幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

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242話 水と風と③ その2の89の途中まで

この巨大な“部屋”、ラクルラールの擬似『浄界』の中心で彫刻群あるいは『群舞』よろしく集団で固まる人形たち、それらこそまさに“生きた”ランドマークであり呪力発生源。

そして、全ての機構の『制御棒』とでも言うべき“要(かなめ)”であった。

だから、いかにこの部屋で猛風が吹き荒れようとも、その中央部だけはまさに『台風の目』

無風状態にある『邪視(まなざし)』/世界観の中核。

こここそが、ラクルラール人形“たち”の、最重要防衛拠点なのだ。

 

ゆえに、その攻撃するべき『弱点』に対し、地下アイドルたちは周回し円を描きながら、ずんずんと距離を詰めていく。

言い換(か)えるなら、それは凸撃(とつげき)コラボの敢行(アタック)

配信によって自分“たち”のペースに巻き込む『呪文(ぶんみゃく)』『杖(しんたいせい)』『使い魔(かんけいせい)』の三種複合戦術であった。

 

また、こうした芸能系の戦いにおいては世間に知られ、知名度を蓄(たくわ)えた人物の接触は、それを拒絶した方が敗者(よわい)とされる。

だからこれは、成立した時点で回避不能の絶対命中攻撃なのである。

そのため当然、この時この話題(ハッシュタグ)のバズ度は最高潮を迎えていた。

全ての観客(ヤジウマ)が、その結果に注目しているのだ。

 

しかしこれまた当然、ラクルラールがそれを見逃すわけもない。

 

「だが、それも!」

「我々がお前たちを捕まえてしまえばすぐに逆転する!」

「格の差を思い知るが良い!」

「次の流行(トレンド)は、『残虐動画(リプシィ)』だ!貴様らの敗北の晴れ姿を、全世界に公開してやる!」

 

そして、彼女“たち”は手分けして、互いに逆走する“二人”をそれぞれ追いかけ始めた。

ラクルラール人形群は、中央部にたった一体の人形だけを残し、ほほ総力を挙(あ)げて敵手を狩り立てていく。

そのスピードは凄まじく、すぐにでも追いついて撃破に移るのは時間の問題と思われた。

いかに絶対命中の攻撃と言えど、放たれる前に逆に攻勢に出れば打消(キャンセル)は十分可能。

経験豊富なるラクルラールには、無数の選択肢と手段があり、未見の戦術にさえ即座に適応出来るのだ。

 

だが、しかし。

それは、何度めかの逆走の交差、その瞬間。

“二人”の稼働(アイドリング)に投入された切り札が、新たな疾風を巻き起こす!

これまで何度も同じ円周の動きを繰り返してきた地下アイドル“たち”は、ここへ来て初めて、全く違う振る舞いに出た。

“二人”は、それぞれ後続の走者集団となったラクルラール人形“たち”を引き連れたまま、真正面からすれ違い、そのまま交差するように跳躍(ジャンプ)したのだ。

そしてそのまま、箒星(ほうきぼし)のように虹色(プリズム)の輝きを撒(ま)き散らし、青い蝶はすれ違う。

 

だが、それに対応出来ぬ人形たちは、慣性に逆らえず正面衝突するしかない。

追跡者集団はそのまま、まるで先頭奏(走)者“たち”を祝福するパーティークラッカーであるかのように、派手な音を立てつつ相殺(そうさい)しあって壊れていく。

 

そして、その勢いのまま地下アイドル、いやもはや“天上アイドル”となった“二人”は、第五階層住人の特権『創造』によって空中に浮かぶ鍵盤(キーボード)の階段を創り出し、赤いマフラーをなびかせ、快音を立てながら走り抜けていく。

目指すは中央、この“部屋”の玉座。

あらゆる妨害なんのその。

今や踊りは走りで走りは音。

奏(かな)でる音は呪文(うた)となって、妨(さまた)げの全てを吹き散らす。

だからもう、“二人”の踊りは歌だった。

歌が苦手なアイドルが、奇策と工夫と努力の結果、ついに歌にて“頂点”に挑む。

つまりはこれは、そういう物語(サクセス・ストーリー)なのであった。

 

 

一方、水の底。

沈みゆくは、突撃をいなされ叩き落とされていく地下アイドル。

限界に遮(さえぎ)られあきらめようとした、その瞬間。

彼女は気づく。

 

「ここには、――の思い出の品だけがない!」

 

放送が響いたのも、まさにその時だった。

分厚い壁に遮(さえ)られていたはずの声が、水を震わせ伝わってくる。

 

そしてそれは、一つの気づきを生(う)む。

足りなかったのは、ほんの些細(ささい)な認識。

最後に必要だったのは、『言葉』の表現。

それは、不足を定義するだけでなく、行動の後押しとなり一歩前へ、明日(きぼう)へと手を伸ばすだけの力を与えてくれる。

それは虚(うつ)ろなる器、それは曖昧(あいまい)にして汎用的な道具(ツール)

ヒトとヒトが意志を伝え合うための、形無き『杖』

丁度たった今、ここにも響いてきたような、そんなごく当たり前の再演行為(くりかえし)。

外なる力、援護の声。

水中でさえその呪力を衰えさせないその振動が、牢獄のはずだった水域を自由な踊場(ダンスホール)へと瞬(またた)く間(ま)に変えていく。

巻き起こった新たな流れが、堕(お)ちていく水全体をもかき混ぜる。

 

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