幻想再帰のアリュージョニスト二次創作「コルセスカさん変形する」【togetterでも投稿中】   作:鳳卵

269 / 272
268話 ちゃんこ⑨のアイドル道(レビュー)⑥その2の108の途中まで

そのまなざしには、絶大なる威圧感(おもみ)があったと言っても良い。

それは、逆らえぬ権威の抑圧(おしつけ)

いつか感じた、実家のような安定感(いきぐるしさ)であった。

周囲の闇が、こちらを取り囲み圧殺してくるかのように感じられる。

頭上の照明で照らし出されている足元以外は、真夜中のように暗い。

頭を下げ、うつむきの体制のままその闇を伺(うかが)っていると、その闇の奥底から誰かが自分の噂をしている囁(ささや)き声すら聞こえてくるような気さえしてくるほどだ。

石化に加え、重圧が地下アイドルの頭を押さえつけていた。

 

モニ子は、突撃を外した俯(うつむ)きのまま、視線を自分の手に落とす。

それは、ここまで追い込まれれば、もはや手でも見つめていじけるしかない、とでも言いたげな姿勢だった。

勝負を見守る視聴者たちは、配信窓の向こう側からため息をこぼし、少女の敗北を確信した。

嘆きや非難のコメントが滝のように流れ、無数の『炎上』呪術が『大砲』を焼こうとして逆に片端から弾かれ、次々と凍結(せきか)させられていく。

もはや、対決の行方は誰の目にも明(アキラ)らか…に思えた。

 

だが、彼女はそこで唐突に叫(さけ)んだ。

 

「そんなこと、信じません!」

 

「何!?」

 

「誰よりも親身になってくれた先輩が…右も左も分からない箱入(むち)だった私に、この業界の常識からメイクの仕方やネイルの相談に至るまで、色んなことを丁寧(ていねい)にアドバイスして下(くだ)さったじゃないですか!そんな優しい先輩が…あんな実家に、あんなひどい環境(ところ)に戻れだとか、地下アイドルを辞(や)めた方が良いとか言い出すはずはありません!」

 

「何を言う…そんなものは所詮贔屓(しょせんひいき)の引き倒し。自分にとって、都合の良い理想を押し付けているだけだ。モニ子よ、小鬼になりたいのか!」

 

この世界(ゼオーティア)において最も強くおぞましい非難、『小鬼との類似性の指摘』

完全に倫理的に禁忌であるはずのソレを受けてーーけれど少女は、ひるまなかった。

 

 

「いいえ、私は私のまま!地下アイドルの、『ちゃんこ9』の、そしてあなたの後輩のモニ子のままでいます!

これまでも、そしてこれからも!」

 

そして彼女は顔を上げ、前を向く。

石化の『邪視』を、真正面から受け止めながら。

 

その目は真っ直ぐに前を見つめ、その腕は一直線に天上へと伸ばされていく。

槍のように突き出されたその手の先には、スポットライトを反射して五つの爪が輝いていた。

それはまるで、星のように。

 

「ほう、目が石化されない…良いまなざしだ」

 

声の背後で、荒縄ような太い束の長髪(ドレッドヘア)が鎌首をもたげ、水を撒(ま)くような何かを擦(こす)るような音を立て続けていた。

そしてそれは、背景音楽(BGM)となって講評のような女性力士の言葉を際立(きわだ)たせていく。

 

「『邪視』(まなざし)を制するに同じく『邪視』(まなざし)を以(も)って応(こた)える。なるほど、それは基本にして奥義でごわす。けれど、それこそが最も難しい。何故(なぜ)なら、既に相手の『邪視』に対し形成不利(おしまけている)状況にある者がそこで更に配色濃厚な己(おの)が『邪視』に頼ったところで、そうそう逆転など出来るはずが無いのでごわすから。最も、それには一つだけ例外がなくも無いのでごわすが…」

 

そう語った途端、厳しい面(おもだち)に何故か憂鬱(メランコリィ)が過(よ)ぎる。

それに対し、対面の少女力士は片腕を高々と掲(かか)げたまま高らかに応(こた)えた。

 

「大丈夫ですよ、ご心配なさらなくても問題ありません。私が『小鬼』に堕(お)ちることはないのです。なぜなら――全て分かりましたから。先輩の心づかいが、そして、この“試合会場(どひょう)”がどう言うものなのかも!」

 

「ほう」

 

興味深(きょうみぶか)げに続きをうながす岩肌種(トロル)に、後輩は威勢よく返答する。

 

「それは、こう言うことです!」

 

彼女は、掲げた右腕を少し、少しだけ動かす。

既に石化して灰色になっていたはずのソレは、内部からの『邪視』いわゆる少女力士の“自己への確信”の干渉によって、ねじまき人形のようにぎこちなく軋(きし)み…辛(かろ)うじてその爪の角度を変えることに成功した。

星のように輝いていたその爪(ネイル)を。

 

それは、極めて微小な動作に過ぎなかった。

あまりにも、ささやかな抵抗。

けれど、その試(こころ)みは絶大な効果を及ぼした。

何故なら彼女は、この場唯一の照明、即(すなわ)ち、( スポットライト)の光を受けていたその貴石(ジュエル)の向きを変えたのだから。

 

即ちそれにより…光の土俵が、ねじ曲げられる!

 

「まあ、気づくだろう。それぐらいはな」

 

この変化を評するのは、暇(ヒマ)を持て余しているサウナ・ラクルラールだ。

彼女は、バスローブ姿のままさりげなく優雅に体操(ヨガ)のポーズを取りながら、試合(レビュー)の解説を始めた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。