幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】 作:鳳卵
ここで、前述の決着と名声の話が解説として活きることになる。
強大な『守護の九姉』と言えど嫌うもの、避けねばないものは、確かに存在するのだ。
『ラリスキャニア』たちは、これでも勝敗と序列(ランキング)そして名声の世界に生きる芸能の民の端(はし)くれ。
よって、ここで断言出来る。
それは間違いなく、不名誉という痛みに他ならない。
過去への干渉、やり直しもまた、彼女の名声に損傷(ダメージ)を負わせるものなのであろう。
そうとしか、考えられない。
たとえ余人(よじん)が知らないまでも、高い自負心(プライド)が犯した“失敗”の存在は、勝利の栄光という薔薇の棘(トゲ)のように、その当人を傷つけてしまうのだ。
おそらく、ラクルラールにとって心からの全力を出したはずの勝負をやり直すことは、それなりに自意識(エゴ)を損傷させる、経費(コスト)が高いことなのであろう。
更に推測を重ねるなら、干渉元がどれだけの未来から干渉しているかは知らないが、未来における“現在”の競争相手同士の対立も必ずや存在する、そのはずだ。
もちろん、ラクルラールがその未来(じだい)における絶対勝者(オンリーワン)であれば、その限りではないが…そもそも、本当に真の絶対勝者なのであればやり直しなどは最初から不要であろう。
戦いがまだ終わっていないのであれば、敵やライバルが自陣(アイドルたち)だけでないのであれば…例(たと)えあの魔女と言えど、経費(コスト)への配慮は決して欠(か)かすことは出来ないはず。
どれだけの技量や呪力を保持していようとも、『経済性』を見失ってしまえば、どんな反則(チート)も続けるわけにはいかなくなるのである。
とは言え、こちらの理由で再戦(ちゃぶだいがえし)を諦(アキラ)めさせるには、相手に完勝する必要がある。
そのやり方は、はっきり言って、今の地下アイドルたちには不可能であろう。
けれど実のところ、過去干渉者がやり直しを諦(アキラ)めるであろう理由、既存例から推測出来る要素はもう一つだけ存在する。
それこそが、一種の“痛み分け”である。
それが実は相手の“勝利”だったり、本命の獲得に必要な“過程”であるならば、一見しての“敗北”を強大な敵に受け入れさせることは、決して不可能ではない――少なくとも、理論上は。
例(たと)えば『地下』の幼年学校では、運動会や研究発表会で敗北側の演説(スピーチ)で“敗北こそが経験であり得るものがあった”と語らせたり、伝統系演劇(ロールプレイ)において複数の生徒が同じ役を同時に演じることがあるが…これはまさに、そのような類(たぐい)の話である。
多種多様な種族のちびっ子が『銀の森の少女』や『パーン・ガレニス・クロウサー』を演じることで(それぞれの保護者も含めて)全員がある程度の満足を得るように。
今では『下』の悪弊(あくへい)として悪名高(あくみょうだか)い“みんなで同時にゴールテープを切る”決着が、それなりに“円満な終着(ハッピーエンド)”を演出していたように。
あるいは、恋愛漫画で三角関係の敗北者にもしばしば新しい相手の恋が見つかる決着が描かれるように…ある程度の“旨味(メリット)”を以(もっ)て相手の“敗北”そしてこちらの“勝利”を演出することは、極めて凡庸(ゼオータイル)な、ありふれた手法に過ぎないのである。
そして、そうした“路線”へ話を運ぶためには、相手の弱点を、決して矯正(デバッグ)することが不可能であろう脆弱性(セキュリティーホール)を、突く必要がある。
さて、それで肝心な『守護の九姉』不死の半神、その恒久的な弱点それは何かと言えば…それは誰が見ても判(わか)るとおり…その傲慢(プライド)、そして承認欲求(めだちたがり)である。
要は地下アイドルたちは、相手が存分にその傲慢さを刺激され、充分以上に“これなら誰よりも目立てる”と思えるように、あの女教師を誘導しなければならない。
そしてまた、“試合に負けたが勝負に勝った”とも相手に思わせなければならない。
つまり彼女たちは、出来るだけ『劇的』な展開を演出する必要があるのである。
ここで一旦(いったん)、勝利条件を再整理しよう。
『劇的』はあくまで最低条件に過ぎない。
いかなることを『勝利』と呼ぶのか、目指す決着(ゴール)をどこに置くのか、まずそれこそが重要なのだ。
まずは基本。
アイドルとしての“比(くら)べ合い”による自陣営(こちら)の勝利。
かつてこの『地下アイドル空間』を、かつての『地下アイドル迷宮』を襲った悪夢(ラクルラール)の残滓(メモリー)に、完全に決着をつけ、跡形も無く消し去ること。
次に地盤。
誰も死なず、致命的なまでに“傷つかない”こと。
これも当然。
更に資源(リソース)。
現状の戦力(リソース)今持てる技術と味方だけで、いかにして格上(ラクルラール)に勝利するか。
そして、最後に止(とど)めの最重要項目。
今回の"興行主"が、全ての決着をつける『主役』を演じきること。
そもそもこれは、『ラリスキャニア』の『練習試合』である。
たとえどれだけ他の地下アイドルや第五階層住民の力を借りようと、そのことだけは変わらない。
それは、決して忘れてはならない約定(ルール)なのだ。