幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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241話 水と風と② その2の88~89の途中まで

まず、彼女“たち”が巻き起こす風は、確かに一部は打ち消し合っている。

 

だが同時にその人工的な気流は、現在進行形で二重の『空圧(エアカーテン)』となり、人形たちの“台風”を押し留める“防壁”の役割をこなし続けてもいるのだ。

言わばそれは、部屋の主“たち”が、一つの方向(ベクトル)だけを押し付けることに対する、地下アイドル“たち”の必死の抵抗(レジスタンス)であった。

いかに強力な風と言えど、その流れにそぐわない気流をぶつければ乱されて当然だし、どれほど範囲に渡る攻撃だとしても、それを受け流すように遠ざかりまた迂回すれば、その威力を減衰(げんすい)させながら近づくことまた可能なのである。

ゆえに、“二人”は敵陣の周(まわ)りを走り続ける。

それはまるで、月に一度しか重ならない双子の衛星のように。

 

そしてもちろん、この動きが妨害や逃走だけで終わるわけがない。

そこには、それ以上の意味が、備えられていた。

そもそも、走る“二人”すなわち『ラリスキャニア』は『アイドル』なのだ。

ならば、それがやるべきことは必然的に限定される。

ほら、今も耳を澄(す)ませれば聞こえるはずだ。

切れ途切れでも、確かに世界に響くあの声が。

そう、アイドルが声を放(はな)ち、風に乗せて広く呼びかけるとなれば、その振る舞いの正体など決まっているだろう。

彼女“たち”の周りをとりまく無数の窓枠を見るまでもなく、それは間違いなく、現代呪術文明を象徴する個人発信メディアの現れであった。

 

すなわちそれは…

 

「「“『ラリスキャニア』のぐるぐる触手通信!”さあて次のコーナーは!」」

 

配信、『放送(ストリーム)』の発信であった。

地下アイドル“たち”は、世界に向かって声を発しながら、揃(そろ)いのマフラーを靡(なび)かせる。

その色彩は、ラクルラールたちと異なり、統一された単色。

血のような真紅。

そして、鏡映(かがみうつ)しのように走る“二人”は、ただ単に娯楽を放出しているだけではない。

つまりはこちらも一つの抵抗(レジスタンス)

この部屋の主“たち”が巻き起こす呪力(ミーム)の暴風、すなわち流行(トレンド)の台風への、伊達服長(ファッションリーダー)の名を以(も)って自認する彼女"たち"に対する飽(あ)くなき反逆、それそのものであったのだ。

 

そもそも、この“風の部屋”の支配者たるラクルラール“たち”は、ただ単に集団でぼけっと立っているわけではない。

模範(モデル)にとって立つことは、れっきとした表現(マジカルアピール)の一種である。

つまり、その振る舞いは、自分“たち”の美しさやファッション性を誇示(ひけらかし)するだけのものではなく、大企業の扇動力を表出(アピール)する宣伝行為でもあったのだ。

それは広告、それは威嚇、それは威圧、武威の放出。

そしてもちろん、価値(じゅりょく)の生産。

スポンサーとモデル、アイドル空間では一組(ワンセット)として扱われるソレを、ラクルラールは単独にてやり尽くす。

そこにはまさに、ラクルラールによるラクルラールのためのラクルラールが支配する“完全モデル王国”が顕現(リアライズ)していた。

 

けれど、だからこその『抵抗』(レジスタンス)なのだ。

『ラリスキャニア』“たち”の配信は、もちろんソレらへの対抗措置。

すなわち、野良ファッションショーである。

現在のラクルラールが、自分が零落し没落したことを逆手に取って、『逆襲する悪役令嬢』の呪力(ミーム)で世間の大気(くうき)に大渦を起こせば、地下アイドル“たち”は、短時間限定動画を連発して、その勢いとノリによって流行(トレンド)を更に塗り替えていく。

 

しかも、挑戦者“たち”には相手には無い武器があった。

その身体を躍動(いきいき)させる踊り、得意の触手ダンスである。

支援者たちの手によって簡略化され、解説・二次創作(さいえん)ダンス動画において想定される多様な民族(しちょうしゃ)ごとの最適化までなされたそれらの振る舞いは、まるで凶悪な疫病(ウィルス)のように、二種の伝達網(ネット)を通じて大(おお)いに拡散。

発信者が連鎖していく短時間動画は、その数を幾何数級的に増やしていき、その流れ(ストリーム)は嵐(ストーム)となって、ラクルラールたちの権威(ちから)を塗り替えていく。

この吹き荒れる疾風こそが、彼女“たち”の切り札。

“二人”のドレスは声援の風を受け、共に大きな光の翅(はね)を展開して青い蝶となっていく。

『ラリスキャニア』“たち”は、お祭り騒ぎが好きなネットの嵐(モード)に乗り、今まさに絶好調でノリに乗っていたのだ。

 

しかも、この場の権威として屹立(スタンド)する女王(クイーン)には、幾つか明確な弱点が存在した。

それは、

 

「分かってるんですよ、どれだけ攻撃的な強風を巻き起こしても、その中心だけは!」

「ラクルラール人形だけは、破壊出来ないんでしょう!!」

 

と、言うことであった。

 

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