。
現在のラクルラールが、自分が零落し没落したことを逆手に取って、『逆襲する悪役令嬢』の呪力(ミーム)で世間の大気(くうき)に大渦を起こせば、地下アイドル“たち”は、短時間限定動画を連発して、その勢いとノリによって流行(トレンド)を更に塗り替えていく。
しかも、挑戦者“たち”には相手には無い武器があった。
その身体を躍動(いきいき)させる踊り、得意の触手ダンスである。
支援者たちの手によって簡略化され、解説・二次創作(さいえん)ダンス動画において想定される多様な民族(しちょうしゃ)ごとの最適化までなされたそれらの振る舞いは、まるで凶悪な疫病(ウィルス)のように、二種の伝達網(ネット)を通じて大(おお)いに拡散。
発信者が連鎖していく短時間動画は、その数を幾何数級的に増やしていき、その流れ(ストリーム)は嵐(ストーム)となって、ラクルラールたちの権威(ちから)を塗り替えていく。
この吹き荒れる疾風こそが、彼女“たち”の切り札。
“二人”のドレスは声援の風を受け、共に大きな光の翅(はね)を展開して青い蝶となっていく。
『ラリスキャニア』“たち”は、お祭り騒ぎが好きなネットの嵐(モード)に乗り、今まさに絶好調でノリに乗っていたのだ。
しかも、この場の権威として屹立(スタンド)する女王(クイーン)には、幾つか明確な弱点が存在した。
それは、
「分かってるんですよ、どれだけ攻撃的な強風を巻き起こしても、その中心だけは!」
「ラクルラール人形だけは、破壊出来ないんでしょう!!」
と、言うことであった。